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Legends of Runeterraレビュー Hearthstoneの革命とRiotの挑戦 (後編)

前編ではRiotの新作DCG、Legends of Runeterraのゲームシステムをまとめ、独自性の高い要素を紹介しました。
後編となるこの記事では、DCGのゲームデザインのトレンドを解説し、Legends of RuneterraのゲームシステムからRiotの開発意図を読み解きます。

時代を変えたHearthstone

2019年現在、最も有名なDCGは、Blizzard社のHearthstoneだろう。

2013年にHearthstoneが公開される以前にもアルテイルCarteShadow EraなどのDCGや、アナログTCGのデジタル版であるMagic: The Gathering OnlinePokémon TCG Onlineなどが存在していたが、オリジナルのDCGで大きな成功を収めたのはHearthstoneが初めてだ。

Hearthstone以降、国内外でShadowverseThe Elder Scrolls: Legendsなど、HearthstoneをベースにしたDCGが数多く生み出された。DCGのゲームデザインのトレンドはHearthstone以前 / 以後に分けられると言っても過言ではない。

では、Hearthstoneはどのような意図で設計されたゲームなのだろうか。

Hearthstoneの「複雑さのコスパ」

筆者は、Hearthstoneの最大の特徴を、
「奥深さと複雑さのコストパフォーマンスを追求したこと」
だと考えている。

どちらも、ゲームの「難しさ」と表現されることが多いが、プレイヤーが成長する余地となる「奥深さ」と、プレイヤーの参入を阻んだり、プレイの負荷になる「難しさ・複雑さ」は別の概念である。

例として、「将棋の駒の重さが100kgあり、トレーニングしないと正確に駒を動かせない」という状況を考えてみよう。
駒を動かす「筋力」と、駒の動かし方を考える「棋力」は、どちらもゲームの勝敗に影響を与える要素(いわゆる「差が付く要素」)だ。

しかし、実際には「将棋の駒を100kgにして、競技性を高めた」ゲームが開発されることはない。
これは「駒の重さ」が将棋の「奥深さ」ではなく、プレイヤーの参加を阻む「難しさ・複雑さ」を高めるためである。

ゲームシステムは「奥深さ」と「難しさ・複雑さ」の両面を持っており、その2つはトレードオフの関係にある。(つまり、複雑さは奥深さを達成するために支払うコストである)
Hearthstoneはこのコストパフォーマンスが非常に良い。システムの要素を少なくする過程で、奥深さに対して「割高」な要素を選択的に切り捨てているのだ。

Hearthstoneをベースにしたタイトルのなかで、要素を増やしたものが成功しにくい理由はここにある。
Hearthstoneが採用していない要素はコストパフォーマンスが悪いことが多く、ゲーム全体のコストパフォーマンスを悪化させる要因になる。
このことを「難しいから一般受けしない」「簡単な方が売れる」などとするのは、「奥深さ」と「難しさ・複雑さ」を混同した一面的な見方だろう。

コスパが悪いシステムの例

コストパフォーマンスが悪い要素の例として、「位置」がある。
盤面に位置という要素を加え、どの位置にユニットを出すかを重視するシステムは、ドラゴンクエストライバルズなどが採用している。

このシステムは、ゲームを始めたばかりの初心者に大きな負荷をかける。
ユニットを出すときに位置の選択を迫られ、そのために必要な情報は与えられない。

確かに、位置によって生まれる駆け引きは存在するし、ゲームの奥深さとして機能する面はある。しかし上級者にとっても、負荷に対して得られるゲーム上の利益(勝率)が少ない。
「位置」は大変な割に、実際にはそこまで重要ではない。コストパフォーマンスが悪いのだ。

Hearthstoneにも位置の要素はあるが、機能する局面が限られており、多くの場面で無視できる。プレイヤーも、位置のことを気にせずプレイしていることが多い。(そのようなUIになっている)

もう1つの例としては「マナ」システムがある。

多くのTCGやDCGでは、マナを増やすためのカードを使用したり、手札のカードを選択してマナに変換する必要がある。
前編でも触れたように、Hearthstoneのマナは自動的に増加する。マナを増やすためのカードや行動は必要ない。

DCGにおいて、毎ターン手札のカードを選択することは、思考と動作の両面で負荷が大きい。
選択によって勝敗が分かれることはあるものの、影響量に対してコストが高い。そのため、Hearthstone以後のDCGでは、マナが自動的に増えるシステムが主流になっている。

(アナログTCGは、マナを数えるために実物のカードを必要としており、手札を使用するメリットがある)

上記のように、Hearthstoneは採用する要素を、奥深さと複雑さのコストパフォーマンスの観点から取捨選択している。
そしてHearthstoneが切り捨てた最大の要素、それが「相手ターン中の行動」である。

