ジュエラーのための古物営業法(仮設店舗・非対面取引を中心に)

リフォームやリユース需要の高まりから,リユース分野にも進出するジュエラーが増えてきていますが,十分な対応をしないまま始めてしまう事例もあるようです。

今回は古物営業法上のポイントについてまとめます。
なお,古物営業法の条文はすべて,e-govという総務省のサイトから確認できます。

1 古物営業法の目的


古物営業法を軽く考えてしまう原因として,古物営業法が何のためにある法律なのかの理解ができていないものと思われます。

(目的)
第一条 この法律は、盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため、古物営業に係る業務について必要な規制等を行い、もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り、及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする。

特に宝石や貴金属は小さくで財産的価値のあるものなので,窃盗等の財産的犯罪の標的にされやすい物品であり,ジュエラーというのはそもそも犯罪の道具にされやすい業態であるという危機意識を持つべきです。

たとえば自店に「買取してください」と持ち込まれたものが,実はミネラルショーで万引きされた宝石かもしれないわけです。もしも適切な身分確認がされていなければ犯人が野放しになったままになってしまいます。

ですので古物商許可を受けた者の義務として,本人確認をした上で古物台帳への記載と一定期間保管し,「品触れ」(19条)といって,警察から「このような物品が持ち込まれていませんか」と問い合わせがあった場合には回答・開示する義務を負います。このように「きちんと義務を果たす」ことを前提として,特別に古物営業を行える「許可」をもらえるという構造になっています。
逆にいえば,適切な古物営業法上の措置を怠っている買取業者がいると,間接的に窃盗等の犯罪を助長してしまう(窃盗等の犯罪をしやすくなってしまう)ことになりかねないというのが,この古物営業法が定められている目的であるということは強調しておきたいと思います。

2 「古物営業」とは(2条2項)

古物営業の定義は2条に書かれています。

(定義)
第二条 この法律において「古物」とは、一度使用された物品(鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるこれらに類する証票その他の物を含み、大型機械類(船舶、航空機、工作機械その他これらに類する物をいう。)で政令で定めるものを除く。以下同じ。)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。
 この法律において「古物営業」とは、次に掲げる営業をいう。
 古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの
 古物市場(古物商間の古物の売買又は交換のための市場をいう。以下同じ。)を経営する営業
 古物の売買をしようとする者のあつせんを競りの方法(政令で定める電子情報処理組織を使用する競りの方法その他の政令で定めるものに限る。)により行う営業(前号に掲げるものを除く。以下「古物競りあつせん業」という。)
 この法律において「古物商」とは、次条の規定による許可を受けて前項第一号に掲げる営業を営む者をいう。

つまり,売買だけでなく,交換や委託も含めて古物営業に当たります。

なお,これに違反した場合の罰則は,3年以下の懲役又は100万円以下の罰金です(法第31条第1号)。

ここで,「下取り」についてはどこまでが「サービスとしての値引き」として許されるのか(古物営業にあたらないのか)については,警察庁の通達が出ています。

問  新品の販売に当たり、買い換えの対象となった古物を下取りし、新品の販売価格を割り引く「サービス」を行う場合、古物商の許可を要するか。
答 新品を販売する業者が、下取りとして古物を引き取る場合、通常古物の買取りを行うものであるから、これを業として行えば古物営業法第2条第2項第1号の古物営業に該当するが、当該取引行為が、いわゆる「「サービス」として行う値引き」としてとらえることができるときは、古物営業に該当しない。

問 どのような場合に「「サービス」としての値引き」に該当するのか
答 新品の販売に伴う下取り行為が、次の要件を全て満たす場合は、当該取引は「「サービス」としての値引き」に該当し、古物営業に当たらない。
(1) 形式的要件
下取りした古物の対価として金銭等を支払うのではなく、販売する新品の本来の売価から一定金額が差し引かれる形での経理上の処理が行われていること。
(2) 実質的要件
ア 下取りが、顧客に対する「サービス」の一環であるという当事者の意思があること。
下取りする個々の古物の市場価格を考慮しないこと。
※ 「サービス」とは、「商売で値引きをしたり、客の便宜を図ったりすること。」をいう。(『広辞苑(第7版)』参照)

警 察 庁 丁 生 企 発 第 1 9 9 号
古物の下取りに伴う商品の値引きの古物営業該当性に係る質疑応答について

ポイントとしては,「個々の古物の市場価格を考慮しないこと」というのが重要かと思います。

たとえば「金属リサイクルキャンペーン」のような形で催事会場で金属の回収をしたいと考えた場合,鉄くずだろうと24Kだろうと,何か持ってきてくれた方にはグラム数にかかわらず一律に会場内で使える500円引きサービス券を配布する,というような場合はこれにあたるでしょう。

