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消費税とチャッピー

潜む闇は、一見澄んで見える水の底に沈殿しています。かき混ぜると本性が露呈されるのです。
「本当に誠実であれば起こり得なかった事」への執着に足場がもたつき、焦点の定まらぬ景色に取り残され、持て余した思考回路は当然あらぬ落し穴へと落下しました。
梯子がないので助けを呼ぶべきですが、心当たりのある気まずさに声が出ません。人間としての責任を考えます。

お気に入りの公園に行こうと電車に揺られていたのですが、目的地に着く前に慣れ親しんだ街、経堂で気が変わり、下車。
快晴のすずらん通りはもうすっかり再建され、半ばオサレな雰囲気へと変貌を遂げていました。煢然たる気持ちで歩きます。

アンティーク家具店でメランコリックなメモ帳に、小さな文房具屋で親指第一関節程度の塩顔ダルマに一目惚れをするも、どの店主からもnot for saleと振り切られ、もういい、チャッピーでケーキでも買って帰ろう。と拗ねていたら、思いがけず史料館的且つファンタスティックな封筒と出会い、鼻血をブホブホさせながら購入。部屋のどこに画鋲を刺そうかと考えながら足取りを軽くしていると、昭和時代を扱う玩具屋兼駄菓子屋に再会しました。

当時はうら悲しい店構えに狼狽えて入店する勇気がなかったけれど入ってみるとどうという事はない。かつて人気を博した玩具等は、ネットゲームに埋没している現代っ子達には見向きもされず、埃を被った為か顔はすっかりやさぐれていました。けれども昭和生まれの僕にとっては輝かしい玩具。お魚釣りゲームに、150円のキラキラしたプラスチックの指輪が並び、フラフープまであります。うっとりと店内を眺めていると、テレビ鑑賞していたおばさんがのっそり奥の部屋から参上。小慣れた動作でレジの椅子に座るや否や僕の目の前にペラペラの紙籠を差し出しました。じゃあ、100円だけ買おうかなと呟くと、おばさんは言い放ちました。「じゃあ90円に納めないとね。消費税あるから。」

駄菓子屋というのは本来、小学生がなけなしの小遣いでこぞって買いに来るはずのお楽しみの場所です。
そんなピュアな時代をも侵食してくるのか、消費税よ。

肩透かしを食らい絶句しつつもなんとか買い物を済ませたのち、悶々とした心を慰めるように予定通りチャッピーへ向かいました。
お会計皿には、「ケーキの値段は税込です」の紙が貼り付いている。
しかし値段は20年前と変わらず、加えて商うお婆ちゃんのチャーミングスマイル。味わいも衰え知らず。

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