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日本を攻撃してもよい         愛国者学園物語35

 世界各国の情報機関が集結した非公式の共同体、インテリジェンス・コミュニティーは、いつもは言いたい放題、やりたい放題、自国の利益が最優先だから友好国にすら平気でウソをつくという、だらけたルールで運営されていた。

 しかし、いったん、国際情勢に危機が生じれば、日頃の対立も敵も味方も忘れて協力する強さがあった。世界情勢に通じた彼らからすれば、愛国者学園とそのコピー学校の群れは、無視できない勢力に育ちつつあった。しかも、国民の多くがこういう学校を支持しているのだ。平和なはずの日本がなぜファシズム国家へと変貌するのか、それが情報官たちの関心事だった。

 日本がそういう国になれば、それは別の国に飛び火するかもれない。あるいは、戦争まがいのことが始まるかもしれない。もし、そうなれば、21 世紀の世界はファシズムに毒されてしまうだろう。

 しかもそれは世界で最も豊かな国のひとつ、日本で起きている出来事なのだ。日本は経済的不況にあるとは言っても、世界的な視点から見れば豊かで、平和的な国だった。それがどうしてこうなったのか?

 年二回開催される、コミュニティーの非公式会合・通称サミットでは、その脅威について激論が交わされ、いくつかのことが決まった。それは、このような集団の犯罪、あるいは危険な活動に対し、各機関が監視を強めること。そして彼らの危険な行動に対し、外交的に、あるいは秘密裏に容赦なく介入する。もし、必要とあれば直接行動をするということだ。流石に、関係者に対して直接行動をするイコール暗殺はないだろうが、世界は日本に対し腹を決めつつあった。

 日本の代表、内閣情報調査室の室長で内閣情報官の根津透は、サミット参加者たちの厳しい表情から、国際社会による日本包囲網の厳しさを感じ取った。そしてある可能性を考えざるを得なかった。それはとても嫌なことだ。


 根津は帰国してから、今回のサミットに関する報告書をまとめ、最高機密のハンコを押した。そして、総理大臣に会うため首相官邸に向かったが、気分は重かった。彼には総理がどんな人間かよくわかっていた。だから、彼にとって最高の上司である総理大臣と面会しても、嬉しくはなかった。

 根津は報告書の概要を説明してから、述べた。
「このままでは、世界は日本をファシズム国家とみなしかねません。もし、そうなれば、最悪の場合、国際的な制裁を科すか、さらなる手段を講じる可能性も否定できません」
「さらなる手段とは?」
「ファシズム国家日本を阻止するために、戦争を仕掛けてくるという意味です」
「馬鹿、そんなことあるわけないだろ」

 根津は、「そうですよね」と苦笑いして説明を終え、首相官邸を後にした。日本人至上主義者で、自称・愛国心の塊である総理は日本史には詳しいが、世界史にはあまり関心がなかったのだ。

 それだから、まさか、かつて、ファシズム国家だった日独伊を成敗するために、欧米諸国が第二次世界大戦を始めたことを忘れたのだろうか。総理が日本の歴史や日本人の優秀さを絶対視する日本人至上思想の甘さを楽しんでいる間に、日本に対する世界の目は厳しくなっていた。内調をはじめ日本の各種情報機関を束ねる根津が警告を発しても、聞き流すだけの総理大臣だ。誰が、日本を破滅から救えるのだろうか。

続く 






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