実際にスーツ店や家電量販店の「下取りサービス」とは,高級品だろうがゴミのような市場価値のないものであろうと一律に何円引きクーポンを与えるような形式が多いと思います。これは買い換えを販促するために廃棄処分のコストを負担しますというもので,まさにこの「サービスとしての値引き」にあたるわけです。これが古着店のように「アルマーニのスーツなら1万ポイント,ノンブランドのスーツなら500ポイント」などとしてしまうと古物営業にあたるわけです。

3 仮設店舗の届出(14条1項)

そもそもこの仮設店舗については2018年10月改正で認められたもので,それ以前は一切禁止されていたのが一定の条件の下でのみできるように緩和されたものです。

自らの営業所と顧客の自宅以外(例えばスーパーの駐車場など)における買取には,原則として3日前までに所轄警察へ仮設店舗の届出が必要です。

(営業の制限)
第十四条 古物商は、その営業所又は取引の相手方の住所若しくは居所以外の場所において、買い受け、若しくは交換するため、又は売却若しくは交換の委託を受けるため、古物商以外の者から古物を受け取つてはならない。ただし、仮設店舗において古物営業を営む場合において、あらかじめ、その日時及び場所を、その場所を管轄する公安委員会に届け出たときは、この限りでない。
 前項ただし書に規定する公安委員会の管轄区域内に営業所を有しない古物商は、同項ただし書の規定による届出を、その営業所の所在地を管轄する公安委員会を経由して行うことができる。
 古物市場においては、古物商間でなければ古物を売買し、交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けてはならない。

なお,これに違反した場合の罰則は,1年以下の懲役または50万円以下の罰金です(同法32条)。

仮設店舗届出という制度そのものは,むしろ1枚程度の簡単な届出書さえ出せば(手数料もかかりません)店舗や自宅以外でもイベントなどができるようにと法改正がされたものですので,適切にやればチャンスと捉えることができます。
学生マンションとのコラボで卒業シーズンに買取店がマンションロビーで不要品の買い取りを行う例や,コメダの駐車場でコメ兵に査定に出すと待ち時間にコーヒー無料券がもらえるサービスなどはとても良い取り組みだと思います。


また,届出をした上で,古物商プレートを見やすい位置に掲示することや,古物商許可証または行商従業者証の携帯や提示,そしてもちろん身分証確認や古物台帳の記入などの義務があるのは店舗での買取と同様です。

必要書類などは各県警ウェブサイトなどで見ることができます。

4 非対面取引における本人確認の方法(15条1項)

こちらの最近の法改正で認められたもので,業者にとってはネットなどで遠方からも集客しやすくなったということで,大きなチャンスでもあります。

ただし,非対面の場合には対面よりもいっそう本人確認が難しいために,より盗品を売却しやすくなってしまうということから,郵送の方法(非対面)によって古物を買い受ける場合には,本人確認義務の履行方法の制限があり,単に身分証のコピーを商品と一緒に送ってもらうなどは違法となります。
これについては以前ポッドキャストでも解説していますのでよければ合わせてお聴きください。

警視庁と大阪府警のまとめもわかりやすいです。

つまり,ここに列挙されたいずれかの方法をとっていないと違法になります。

なお,これに違反した場合の罰則は,6月以下の懲役又は30万円以下の罰金です(法第33条第1号、第36条 )。

5 まとめ

古物営業法上の各種手続は,たしかに面倒に感じることも多いかもしれませんが,
適切な対応を怠ってしまったばかりに結果的に自店のお客様に迷惑をかけしまうことになっては本末転倒です。

同法の目的を理解した上で,自店を応援してくれるお客様のためにも,適切な法規制への対応が求められます。

最後に,ジュエリー産業倫理綱領を抜粋してこの記事を終わりたいと思います。

1. 私たちは、消費者の信頼と満足が得られる商品の供給に努めます。
2. 私たちは、関連法令及び業界の自主基準等を遵守し、ジュエリーの公正な取引に努めます。
3. 私たちは、購入者が正しい商品選択ができるよう、的確な情報の提供に努めます。
4. 私たちは、従事者の教育、学習により商品知識、販売知識、苦情・相談対応等の資質の向上に努めます。
5. 私たちは、苦情処理体制を整え、苦情・相談の適切かつ迅速な処理に努めます。

ジュエリー産業倫理綱領


最後まで読んでいただきありがとうございました。


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