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立派な日本人を育てたい?       愛国者学園物語28

 それだけではない。ジェフから見ても日本の政治は大きく変わった。政治は与党の一党独裁体制で、愛国心だけがその全てだった。

 靖国神社に参拝しない政治家は日本人ではないとして非難され、参拝を断った政治家たちの中には襲撃された者や、即座に議席を失った者もいた。 与党議員になるためには、靖国神社に参拝することが絶対条件だという時代になった。

 靖国神社は日本のために命を捧げた人々の魂を祀っている。だから、靖国神社に参拝しない人間は、祖国を守った先人たちを無視する人間だ。   つまり、靖国神社へ行かない人間は日本人ではない。それに加えて、   明治天皇が、靖国神社の前身である招魂社をおつくりになった。だから、 靖国神社を否定する人間は皇室を否定する人間だ。

 そういう論理の前に、議員たちは黙らざるを得なかった。靖国神社に行かない人間は議員にはなれない。お前たちは皇室の敵だ。お前たちは日本人ではないという主張には、議員になりたい彼らは勝てなかったからだ……。

 ジェフはキリスト教徒ではあるが、熱心な信者ではない。教会に行くことも少なく、教会に行くべき日曜日は、築地や各地の市場を歩くことに時間を費やしていた。そういう、呑気な信者の目からいえば、今の日本政府は民主主義国家の政府というよりは、宗教政治の総本山に思えた。事実、特定の宗教を絶対視する人々が政権をとり、その主流派になっているのだから。

これも、愛国者学園のせいなのか。


 それら愛国者学園やその亜流が栄えた理由も、それ自身は、子供に日本古来の宗教である神道と天皇制を賛美すること、それに愛国心を叩き込むという、「古き良き日本文化」や「立派な日本人」を育てるという名目を、日本社会が賞賛したからだった。

 しかし、それは特定宗教を過大に賛美し、天皇制に関心を持たない人間を非難し、愛国心の押し付けに疑問を持つ人間を侮辱する、危険な環境を育てただけではなかったのか。愛国者学園のように子供たちに過度の愛国心を叩き込んでも、極端に偏った世界観を持つ日本人が生まれるだけだろうに、なぜそれを理解できないのだろうか。

 そして、そういう愛国心を過大視する日本社会では、憲法改正が進んで、徴兵制度が復活した。そして徴兵に取られる貧しい人間と、徴兵を免除される豊かなエリートが対立した。その結果、徴兵に反対する国民を監視するため、公安警察が増強された。

この愚行の数々はいつまで続くのだろうか。


 民主主義や自由を忘れ、愛国心にしか関心がない国民。特定のグループに支配された政府。世界の多様性を忘れ自分たちの文化の正当性だけを主張する国民は、いつか爆発する。それが内に向かえば、国民は少数派や外国人の弾圧を行い、外に向かえば、侵略戦争を起こす。人類の歴史はそういうことを繰り返してきたのに、なぜ、聡明な日本人たちはそれに気がつかないのか。

 日本人が全員そうなったわけではないが、今の日本には、ファシズムと同じことをしている人間たちがいて、世界は彼らを世界平和の脅威とみなしている。

 ジェフとマイケルが話を楽しむときも、いつの間にか話題が、日本社会のダークサイドを悲しんでいる自分たちになっていることがあった。彼らは辛かった。自分たちが好きな日本が、大きくその姿を変えてしまったからだ。

続く

大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。