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読まない将棋の局面理解 #2

 すみません。いきなりですが、この将棋講座的なシリーズはやめにします。
 もともと1月時点では月1回くらいのペースで書いていこうと思っていたのですが、2月はちょっと忙しくて時間が取れず、3月になって冷静に見てみると「これ読み物としてあんまりおもしろくないな」と……。
 というわけで、書き置きしてあった本記事を投稿して終わりにします。


 このシリーズでは、毎回1つの局面図をテーマ図として取り上げ、ざっくりした状況分析と形勢判断を行います。
 特定の戦法や定跡を解説するつもりはありません。具体的な手順を符号で並べることもしません。現局面だけを見て「局面の急所はどこか」を考えていきます。目標は「読まなくても急所に手が行く」ことです。

テーマ図

テーマ図

 今回第2回のテーマ図は、私の実戦譜から、居飛車vs三間飛車の対抗形で、中盤のもみ合いさ中の局面になります。
 先手は端玉銀冠に角も据えて左辺で勝負しようという駒組み。後手も張り合いつつ、飛車を活用して6六に銀を押さえています。しかしその飛車取りを無視して先手は7四歩と勝負に出たという状況です。
 激しいぶつかり合いですが、この局面を考えていきましょう。

1)勝負は玉頭方面

図1

 まず、全体を俯瞰して言えるのは、先手から見た右辺(1~4筋)は駒が少なくあまり戦いになっていないということ、逆に左辺(6~9筋)は互いの玉があり、駒が多くてぶつかっているところもあるということです。
 将棋というのはお互い敵玉に迫るゲームなので、先手の駒が後手玉に向かって進み、後手の駒は先手玉に向かって進むのが基本的な展開です。すでに両玉が左側にあり両陣営の駒も左側にあるということは、右側で争いがおこる可能性は低そうです。

 対抗形は、玉から離れた方面で駒を捌き合ったあとは「横の将棋」とも表現され、互いに敵陣を横から攻める展開になることが多いですが、本局はそうではなさそうです。
 玉頭戦に入った形で、ここからの玉頭方面の揉み合いが勝負を決するとみて良いでしょう。

対抗形の玉側で駒がぶつかる → 玉頭戦が勝負を分ける

 左側の戦いになると考えると、右側に取り残された両陣の桂香はあまり働かないと予想されます。
 さらに、4四にいる後手の銀も少し働かせるのに苦労しそうな位置にいます。この銀が離れているのは先手有利なポイントです。
 玉頭戦というのは盤の全体を使う戦いとは少し趣が違っていて、駒の損得で勝負がつくというものではないですが、何より玉頭の厚みが重要になるため、離れ駒は玉頭の厚みに寄与しないという意味でのマイナスでしかありません。

2)後手玉の危険度

図2

 次に、今先手が▲7四歩と迫ったところなので、後手玉の危険度を考えておきましょう。

 ぱっと見でまず感じるのは、7四の歩は後手玉のすぐ近くまで迫っているということです。この歩が狙うのは7三の地点ですが、玉のコビンと呼ばれる急所です。飛車取りを放置してでも迫る価値のある場所です。
 しかし、7三の地点は後手の利きが上回っていることと、7四の歩には支えが無いことも合わせて見ておかなければいけません。7三に先手から駒を放り込んで清算したとしても、せっかくの攻めの拠点が消える結果になるかもしれません。また、後手から歩を払う展開を狙う可能性も考えられます。
 この7四の歩が活きるかどうかは戦局を大きく左右しそうです。

 7四の歩の次に攻めを見せている盤上の駒は8六の角です。この角が狙う6四の地点は後手が手厚いところで、簡単に突破できそうにありません。
 むしろこの角の価値としては、7五への利きが重要かもしれません。上述のとおり7四の歩を活かした攻めをするとして、7五の地点が二の矢を繰り出す際の支え、第二の攻めの拠点になるかもしれないからです。
 しかしそれも5段目なので、5段目の拠点を活かして後手玉を寄せるにはたくさんの駒が必要になるはずです。

 こうして見ると、後手玉はまだ緊急事態というほどのものではないと判断できます。駒をたくさん渡すと危険だとか、攻め駒の援軍があると危険になるとかいったような認識で良いのではないでしょうか。
 なので、先手としては攻めの準備を重ねていく必要があるし、後手としてはまだ大丈夫だけどこの形のまま駒を渡したくない、できれば7四の歩を取り払って憂いを無くしたいといった考えになるでしょう。

  • 先手はもっと攻める準備が必要

  • 後手は攻めるなら駒を渡さず攻めたい

  • 後手が受けるなら拠点の歩を払いにいく

3)先手陣の危険度

図3

 一方、先手陣の危険度はどうでしょうか。

 後手玉に比べると、先手玉にはまだ後手の駒が迫っていません。しかし、6七の飛車はすぐにでも取られる状況にあります。
 この飛車取りがどれくらい脅威かを考えるうえで、6七の飛車をめぐる関係を大きく4つに分けてみましょう。すなわち、a)後手から飛車を取る、b)先手から飛車を切る、c)先手が飛車を逃がす、d)互いに放置する。
 それぞれどうなのかについては読みが要求される部分なので深追いしませんが、ともかくこれらを比較しなければいけない状況です。その際、a)とb)に関しては先手後手両者の持ち駒に影響するため、先に考えた後手玉の危険度にも影響を及ぼします。
 また、後手が飛車を手にした場合は、先手陣において浮き駒になる6九の金および右側の桂香が狙われる可能性もあると見ておくべきでしょう。

 もう1つ考慮しておくべきは、8筋9筋についてです。
 8筋9筋が先後どちらに有利な形なのかは一見わかりにくいですが、「端玉には端歩」という格言があり、また「角頭」は常に弱点であることを考えると、どちらかというと先手が懸念すべき事項と言えます。後手玉は端から攻められて逆方面に逃げ出す展開がむしろ有望です。
 8筋9筋に関しては単純な縦の攻めで良いため、歩や桂でも手になりやすい面があります。後手の望む「駒を渡さない攻め」が実現する可能性を感じられます。特に8筋の角を狙われると先手が手抜くことも難しそうです。

  • 6六の飛車を巡って駒交換は、互いに駒が手に入る

  • 8筋9筋は、後手から駒を渡さない攻めになる可能性

4)急所はどこか

図4

 どうも互いの飛車が肩を突き合ったあたりの関係は難解で、どちらから取ってもそれほど簡単に良くならない気がします。とすると、それほど急を要するわけではないかもしれません。
 一方で、7四の歩は大きな拠点にも関わらず不安定、角は小駒で狙われる可能性がある、ということで、図4の赤枠のあたりのほうが局面を左右する急所というような気がしてきました。

駒を取れるところ → 読みが必要
         → 急所は他にもあるかも

 ここまで見てきて、形勢はまだまだ難解という印象です。後手の銀が離れていて先手が歩を伸ばしているのを見ると先手が良さそうに見えますが、手番を握っている後手からは7~9筋で細かい技を狙っていくと良い勝負になりそうです。

5)まとめ

 今回は対抗形の中盤、玉頭方面の揉み合いを見てきました。形勢は難解な局面ですが、駒を取る/取られるところ以外にも急所がありそうという話でした。
 次の一手のような結論はありません。

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