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No密、濃密、no meetsが合言葉!|劇団ノーミーツが切り拓くオンライン演劇の新時代[後編]

多くの注目を集める中、旗揚げ公演『門外不出モラトリアム』がオンライン生配信で5000人に視聴され、存在感を示した劇団ノーミーツ。自身の活動を通してこだわり続ける「没入感」の重要性、オンラインであることを逆手にとった観劇のアイデア、そして演劇の新たなかたちについて、主宰の広屋佑規さんに聞いた。

【前編】はこちらからご覧いただけます。

──『門外不出モラトリアム』がウケた要因をどう分析しますか?

カギとなる仕掛けが3つあります。まずは作品の「同時代性」。作品内ではコロナに触れていませんが「もしもこの生活があと4年続いたら…」と考えさせるようなセリフが端々に出てきます。誰もが共感できる今の時代を捉えた物語としての魅力が評価された。

次に「没入感」。開幕を待つ時間のワクワク感、劇場で観る楽しさをどうしたら再現できるか。生配信に使用した特設サイトではリアルタイムの視聴者数が見えることで、劇場がザワザワしはじめるような感覚になる。さらに劇場さながらに、オンライン観劇のマナーやグッズ販売のアナウンスもしました。特に効果的だったのがチャット機能です。開幕前の期待感はもちろん、観劇中もお客さんがリアクションを共有することで一緒に観ている気分が醸成できた。劇場では黙って観るのがルールですが、ここでは好きなだけつぶやくことができる。まさに演劇の新しい楽しみ方です。

最後は「SNSでのシェアしやすさ」。観劇中にチャットが飛び交う勢いそのままに、観終わった直後からSNSに次々と感想がアップされる。オンライン観劇のポイントとして「気に入った場面をスクショしてシェアしてください」とお伝えしたことが大きな後押しになったと感じています。

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──生配信のオペレーションは苦労したのではないでしょうか?

想像以上に必要な作業が多くて…語りつくせません(笑)。特に役者さんは演技をしながら衣装の早着替えから舞台転換のカメラ切り替え、照明の操作といったことまで全て自分でやる必要がある。この負担は本当に大きい。本来は演技に集中すべきところをオペレーションにも気を配るんですから。役者のみなさんには感謝しかありません。今後も密を避ける観点から、役者さんにお願いする作業は発生しますが、よりスムーズな手順や手法を確立したいですね。

とにかく回線が途切れたらヤバいでは済まない…安定した配信環境を整えるためのマニュアルも作って入念なシミュレーションを重ねた結果、タイムラグや回線不良を極力なくすことができました。「本当にリアルタイムで演じているの?」という驚きの声や「どうやっているの?」と技術力を褒めてくださる声が多く、芸能事務所や舞台系プロダクションからオンライン演劇の技術監修依頼を多数いただき、実際に6月27日に開幕した史上初のオンライン新作歌舞伎『図夢歌舞伎 忠臣蔵』(構成・演出・出演:松本幸四郎)に技術協力というかたちで参加しています。演劇界への貢献になりながら、新たなビジネスチャンスにもなる。苦労しましたが、手応えも大きい。オンラインライブエンタメを盛り上げていくうえで、いい追い風を感じています。


──目指していく「新たな演劇のかたち」とは?

オンラインライブエンタメの可能性を広げるために何ができるか、世界観を表現する最適な手法は何か。そう考えると自宅からのリモートだけで制作する必要もない。少しずつ劇場も再開しているので、舞台を使ったオンライン演劇も社会貢献になる。今、世の中は急ピッチで元に戻ろうとしていますよね。その中で「ノーミーツでフルリモート」というコンセプトが世間の空気とズレてしまうと面白くない。時代の流れを敏感に捉え、表現方法を柔軟にチューニングしていく。近いうちに「ミーツ」して制作する可能性も十分にあります。

劇団ノーミーツの第二回長編公演『むこうのくに』(7月23日〜26日)も同時代性を重視した作品。描かれる「現実世界のつながりを絶たれた時代が終わろうとしている世界」は、多くの人に興味を持ってもらえるはずです。リアルタイムの生配信ならではのインタラクティブな演出にも挑戦したいですね。オンラインエンタメの市場は確実に伸びていき、コンテンツのクオリティはもちろん、自宅で楽しむハード面の性能も上がっていくでしょう。とはいえ、舞台をオンラインに移し替えるだけでは意味がない。オンラインだからこそできる演出、その瞬間限りの熱気に満ちた体験を追求し続け、リアルの場で表現できる日が来たら迷わず新たなチャレンジをするつもりです作り手にとっても観る側にとっても選択肢が広がっていくと期待しています。

PROFILE
劇団ノーミーツ 主宰
広屋佑規(ひろやゆうき)

1991年生まれ。
没入型ライブエンタメカンパニー「Out Of Theater」の代表として、ストリートを歩きながらミュージカルの世界が体験できる「STREET THE MUSICAL」、東京喰種の世界に没入できるイマーシブレストラン「喰種レストラン」(演出)など、公共・都市空間を活用したエンタメ作品のプロデュースに従事。
2020年4月に林健太郎(主宰/監督・プロデュース)、小御門優一郎(主宰/脚本・演出)と共に劇団ノーミーツを立ち上げ、主宰として企画・プロデュースを担当。劇団ノーミーツ・第二回長編公演『むこうのくに』が7/23(木・祝)〜26(日)に特設サイトでオンライン生配信。


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<発行日:2020/07/13>
*本記事は、FIREBUGが発行するメールメディア「JEN」で配信された記事を転載したものです。
Writer:龍輪剛
Photographer:龍輪剛

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