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宝石グレーディング基準の形成過程にみる「ルール作り」

※本記事の内容は執筆当時のものです。その後合成ダイヤモンドグレーディングなど時々刻々と変化していますので詳しくは各鑑別団体にお問い合わせください。

弁護士・ジュエリーコーディネーターの新田真之介です。

GIA-AAJ 関東セミナーに行ってきました。

講師はAGL(宝石鑑別団体協議会)の先生方です。

今回は主に、合成ダイヤモンドとアコヤ真珠という、

グレーディング基準がまだ国際的にも国内的にも定着していない分野について、暫定的にどのような基準で運用されているか、というお話でした。

以下は専門家ではない私のつたないメモですので、間違っている場合がありますのでご了承ください。

AGLにおける合成ダイヤモンドのグレーディング・レポート


□ AGLでは消費者にとって紛らわしい名称を避けて統一している。

・日本語では「合成ダイヤモンド」
・英語では「SYNTHETIC~」に統一している。
→ただしGIAはその後「LABORATORY GROWN~」に変更。

□ 合成ダイヤモンドのグレーディング
・IGIなど、天然ダイヤモンドと同じグレーディング表記をしている海外の鑑別機関もある。
・しかし、天然と同じフル・グレーディングだと、消費者が混乱するのではないか。
・そこで、天然ダイヤモンドのグレーディングとは異なる簡易グレードを採用することにした。
・枠付きでは鑑別しない。

□簡易カラー・グレード
・D~Zは3段階(COLORLESS,NEAR COKORLESS,LIGHT COLOR)
・ファンシーカラーは2段階
・クラリティグレードは4段階
・カットグレートは4段階

□備考欄
・グレードするかしないかにかかわらず、次の文言が入る。

「このダイヤモンドは合成で、科学技術により製造されています。」


AGLにおける真珠品質検査


□真珠の振興に関する法律の施行
・法律の施行に伴い、AGLも真珠の検品に参与することに
・「AGL真珠検品合格証」

□AGLアコヤ養殖真珠グレーディング
・まずHIGH とLOW で分ける。
・HIGHの中で、①テリ、②傷、③マッチングの評価と④マキ感で総合判定(AAA,AA,A)


学び

今回改めて認識したことは、宝石のグレーディング基準をどうするかという議論も、法律学でいう「ルールづくり」の1つだということです。

ジュエリーコーディネーター(JC)検定試験の勉強などをしていると、さも昔から決まった絶対的なグレーディング基準があったかのように思いますが(その変遷についても2級では学びますよね)、
そもそも宝石という三次元的(経年変化や年代鑑別などを考えると四次元的?)な物体をとらえるのに、ある側面から切り取った指標を用いることにはもともと限界があります。

つまり、グレーディングにおいてある1つの基準を採用するとそれによって捨象される側面は必ずあり、そのデメリットを重視する側からの批判がでるのは当然のことです。

ただ、グレーディングというのは、現物を手に取ることができない遠隔取引や、肉眼ではわからない要素を機材を用いて数値化することですから、それでもな取引実務では必要性は高いものです。

天然ダイヤモンドの「4つのC」のような世界共通ルール(として浸透しているもの)と異なり、これらについてはまだまだ発展途上なグレーディング基準であり、参加者のG.G.の皆さんの中でもさまざまな異なる意見があり、その意味では妥協の産物のようになっていることも否めません。

しかしながら、消費者への明確さ、運用のしやすさ等の諸要素について議論して取引会の共通ルールを構築していくほかないものと思われます。

そもそも合成ダイヤモンドを「宝石」と呼ぶかどうか自体についても最近までさまざまな議論がありました(JJAとしては合成ダイヤモンドは希少性要件が欠けることから宝石に含まないという公式見解です)。

ただし消費者の価値観の多様化に伴い、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドの適切な表示と説明によって新たな市場を開拓できる可能性もあります。業界が一丸となって「わかりやすい共通ルール」を構築していくことで、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドが共存していくように目指すべきです。

アコヤ真珠においても、「テリ」などの日本的な美的価値観をいかに世界基準に落とし込んでいくのかが、世界共通ルールにできるかのキーポイントであろうとおもいます。

すなわち、世界基準にするとすれば、「反射の美しさ」ということで言い換えて良いのかは専門家の中でもさまざま異論があるでしょうし、それはマキの厚さだけではなくその層の並び方の整い方や傷の有無などからも影響を受けますから、いわば他の要素との総合評価になるため、「テリ」という基準で本当にグローバルな消費者に受け入れられるのか、という問題があります。

日本の業界団体が決断できず躊躇している間に、欧米の業界団体がわかりやすいアコヤグレーディングの基準を浸透させるとき、すなわちルールづくりの主導権をとってかわられるときこそ、もっとも恐ろしい事態であることは、ダイヤモンド4Cの例をみても明らかです。

宝飾業界においては、既存の自社の利益のみならず、世界水準で今後将来的にジュエリー産業全体が消費者にいかに受け入れられる基準を提唱していけるか、という観点で取り組んでいくべきと思います。




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