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人事制度の設計 公正な運用、常に難しく ~日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2019.10)

日経産業新聞水曜日のリレー連載「HRマネジメントを考える」です。先週、新しいものが掲載されたのですが、10月の奴を引用していなかったので、引用します。こちらに引用する際に、私がwordで提出した最終稿を確定した記事をみながら修正するのですが、本当に上手に新聞社のご担当の方が適切な直しをしてくださっていることに毎度、感動します。また、やや冗長な言い回しが多い自分の文体の癖にも気づかれます。最近はこれを意図的に変えようとしています。何かをやるということは、それだけ学びがあります。

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日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2019.10)*************************************
人事制度の設計 公正な運用、常に難しく 
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人事制度を作る時、どこまで細かく作り込むかは設計者としての考えどころの一つです。細部まで徹底するか、できるだけ大ぐくりにして運用の幅を広くとるか、ここは思案どころです。
細部まで作り込む利点は、運用がブレにくいことです。運用者は「制度という定規」を目の前の現実に当てはめれば、何をすればいいのかが分かります。組織が大きく、運用者が多数となる場合は、細部まで作り込まなければ公正な運用は難しくなるでしょう。
ただこの手法の問題点は、運用に遊びの幅がないことです。情状を酌量したり、個別事情を勘案したりすべきでも、それが難しくなります。
逆の場合はどうでしょう。制度をガチガチに固めないので運用判断の幅が広がり、対象者の事情に即した判断ができます。ただ気を付けなければ、情に流されたり、声の大きい人に負けたりと、運用がどんどん緩くなり、結果的にコスト増を招くリスクを伴います。
運用が担当者個人の判断に委ねられるため、好き嫌いや運用者の価値判断で恣意的な運用に陥る危険もあります。運用担当者には、高い倫理観と、合理的かつ関係者の感情を意識した判断をする能力が求められます。
加えて運用判断のより所となる上位思想も必要です。それは、クレド、WAY、行動指針などと呼ばれます。人事制度の上位概念は人事戦略であり、その上位概念は経営戦略です。それに対して、運用判断をする際の上位概念は、その組織の中で期待される「あり方」の中に存在しています。
制度を細かく作り込みたくなる誘惑はもう一つあります。それは、運用側が気持ち的に「楽」になれるからです。役職定年制を例に取ります。
役職定年制とは一定の年齢で役職を自動的に罷免する制度です。課長の役職定年年齢50歳、部長は55歳などと職位に対応させて役職定年を決めているケースが多いでしょう。
実はこれは制度がなくてもできるものです。役職の罷免は会社に与えられた人事権ですから、必要があれば50歳や55歳で役職から異動させればいいだけです。しかし、役職を外す決断も、それを本人に伝えることも、精神的にはきつい仕事です。
それがきついから、ルールで罷免させようというのが役職定年制なのです。一律のルールであれば、あと腐れも少ないし当人もあきらめがつく。何より異動を命じる側のつらさが消えます。
ですが、本当に一律に年齢で役職を罷免するのが正しいことなのか。同じ50歳でもパフォーマンスの発揮度には個人差が大きくあります。ダイバーシティ(多様性)が叫ばれる時代、本来であれば個をみた人事管理が望まれるはずです。
賃金原資をコントロールするための評価の相対分布も同様です。相対分布のルールに基づかなくても、評価者が原資を守りつつ、できるだけ適正な評価をしようと頑張ればやり方はあります。ただ、それには相当の手間と強い意志が求められます。相対分布だから仕方がないという割り切りが、評価する側に言い訳を、評価される側にあきらめを与える側面もあるでしょう。
大勢の社員を適切かつ効率的に評価・処遇するために人事制度は必要です。しかし私たちは時に人事制度を言い訳に利用します。人を評価したり、処遇したりすることが、それだけ難しい仕事だということの証なのでしょう。

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