相互干渉の削減

相手ターンに何もできないことは、Hearthstone最大の特徴だろう。
この特徴は、TCGの醍醐味とされていた「相手との駆け引き」や「非公開情報の推測」の奥深さを損うものであり、賛否が分かれる。

「相手との駆け引き」や「非公開情報の推測」は、言い換えると「相手の行動に干渉すること / 相手からの干渉を考慮すること」である。
Hearthstoneのゲームシステムは、相手への干渉、つまり受動的な行動を不利にし、能動的な行動を有利にするものと言える。

能動的な行動を有利にすることは、ゲームシステムだけでなくバランスにおいても共通している。
相手の行動に対応し続けることを目的としたデッキはあまり強くない。また、手札やマナの破壊などの相手を妨害する行動も、非常に少ない。
従来のTCG / DCGと比べ、相手への干渉を弱めることはHearthstoneの一貫した方針だろう。

重要なこととして、この「相互干渉の削減」はHearthstoneだけでなく、対人ゲーム全般に見られる潮流だ。例としては、

・League of Legendsのdenyの不採用
・Magic: The Gatheringのプレインズウォーカー
・従来のFPSと比べ、直接交戦する時間が短いバトルロイヤルの隆盛

などがある。

Hearthstoneの相互干渉の削減の主目的は、テンポの向上や、操作の簡略化など「難しさ・複雑さ」を下げることだが、時代の流れにも合致している。

対人ゲーム3要素:技術、意思決定、研究

さて、ここまでHearthstoneが複雑さと奥深さのコストパフォーマンスを追求し、相互干渉も削減したことを解説してきたが、相互干渉の削減によってゲームの特性に変化が起きた。

まずは以下の図を見てもらいたい。

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この図は、対人ゲームで要求される能力を3つに分類したものである。

素早く正確な操作や、計算を行う「技術」、
不確定な状況での判断力を問う「意思決定」、
事前の調査や分析で正解を探す「研究」、

あらゆるジャンルの対人ゲームは、主にこの3つの能力を要求される。
しかし、どの能力が強く要求されるかは、ジャンルによってまちまちだ。

意思決定の衰退

従来のTCG / DCGは試合中の「意思決定」と、デッキ構築の「研究」のゲームだと考えられてきた。
しかし、Hearthstoneは相互干渉を削減することで「読み合い」を取り去った。意思決定の領域が狭まったのだ。

一方で、「技術」の要求は強くなった。

DCGとアナログTCGを比較したときの差に、時間管理の厳格さがある。
アナログTCGでは1手ごとの時間を管理することは不可能だが、DCGでは可能である。特にHearthstoneは自分の手番と、相手の手番がはっきり分かれており、ターンごとに持ち時間が管理されている。

ゆっくり考えれば分かることでも、短く区切られた時間内に答えを出すのは容易ではない。Hearthstone以後のDCGでは、検討や演算を速く、正確に行う力、つまり「技術」が求められる傾向にある。

また、「研究」の領域も変化している。
元来、TCGの研究はインターネットの脅威に晒されてきた。研究成果であるデッキの情報がインターネットによって拡散され、各個人のデッキを作る楽しみ(研究の余地)がなくなってしまうためだ。

この現象は、SNSの普及とデジタル化によるデータの民主化によって加速している。

研究は万人に要求されるものではなく、ごく一部の上級者、あるいは好事家のみに要求される能力になった。

さらに、データの民主化は「研究」で取り扱える領域を拡大させた。これまで試合ごとに検討が必要だったことに、統計や確率計算で答えが出せるようになったのだ。
これは、コンピュータを使った研究が「意思決定」の領域を浸食しているとと言える。

コンピュータの意思決定への浸食は、ポーカーなどのマインドスポーツにも見られる現象である。

Hearthstone以後の世界

以上のように、Hearthstoneは時代の流れに沿ってDCGの性質を変化させた。
Hearthstone以後のトレンドは、

・「奥深さ」と「複雑さ」のコストパフォーマンスの追求
・「相互干渉」の削減
・「意思決定」の衰退と、「技術」へのシフト
・「研究」の寡占化

である。

これを踏まえてLegends of Runeterraのゲームシステムを分析してみよう。

Legends of Runeterraのテーマ:意思決定の復活

Legends of Runeterraのテーマの1つは、相互干渉を増やし、意思決定を復活させることだ。

カードゲームで重要なのは相手との会話だと思っています。細かにやり取りする事、ただ単に交代でプレイするのではなく、目の間に相手がいることを感じられて、競い合えることが大事です。
https://www.gamespark.jp/article/2019/10/20/93981.html

