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断食道場の心地よさ 役割解放、共に過ごす ~日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2019.08)

日経産業新聞水曜日のリレー連載「HRマネジメントを考える」です。もう、断食に入れ込んでて、ここでも断食を取り扱いました。スーパーのライフロールから断食に流れるのは、なんか自分のやってることが統合されるみたいな感じです。日経産業の連載は書く方もなかなか勉強になっています。

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日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2019.08)*************************************
断食道場の心地よさ 役割解放、共に過ごす  
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私たちは日々、多重な役割を同時並行でこなしながら、人生を過ごしています。キャリア発達論の大家であるドナルド・スーパー氏は、ライフロールという概念を提示しました。人は常に複数の役割を人生の中で果たし続けるとして、家族(親・配偶者)、労働者、市民、余暇を楽しむ人、学ぶ人、子供といった主要な役割を例示したのです。
人間が持つ時間は一定ですから、どれか一つの役割に投入する時間が増えた場合は、他の役割に割ける時間が減ります。このジレンマと葛藤の中で人は生きています。
会社で課長であれば、社内だけでも部長の部下、課員の上司、プレマネとしての業務推進役、取引先との窓口役割など様々な役割を担っています。さらに、仕事を終えれば、配偶者であり子どもの親であり、親に対する子でもあります。多重な役割を持つ人にとって、1つ1つに丁寧に十分な時間をかけることは非常に難しいことです。
話は変わりますが、先日、5日間の断食道場に行ってきました。今回が2回目ですが、すでに病みつきになりつつあります。参加者のほとんどは1人での単独参加です。どこの誰だかまったく知らない人たちと5日間をともにします。
それぞれの部屋はありますが、いろいろなアクティビィティなどあるため多くの時間を共有スペースで過ごします。シェアハウスに住んでいるような雰囲気です。
そして、断食という共通の目的に一緒に対峙します。アクティビィティはあっても1人で過ごす時間もたっぷりとあります。ロケーションは自然の中。昼も夜も十分に自分と対話する時間がとれます。
5日間の断食生活で実感するのは役割から解き放たれている自分です。もちろん、スマホもパソコンも持ち込んでいますので、外の世界との接点は途切れなくあります。ただ、一緒に過ごす人たちは、それぞれが担っている日常の役割を一切知りません。そんな中で単なる1人の人として5日間を一緒に過ごします。
他者と対話する自分も役割から解き放たれています。名刺も肩書も住んでいる場所の情報も家族構成の情報もいらない世界です。この解き放たれた感覚が新鮮であり、とても居心地よく感じられることが私がはまりつつある理由なのです。
「人生100年時代」の到来とともに、働く期間は長期化します。以前であれば働き続けて年を取るとともに、少しずつ職場の中での役割が増えるのが普通でした。そして、その頂点で退職を迎えることができた幸せな時代もありました。
しかし、これからは違います。例えば役職定年などといった制度があると、ある日を境に役割が激減します。働き盛りのころは増えるばかりの役割に苦しみ、他の役割との両立に悩んでいたものが一気に減るのです。
さらには、プライベートでも親が亡くなり、子が育てば担うべき役割は減っていきます。もともと担っていた役割がなくなっていくなかで、どう生きていくのかが問いただされる時代が訪れつつあるのです。
いま、断食はちょっとしたブームになっています。なぜか人事関係者の中にはリピーターが多くいます。役割から解き放たれつつも、共通のテーマを持って初対面の人とともに過ごす時間が私たちを考えさせてくれる。この恩恵こそが断食そのものがもたらすものよりも大きいのではないかと思っています。

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