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日本一の国産材工場・協和木材の挑戦・下

前回からつづく)奥久慈林業地に拠点を構える協和木材(株)(福島県塙町)は、かねてから国産材製材の大規模工場として、その名を知られていた。だが、同社の佐川広興社長は、そのポジションに満足することなく、巨額の民間資金を調達して、さらなるスケールアップに踏み出した。佐川社長の決断の背後には、国産材のシェア拡大に向けた明確なビジョンが潜んでいる。

柱・中大径木・仕上げ、主力ラインは3つ

原木の安定確保体制に関する説明を終えた佐川社長は、遠藤日雄・鹿児島大学教授を、新工場の中に導いた。新たに設置された加工マシンが順調に動いている。
 
遠藤教授 
  新工場の基本ラインはどうなっているのか。
 
佐川社長 
  柱ラインと中大径木ライン、そして仕上げラインの3つが主体だ。柱ラインには、ノーマンツインソーが3台。中大径木ラインには、1本鋸の台車が2台と6m50㎝まで挽ける大径木用ツインソーが1台ある。仕上げラインは、4台のモルダーのほか、狂い取り用の台車も備えている。
 
  また、原木の仕訳と最適木取りを行うため、オーストリア製の自動計測機も導入した。この機械に材を通すだけで3次元の形状が正確に把握できる。非常に精度がよく、作業効率が高まった。

首都圏攻勢へ、関東の工場に“地の利”

遠藤 
  製材品の販売先は、首都圏市場を睨んでいるのか。最近は、関東地域で規模拡大している製材工場が目立つが。

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新工場の入口には協和木材の事業理念が掲げられている

 
佐川 
  首都圏は、全国の住宅着工戸数の40%を占める巨大な市場だ。ここに製材品を供給するには、やはり“地の利”がいる。関東地域にある工場ならば、注文を受けた翌朝に納品できる。4トン車に製材品を積んで、夜出発すれば、翌朝には間違いなく首都圏の加工所なり店先に荷物が着く。静岡方面から首都圏に向かう場合は国道1号線の渋滞もあって難しいだろうが、関東地域は道路事情に恵まれている。しかも、東北という巨大な木材産地を背後に抱えている。当社の新工場は、木材の産地から消費地に移り変わる接点に位置しており、その意味でも立地条件がいい。
 
遠藤 
  納入先はプレカット工場が多いのか。
 
佐川 

  ハウスメーカー系列のプレカット工場に納めるケースが多い。あとは市場、問屋、商社など、従来からの木材販売ルートだ。

  木材という嵩張る資材を扱うには、流通業と倉庫業という要素を常に考えておかなければならない。単に製材加工をするだけでなく、デリバリー機能を持つ流通センターの役割を果たすことが必要だ。

スギ芯持ちムク材に勝機、ラミナは競争力劣る

  首都圏市場でスギ製材品が競合するのは、ホワイトウッド集成材。この構図の中で、佐川・遠藤両氏は国産材シェアアップに向けた新たな突破口を見い出していく。

遠藤 
  最近のユーロ高もあって、ホワイトウッド集成材の価格は強含みになっている。市場での競争条件に変化は出ているか。

佐川 
  国産材にとっては、今がチャンスだ。ホワイトウッドの値段が上がっていると同時に、将来の供給不安を多くのプレカット業者が感じている。ホワイトウッド以外の樹種を確保しておきたいというニュアンスがハウスメーカーにもみられる。実際に、一部でもいいからスギに切り替えるという動きが出ている。

遠藤 
  そこで問われるのは、スギのムク製材で勝負するのか、あるいはスギ集成材で攻めるのかという選択だが。

佐川 
  結論から言って、スギはムクの芯持ち材として構造材に使うべきだ。材質を考えると、スギをラミナにしても、カラマツ以下の品質と価格にとどまるだろう。それよりも、合板用に剥いた方が、軽くて歩留まりがいいというスギの利点が生きる。

遠藤 
  大変興味深い。スギの芯持ち材は人工乾燥が難しい。だからラミナにして集成材にするという方向がとられがちだが、ムク材に対する揺るぎない確信を感じる。

佐川 
  それ以外に、当社の生きる道はないと思っている。

平角でベイマツからシェア奪回、チャンス逃がすな

遠藤 
  国産ムク製材でも規模拡大が重要な条件になってきた。その意味でも、この新工場が稼働を始めたのは注目される。

佐川 
  国産材の安定供給体制を確立するためには、一定の規模以上の生産力が不可欠だ。この工場では、2シフトで1日あたり3000本の柱を挽いている。1日の出荷量は、大型トラック10台以上、1時間あたり1台以上の生産力になっている。このレベルならば、ホワイトウッド集成材とも価格的・品質的にも十分対抗できる。

  あとは、梁、桁の分野で、レッドウッド、ベイマツと競争し、それなりのシェアをとりたい。まだ尺上の平角を大量生産する段階ではないが、5年、10年後には、4寸の平角を量産できる体制が整う。ムクの芯持ち平角として市場に出し、ベイマツと競合できるようでないと、今後のスギ復活はない。

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 潤沢な在庫を確認する遠藤教授(左)と佐川社長

遠藤 
  改めて、国産材製材の強みは何か。 

佐川 
  今、国産材製材工場は、㎥単価の一番安い丸太を挽いている。これだけ安い原料が手元にあるのだから、あとは外材が使われている分野にどうやったら食い込めるかを考えればいい。かつてスギが使われていた垂木類などは、「昔と同じように使っていただけませんか」とユーザーにアプローチできる。小さなチャンスをしっかり捉えれば、販路をとり戻せる。

遠藤 
  チャンスを逃がすなと。
 
佐川 
  外材産地の情勢は刻々と変わっている。北米材の対日供給力は、アメリカの住宅需要やハリケーンによる被害、中南米向け輸出の動向などにかかわってくる。ロシア材にしても、中国向けが増えると日本向けが減る。このような情勢の変化をチャンスと捉えて、国産材を機敏に売り込んでいくことだ。

『林政ニュース』第307(2006(平成18)年11月22日発行)より)

次回はこちらから。

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