ユービック

月に1冊ディックを読む➀「ユービック」

年初に今年決めたことは、今年もほとんどないですが、1つだけ。月に1冊、ディックの本を読むこと。ディックは高校から大学にかけて読みふけったSF作家の1人です。凄く自分の価値観に影響を与えているのか、価値観が近いから読みふけったのか…。いずれにしても、とても好きです。その中でもこの「ユービック」好きです。

【この作品が書かれた年】1966年(発行年は1969年)

【この作品の舞台】1992年、1939年

【この作品の世界に存在する未来】半生命状態、映話、超能力者、不活性者、良識機関、虫歯のない世界、月の施設、宇宙船、恒星間飛行、空飛ぶ車、コインの必要な家電、等

【原題】「UBIK」

【読んだ邦訳本】ハヤカワ文庫SF314  浅倉久志訳

1966年に執筆されていますが、同年にはあの「アンドロイドは電気羊の夢をみるか?」(ハリソン・フォード主演映画「ブレード・ランナー」の原作)も書かれており、フィリップ・K・ディックが長編を矢継ぎ早に書いていた時期です。結果的に私はこの頃の作品群が一番好きかな。本作品に登場するSFガジェットは2つです。1つは「超能力者」とその超能力を無効化させることができる「不活性者」が企業に雇われて対峙しているという世界。超能力者狩りのために月面に集まった不活性者の集団は、相手の罠にはまり爆破事件に巻き込まれてしまいます。辛くも地球に逃げ戻ったものの、不思議な退行現象に直面し、仲間が1人ひとり急速な老化により命を失っていきます。そして、次々と仲間が…。この退行現象を止めるのは「ユービック」というスプレー缶だけ……。もう1つのSFガジェットは、半生命状態。肉体的に死んだ人間は、即座に冷凍保存されることにより、精神だけは生き続けることができ、死後も現世との通信ができるという仕掛け。月面で爆破事故に巻き込まれた「不活性者」達と、その雇い主であるランシタ―。果たして生きているのはどちらで、半生命状態にいるのはどちらなのか。この世界自体が現実なのか、あちらの世界が現実なのか。「すべての現実が疑わしい…」というディックの多くの作品に貫かれるテイストがいい感じて続きます。自分のいる世界を疑う、目の前の事象を疑う、これは今の世の中で生きる我々にも実に必要な習慣でありスキルです。「疑う」という実に健全な態度の重要性をディック作品は常に再認識されてくれます。この小説の舞台は執筆当時からみれば遠い未来であった1992年。現実社会では誰もが終わることを疑わずに踊り続けていたバブルが終わらんとしていた頃です。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?