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バイリンガル教育に関して、親がよく抱く六つの疑問

今回は、誰かの研究そのものではなくて、研究のまとめ的な論文を読んで、面白かったので、まとめておきます。バイリンガル教育に関して、親がよく抱く六つの疑問について答えた論文です。

六つの疑問に映る前に、まず、バイリンガルとは何かですが、子供でも大人でも二つの言語を話す能力や人の事を言います。幼少期からバイリンガルであることを同時性バイリンガリズム(simultaneous bilingualism)、幼少期を過ぎてからの学習によるバイリンガルを後続性バイリンガリズム(consecutive or sequential bilingualism)と呼びます。現代では、三人に一人はバイリンガルかそれ以上の言葉を話すマルチリンガルだと言われています。(約70%が複数言語を話す、という説を聞いたことがあります。どの程度話せる人を含んでいるか、とか、少数民族語も含むのかによって、その数は大きく異なってくると思います。)

疑問1.バイリンガルの子供は混乱しないか。
答えはしません。混乱すると思う理由に関して、よくそれぞれの言語を混ぜて使うことが挙げられます。混ぜて使う理由としては、親のインプットの時点で混ざっていることが多いです。ですので、バイリンガルであるゆえに混ざっているわけではなく、単に混ざっているインプットをそのまま口に出しているだけなので、混乱しているわけではありません。二つ目の理由としては、子供の単語能力は限られています。子供は犬という単語を覚え、その後に四足歩行の動物を見ると、犬ではないと分かっていても、その動物の名前を知らない時は、「犬だ」と言います。それと同じように、片方の言語で知らなくて、もう片方の言語で知っている場合は、違う言語だと分かっていても、それしか表現方法がないので、混ぜて使ってしまいます。ごく自然な成長過程であり、混乱しているわけではありません。

疑問2. バイリンガルの子供は賢いのか。
バイリンガルの子どもは単純に言語を二つ話せるという強みのほかに、社交的能力が高かったり、知的能力が高かったり、記憶力がよかったりします。これらの能力が高いという実験結果は出ていますが、その理由に関しては、まだ研究が十分に出ていません。考えられる理由は、脳内において、一つの言語を制御する神経を活発化したり抑制したりすることによって、脳をトレーニングしているからではないか、ということが挙げられています。しかし、同様の知的能力の高さが、早期の音楽教育の結果としても挙げられています。バイリンガルの子どもがモノリンガルの子どもよりも知的能力が高いという結果はありますが、言語が直接的理由なのか、それ以外の要因があるのかは、今後の研究でより明らかにされる必要があります。

疑問3. 片方の親が、片方の言語を話した方が良いのか。
一親一言語とか言われるこの原理は100年も前から言われているようですが、必ずしも正解でないことが分かってきています。二つの言語の習得を目指す場合、それよりも大事なのは、二つの言語のインプット量のバランスがいいことです。例えば、両親で子供と話す機会が均等であれば、一親一言語の方針でうまくいくかもしれません。しかし実際は、一方の親が、もう一方の親より話す機会が多いのが普通で、一親一言語だと、アンバランスは言語インプットになってしまいます。さらに、そのコミュニティーで使用されている言語、学校で使用されている言語、親族間で使用されている言語と、それら言語に触れる頻度も考慮して、二つの言語のインプットが最終的にバランス良くなるよう、両親で言語のインプット量を調整することが大切です。

疑問4. 両親が言葉を混ぜながら子供に話しかけるのはよくないですか。
疑問1と疑問3に関連しますが、バイリンガル家庭で育つ子供の場合、たいていの親がバイリンガルであり、こどもに二つの言語を混ぜて話すことが多いです。それによる子供への悪影響は発見されておらず、混ぜたインプットを受けた子どもでも、インプットのバランスが良ければバイリンガルに育つことが報告されています。

疑問5.早い方が良いのか。
結論を言えば、早い方が良いです。語学学習能力の年齢の増加による低下が発見されています。大人になれば言語が習得できないというわけではありませんが、大人の脳は言語が持つ微妙な違いに敏感ではありません。また、同時性バイリンガル(バイリンガル環境で育った人)と後続性バイリンガル(勉強してバイリンガルになった人)を比べても、同時性バイリンガルの方が、音声、文法、語彙、コミュニケーションの自然さ等、多くの面で優れています。単語の性別など恣意的な項目は、大人の学習者にとっても特に難しいですが、同時性バイリンガルはこれらの項目をマスターしています。

疑問6.バイリンガルの子供は言語の学習が遅れたり、発達障害になりやすいか。
語彙の習得に一時的で短期的な遅延はあるかもしれませんが、二つの言語を使用して、表現できる単語の量は同じなはずです。例えば英語とスペイン語のバイリンガルの子供がそれぞれの言語で60単語ずつ覚えているとして、そのうち30単語は同じものを表現しているとしましょう。表現できるものの数は90個です。その間に、英語モノリンガルの子どもは英語の単語を90個覚えているかもしれません。英語だけで比べると、単純に60対90で、英語モノリンガルの方が多いですが、この数の違いは、子供の成長につれ埋まっていき、いづれ同じになります。また、先ほども述べたように、バイリンガルの方が、社交的能力、知的能力、記憶力に長けているという強みがあります。
発達障害に関しては、モノリンガルでもバイリンガルでも発生する可能性が同様にあり、バイリンガルだけ特別になりやすいということはありません。

以上、おもしろいな~と思った論文をまとめました。バイリンガル環境で子どもを育てている親御さんの疑問なので、多くの人からすれば、ぜいたくな悩みだな~と思うかもしれませんが、これらの研究はバイリンガル教育を考える上でも重要な研究です。例えば、将来お子さんを預かってバイリンガル教育をしようというときに、「うちの子、日本語の語彙力の成長が、周りの子よりも遅いと思うんですが。。。」と言われたら、「英語と日本語どちらも覚えているので、日本語だけで比べたら遅いかもしれませんが、二つ合わせたら、平均より多いと思いますよ。日本語の語彙もすぐに追いつくのでご安心ください。」と、このような研究あるから言えますが、このような研究がないと、「えっと、多分大丈夫です。そのうち追いつきますよ。」と自信のない感じの答えになってしまいそうです。先人たちの研究に感謝。今日はここまでです。ご高覧いただきありがとうございました。

次回はまた、音声の習得に戻ろうかと思います。お楽しみあれ。

参考文献:Byers-Heinlein, K., & Lew-Williams, C. (2013). Bilingualism in the Early Years: What the Science Says. LEARNing landscapes, 7(1), 95–112.

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