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国産チップをどう活かすか―製紙業界のビジョン

木材自給率が20%台に回復し、「国産材復活」に手応えが感じられるようになってきた。一般製材に用いられる直材(A材)については、「新生産システム」に代表される安定供給体制づくりが進められ、短尺材・曲がり材等(B材)を合板や集成材に利用する流れも太くなってきた。残る課題は、製材廃材や林地残材などのC材(低質材)対策。そのカギを握るのが、国産チップの付加価値向上だ。そこで、日本最大の製紙会社である王子製紙(株)の神田憲二・資源戦略本部長(兼取締役)と、鹿児島大学の遠藤日雄教授に、国産チップを巡る今後の展望について語り合ってもらった。国際的な資源獲得競争が激化する中で、国産チップの将来ビジョンをどのように描くか、具体的な取組課題が示される。

急騰した輸入チップ、なぜ国産チップは連動しないのか

遠藤
 国産材需要量の約4分の1はパルプ・チップ用材であり、「林業再生」に向けて、国産チップの活用が大きな課題になっている。だが、国産チップは輸入チップよりも3〜5割安の価格水準に止まっているのが現状だ(表参照)。この価格差を縮めるにはどうすればいいのか。

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神田
 木材チップは、広葉樹チップと針葉樹チップに大別される。日本の製紙業界が使用しているチップの約7割は輸入チップだが、針葉樹に限ると、国産チップのシェアは半分以上を占めている。
 輸入チップの主体は、原木(丸太)を原料とする広葉樹チップで、それなりの生産コストがかかる。また、パルプ需要の高まりで国際需給は逼迫しており、値上がり傾向が続いている。それに対して、国内は針葉樹の製材廃材チップが主体であり、生産コストは低く、需給も安定している。これが国産チップと輸入チップの価格差にも反映しているのではないか。

遠藤
 それにしても、輸入チップ価格が昨年後半から急騰したのに、国産チップ価格が連動しないのはなぜなのか。

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神田憲二・王子製紙(株)資源戦略本部長

神田
 廃材を原料とする針葉樹チップの価格は、需給関係で決まる。国産の針葉樹チップは需要・供給ともに安定しており、価格の変動も少ないが、海外の針葉樹チップは価格の乱高下が激しい。例えば、昨年10月頃から、針葉樹チップの指標である米国西海岸のチップ価格(樹種はダグラスファー)が急騰した。米国西海岸のチップも、原料は製材工場から出てくる廃材であり、まず現地のパルプ工場で消費した後の余剰分が輸出されている。昨年秋のように米国の住宅着工数が減少し、製材工場の操業短縮などで廃材の供給量が減ると、輸出に回す分が足りなくなる。その中で、一定量の針葉樹チップを確保しようとすると、ある程度高値で買わざるを得なくなる。
 輸入チップの価格は半年契約で決めており、昨年の7〜12月期はBDU(絶乾ユニット)あたり117・5ドル(FOB=本船渡し価格)としていたが、再交渉の結果、昨年10月に25ドル上がり、今年の1月にさらに25ドルの引き上げとなった。その後、20ドルほど下がったが、輸入チップはこのように価格の変動が大きい。
 つまり、現在の価格差は、国産チップの価格が下がったのではなく、需給が逼迫した輸入チップの価格が上がったことでもたらされたと言える。このような状態が、今後どうなるのか。その中で製紙業界はどうやって原料資源を安定的に確保していくかが大きな課題になっている。

国内外で需給逼迫、激化する資源獲得競争

遠藤
 紙の原料確保については、グローバルな視点で検討する必要がある。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)などの経済成長で紙需要は増大するとみられており、古紙については中国との競争も始まっている。

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神田
 中国の紙需要は毎年10%くらいの伸びを続けるだろう。これまで中国の製紙工場は海外からパルプを輸入して紙をつくってきたが、一昨年、中国№1と言われるAPP(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)社が海南島にチップから紙をつくる大型工場をつくった。当社が江蘇省南通市に建設中の新工場も2010年には稼働を始める予定であり、新しい動きが出てきている。
 今後10年程度を展望すると、中国以外の諸国でも紙需要は増えていくと予測される。古紙の回収率が上がったとしても、紙需要の増加に相当するチップ原料をすべて植林で賄おうとすると、500万haくらいが必要になる。そのような植林適地はどこにあるのか。日本の製紙業界は1990年代から海外植林事業を展開し、すでにアフリカ、オーストラリア、チリなど地球の反対側にまで行っている。海外植林を広げる余地は、あまり残されていない。

遠藤
 そうなると、国産チップに脚光があたることになる。

神田
 国産チップは益々貴重な資源になる。国産チップの主原料である廃材は、製材工場の操業に伴って出てくる副産物であり、これまでは製紙業界以外に大口の受入先がなかった。したがって、製紙業界は、基本的に全量を引き取るが、価格は原木チップより安めに設定するということでやってきた。
 ただ最近は、廃材が木質ボードやバイオマス発電などにも使われるようになり、これまでなかった競合関係が出てきている。製紙業界が、紙の原料を安定的に確保していけるのか、正直言って不安材料は多い。

遠藤
 宮崎県森連は、国産の針葉樹チップを中国に試験輸出する準備を進めているという。

神田
 そういう試みもやってみたらいいのではないか。現時点で採算がとれるかは疑問だが、国際競争の中で国産チップの付加価値をどれだけ高められるか、従来になかった取り組みに挑む姿勢は重要だ。

「総合林産業」へ脱皮図る、林業再生にも挑戦

遠藤
 日本と欧米の林産業におけるチップの位置づけを比較すると、違いが大きい。欧米の複合林産企業は、チップも製材品も同格の価値を与えているが、日本ではチップを”余りもの”と見ている傾向がある。

神田
 これは我々の反省点でもある。日本の製紙業界は、一見林産業のような顔をしているが、実態は林産業ではなかった。単にチップを原料にして紙をつくる産業であって、「フォレストインダストリー」ではなかった。
 しかし、これから製紙業を続けていくためには、「総合林産業」へ転換していかなければならない。森林は再生可能な資源だが、世界的に原料獲得競争が激化する中で、チップだけを欲しいと言っていても通用しなくなっている。海外の植林適地も少なくなっており、土地代など造林コストも上がっている。もう、チップ生産だけを目的にした植林は成り立ちづらい。建築用材を育てるなど、海外の森林資源を最高度に利用する中でチップも生産するというかたちにしないと、資源確保はできない。日本から遠く離れた国で植林をし、そこから得られた木材を欧州や中近東に販売することを、製紙業界も視野に入れる必要がある。

遠藤
 国内の森林資源管理には、どのように関与していくのか。

神田
 当社は約19万haの社有林を持っている。700か所に分散しており、現状では国産材の安定供給基盤にはなっていないが、「林業再生」のベースにできないか検討している。林業に関するプロフェッショナルな企業と連携して、国産材供給の徹底したコストダウンを追求してみたい。その中で、新しいチップの集荷システムもできてくるだろう。
 かつて、製紙会社には山林部があったが、今はゼロになってしまった。しかし、時代は変わり、限られた森林資源を有効に使うことが問われている。もう一度、「山林」の名前がつく部署ができるくらいの取り組みをしたいと考えている。

(『林政ニュース』第331号(2007(平成19)年12月20日発行)より)

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