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質的研究のシステマティックレビューって何?~身近な運動の発達障害、DCDの2例

 「身近な運動の発達障害、DCDの介入効果に関するエビデンス」で説明した通り、発達性協調運動障害 (Developmental Coordination Disorder: DCD) に関する質の高い介入効果を支持する客観的な定量的エビデンスは、まだ十分に確立されていないのが現状です。それでは、DCDがある当事者や当事者を取り巻く人々の主観的体験に関するエビデンスは、どのようなものなのでしょうか。
 主観的な体験や意見を収集するには、インタビューやフォーカルグループ、自由記述式の質問紙などの内容を分析する質的研究が実施されます。これまでDCDに関する質的研究を系統的にレビューした研究は、これまで2報が発表されています。
 最初の試みは、O’Deaの博士論文研究で、2021年に原著論文としてオンラインジャーナルに発表されました。質的研究を統合するには、いくつかの方法がありますが、O’Deaらは、メタ・エスノグラフィーという統合手法を用いました。ご存知のように、かつて民族誌とも訳されたエスノグラフィーは、通常、特定の人々がいる現場に研究者が赴いて時間を一緒に過ごし、参与観察したり、対話したりしてその文化を解き明かします。一方、メタ・エスノグラフィーの現場は、データベースに埋もれている質的研究論文の中で紹介されている「生の声」と、その声を分析したテーマやカテゴリーです。生の声や観察記述や自由記述を反映した質的論文を発掘し、以前に報告されていないようなレビュー研究者による新たな洞察を示します。
 O’Deaらは、検索結果見つかった6543本の論文のタイトル要旨をスクリーニングし、選択基準に適合しているとみなされた60本の論文から15本の論文が統合の対象に値すると判断しました。そしてすべての論文に言語記述されている内容を解釈して、「心理-情緒的な障害者差別」という上位テーマと、「日常活動をこなすが不当に困難」、「うまくとけ込みたい」、「困難を緩和する方略と支援」という3つの下位テーマを提唱しました。
 2番目の試みは、メタ・エスノグラフィーでなく、JBIの「メタ統合」という手法を用いています。両者の違いは、前者が原著論文の生の声や観察結果に、レビュー研究者が独自の解釈を加えることに対して、後者はレビュー研究者が解釈を加えないで統合する点にあります。
 Miyaharaらは、選択基準を満たした質的研究論文の48本のうち、20本の研究の質が高いと評価し、メタ統合に組み入れました。この高質の20件の研究からは、合計304の「知見」が抽出され、1. 家庭・家族レベル、2. 学校・仲間レベル、3. コミュニティレベルの3つのレベルと、それぞれのレベルにおける活動と参加という「統合された知見」を作成しました。この統合した知見によると、DCDの当時者たちは、活動や参加に関する深く広範な影響を、ユニークで微妙な文脈の中で経験していました。そして、この質的レビュー研究は、当事者各自の文脈における個別評価、医療資源の増加、教育や訓練が拡充することによって、活動と参加が促進されるであろうと結論づけました。
 以上、具体的な質的研究のシステマティックレビューの実例から、質的研究のエビデンスについて理解を深めていただければ幸いです。

文責 宮原

参考文献
O’Dea, Á., Stanley, M., Coote, S., & Robinson, K. (2021). Children and young people’s experiences of living with developmental coordination disorder/dyspraxia: A systematic review and meta-ethnography of qualitative research. PloS One, 16(3). doi: 10.1371/journal.pone.0245738
Miyahara, M., Pocock, T., Moebs, I., & Konno, R. (2023). Experience of activity and participation of individuals with developmental coordination disorder/dyspraxia and their surrounding people: a qualitative systematic review. Asia Pacific Journal of Developmental Differences, 19(2), 377-402. DOI: 10.3850/S2345734123001412

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