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続報・北京の「未来の家プロジェクト」

回の本コーナーで紹介した、中国・北京で進む「未来の家プロジェクト」が反響を呼んでいる。地元・鹿児島ではテレビ局が現地取材を含めてニュース番組で特集し、新聞でも報じられた。本誌編集部にも、国産材中国輸出の可能性とからめて、問い合わせが寄せられている。そこで、遠藤日雄・鹿児島大学教授が、鹿児島県鹿屋市の輝北プレスウッド(株)本社を訪問、徳留弘孝・代表取締役社長に、プロジェクトの進み具合や今後の展望を聞いた。

躯体と外装は完了、一足早い施工ペース

  「未来の家プロジェクト」に参画している輝北プレスウッドは、今年3月の時点でモデル住宅の基礎を完成させていた。徳留社長に再会した遠藤教授は、まずその後の進捗状況を尋ねた。

遠藤教授
  「未来の家プロジェクト」の建設現場でお会いしてから、もう6か月がすぎた。現状はどうか。

徳留社長 
  躯体工事と外装は終わった。もうすぐ内装に入る。10月末に完成する予定だったが、他の9か国の施工ペースにも配慮し、今年末には完成させる。もう現場では、外観だけで「日本のモデル住宅は完成した」との声が聞かれる。

遠藤 
  なぜ日本だけ突出して早いのか。

徳留 
  プロジェクトへの参画手順が他国とは違っていたからだ。在北京の各国大使館を通じてプロジェクトへの参加を募ったが、例えばスペインの場合は、まずマドリード大学の建築専門家が現地を視察し、本国へ帰って参画の構想を練り、参加企業の選定に入った。そのぶん着工が遅れたという。弊社は、間髪を入れずにエントリーした。

先進の技術力を踏まえ、国産ムク材にこだわる

  輝北プレスウッドは、平成3年に設立された丸栄建設(株)グループの1企業として平成6年に設立された。丸栄建設は県内を中心にマンション、学校、公営住宅、1戸建、リフォームなどを手がけており、輝北プレスウッドはその研究開発部門という位置づけだ。国公立の試験研究機関や大学と連携しながら、新しい住宅建築構法を開発してきた。なかでも梁や柱などにLVLや集成材を使い、接合部に穿孔して異形鉄筋を挿入する木質ラーメン構法(RH構法)は建築業界で注目を浴びている。

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在来構法と国産ムク材を活かした日本のモデル住宅

遠藤 
  輝北プレスウッドは、RH構法をはじめユニークな構法をもっているにもかかわらず、「未来の家プロジェクト」にはなぜ在来軸組構法で参加したのか?

徳留 
  2つ理由がある。1つはLVLや集成材を使うとコストがかかること。

  もう1つは鹿児島県産のスギ、ひいては国産材の出番をつくりたかったからだ。在来軸組構法の柱や梁などの構造材にこだわったのもそのためだ。構造材は6mの梁(集成材) 以外はすべてスギのムクKD(乾燥材)だ。

遠藤 
  これから始まる内装作業はどのようにして進めるのか。

徳留 
  これまで付き合いのある松下電工、イナックス、アイカ工業などと連携して行う。

来年4月に各国のモデル住宅出揃う、日本に高評価

  「未来の家プロジェクト」で焦点となるのは、日本のモデル住宅完成後、中国での棟数拡大にどうつながっていくかだ。中国市場に国産材が参入する、文字どおりモデルケースになることが期待されている。

遠藤 
  前回お会いしたときに、「モデル1棟値千金」と指摘されたのが印象的だった。現段階で、モデル住宅現場の最終イメージはどのように描かれているのか。

徳留
  来年4月頃、2万坪の敷地に10か国のモデル住宅が出揃う。それと併行して同じ敷地に管理棟と建材館2棟が建設される。建材館にはプロジェクト参加国のブースが設置される予定だ。

遠藤
  「未来の家プロジェクト」の推進母体である未来之家置業有限公司の日本住宅に対する評価はどうか。

徳留
  評価は高く、次のステップ、つまり価格交渉の段階に入っている。先方は「日本の家はいいことはいい。問題は価格だ」という。いい家で価格もリーズナブルとなれば、これからの住宅団地開発に採用される可能性が高い。

団地開発など商機続々、現地生産で価格差克服

遠藤 
  当面のビジネスチャンスはどこにあるのか。

徳留
  未来之家置業有限公司の不動産部門の自社物件として、近々、北京市内に50棟のミニ団地の開発が予定されている。そこに各国の家が何棟食い込めるかだ。

遠藤 
  何棟くらい受注できそうか。

徳留 
  50棟全部狙う。可能性は十分にある。弊社は「未来の家プロジェクト」にリスクを覚悟で多額の投資をしてきた。出たからには負けられない。これを突破口にしたい。

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徳留社長(左)と遠藤教授

遠藤 
  ほかに引き合いは?

徳留 
  福建省泉州市から450棟の団地開発があるので、そこにモデル住宅をつくらないかという相談がきている。

遠藤 
  未来之家置業有限公司が指摘するように、価格が今後の課題だろう。その解決策はあるのか。

徳留 
  上海近郊に製材工場とプレカット工場を開設する予定だ。志布志港から鹿児島県産のスギ丸太を船輸送する。当初は、丸太500㎥(月間)の製材を計画している。製材機械一式も購入済み。大工の育成も課題だ。先日、沖縄県にお寺を建てた経験のある中国人大工の棟梁を鹿児島に連れてきた。腕がよく使える。配下の弟子を育成して在来軸組構法の技術を伝達したい。

遠藤 
  最後に、競争の厳しい中国の住宅・木材市場でここまで踏ん張ってこられたのはなぜか。

徳留 
  夢と希望。この2語に尽きる。これを実現するためにチャレンジしてきたし、これからもそうだ。

『林政ニュース』第302号(2006(平成18)年10月11日発行)より)

次回はこちらから。



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