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白人は救世主なのか?

 私の「愛国者学園物語」には、米国のホライズン・メディアという架空のマスメディア企業が登場して、その代表であるジェフ・ラトレイユや、編集部で記者として働く三橋美鈴と深く関わることになっている。

 こう書くのは簡単だけれども、「ホライズン」という名前を決めるまでに、私は手間取ってしまった。米国のタイムやニューズウイークをモデルにしたこの会社の名前を、いくつか考えてみたけれど、どうも良い物がない。それで地平線を意味するホライズンにしたが、決めてから、あることを思い出した。

 ホライズン、あるいはホライゾンと聞けば、東京書籍のベストセラー、ニューホライズン英和・和英辞書シリーズを思い出す人も少なくないと思う。大きな書店では、それらが山積みになっていることも多い。だから、それを思い起こさせるような有名な名前ではなく、別の名前にしようかと迷った。しかし、あれにしよう、これにしようと迷走するのは良くないと思い、決めたのだった。

 決まったことは良いが、この外国のメディアグループという存在は、私に難題を突きつけた。それは、ホライズンは白人の救世主ではないのか? ということだ。

(発展途上国などに)外国の白人がやって来て、問題を解決して、去ってゆく。そういう構図を、「白人の救世主」というのだそうだ。

 私が創造したホライズンも、そうではないか。彼らは、愛国心問題で社会が混乱する近未来の日本、極右化した日本に来て、問題を解決する白人たちではないのか。代表のジェフはカナダ系米人の白人男性ではないか!
 そういう構図では、話の作者である私が、結局、問題の解決者、あるいは紛争の調停者として、白人を崇拝していることになるのでは、という疑問が脳裏に浮かんだ。

私は、白人の崇拝者ではない。白人だけを見て、それ以外を見ない人間ではない。

 私は思った。わが「愛国者学園物語」に、米国のマスメディア、つまり、ホライズン・メディアを登場させることは、白人の救世主を登場させることと同じではないのか。その役割は、日本のメディアにさせるべきだったのでは。日本社会の問題である愛国者学園は、日本人と日本の組織に解決させるべきだったのではないか。

 だが、こうも思った。日本人至上主義者たちが支配する近未来の日本は、自分たち日本人を賛美し、日本人でない人間を卑下するような社会だ。そういう社会で、外国のメディアが活動するのも「話になる」だろう。

 そういう社会で、外国のメディアがボロクソに扱われ、そこで働く日本人たちが、スパイ呼ばわりされる。愛国者学園の子供たちは、外国のメディアを嫌い、そこで働く日本人をスパイだと思っているのだから。じゃあ、三橋美鈴はどうなのか。それは、わが小説を読んでいただこう。

 このような、白人の救世主問題は、私に難題を突きつけたが、同時に、今までにない視点を私にもたらす結果になった。


大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。