このテーマはいくつかのシステムに表れている。1つずつ見ていこう。

・ターンの進行
Hearthstone型のDCGは、相手のターン中に行動できないことが特徴だったが、Legends of Runeterraは「相手のターン」という概念を消滅させた。

前編でも見たように、交互にアクションを繰り返すシステムはLegends of Runeterraの大きな特徴だ。
このシステムは相互に干渉し合う機会を直接増やすもので、ゲームデザインの方向性が端的に表れている。

プレイする前から相手のリアクションを想像し、カウンタープレイもできるというシステムにしました。カウンターが成功したときの気持ちよさは格別。その機会をたくさん提供したかったんです。
https://www.famitsu.com/news/201910/24185563.html

注目すべきは、行動の優先権が強制的に切り替わることある。
アナログTCGと比べ、優先権の移行タイミングを明確に、かつ限定的にすることで、ルールの複雑さを下げ、操作回数を減らしている。

Legends of Runeterraが奥深さと複雑さのコストパフォーマンスを考慮していることが示唆される。

分かりやすさと奥深い戦略性のちょうどよいバランス
https://playruneterra.com/ja-jp/news/lor-announce-faq

・戦闘システム
同様に、攻撃側がユニットの攻撃対象を選択できず、防御側が戦闘するユニットを選ぶシステムも、相互干渉を発生させている。

このシステムは、Hearthstone型の戦闘システムと比べ、ユニットの生存率が高くなるため、ユニットに関連した分岐が非常に多くなる。
スペルによる割り込み以上に、奥深さと複雑さの両面を増すシステムと言えるだろう。

・マナシステム
スペルによる割り込みが可能だとしても、スペルを使用するプレイヤーがいなければ意味はない。
スペルマナのシステムによって、マナ効率の観点からスペルを優遇することで、スペルの使用率を上げ、相互干渉を促進している。

また、スペルは受動的なものが多いので、スペルを優遇することで受動的な戦略を優遇することができる。
(裏を返せば、久遠のカタリスト戦母の呼び声のような能動的なスペルは慎重に調整する必要がある)

スペルマナ以外の部分は、Hearthstone型のマナシステムを踏襲しており、複雑さの軽減を重視している。

もう1つのテーマ:研究の復活

もう1つのLegends of Runeterraのテーマは、研究の復活である。

インターネットやSNSの普及により、デッキが共有され、研究の余地がすぐになくなってしまう。コンテンツの消費速度が上がったということだ。

この問題について、Legends of Runeterraはカードの入手速度を下げることで対応すると明言している。

最初からすべての制限をなくしてすべてを入手可能にしてしまうと、プログレッション自体が存在せず、発見すべきものもなくなり、メタは固定化されてしまいます。
https://playruneterra.com/ja-jp/news/yori-yoi-kado-gemu-o-tsukuru-kado-no-nyushu-shisutemu

また、カードパックを現金販売しないことで、カード調整を容易にし、1か月に1回程度のバランス調整を計画している。

無料でカードを提供しているので、ライアットゲームズ側としてはカードそのものの調整がしやすい状況になっています。
https://www.gamespark.jp/article/2019/10/20/93981.html
Our current plans are to combo monthly live balance patches with new sets every 4 months (starting with launch), 
https://www.reddit.com/r/LegendsOfRuneterra/comments/dja7cb/were_the_lor_team_ama/f43m436/

筆者としては、カードの入手速度を下げることによる研究の復活は、実効性に疑問がある。
カードの入手速度を下げることで、プレイヤーは「正しい」カードを入手することを求めるようになる。このことは、デッキガイドなどの需要を上げ、研究余地を低下させる要因にもなり得るからだ。

とは言え、カードの入手方法の変更は、運営モデルの変更を伴う重大なことだ。Riotがデッキを作る楽しみ、つまり「研究」を重視していることは間違いない。

Legends of Runeterraの挑戦

ここまで見てきたようにLegends of Runeterraは、Hearthstone以後のDCGのトレンドに対し、

・相互干渉を増やすことで、意思決定を復活させる
・カードの入手速度を下げることで、研究を復活させる
・その上で、奥深さと複雑さのコストパフォーマンスを維持する

ことを意図したタイトルだと言える。

意思決定の衰退と、研究の寡占化はDCGのみならず、対人ゲーム全般に見られる潮流だ。
Hearthstoneがこの流れに合わせ、DCGのトレンドを決定付けたゲームだとするなら、Legends of Runeterraは流れに抗うゲームである。

Legends of Runeterraが成功するかは、今後のDCGや対人ゲームのトレンドを予想する上で重要な手掛かりになるだろう。
Riot Gamesが新たな流れを打ち出すことができるのか、その挑戦を今後とも楽しみに見守っていきたい。

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(前編はこちら)

(参考文献)


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