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身近な運動の発達障害、DCDの介入効果に関するエビデンス

 「エビデンスの塵も積もれば山となるか?」で説明した内容を、身近な運動の発達障害、DCDの介入効果に関するエビデンスを例にとって説明します。

 みなさんは、学習障害(LD)や注意欠如多動障害(ADHD)、自閉スペクトラム障害(ASD)といった発達障害は聞いたことがあるでしょう。でも、発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder: DCD)は、馴染みが薄いか、耳にしたことすらないかもしれません。
 発症率が約6%と身近なはずのDCDは、かつて「不器用な子症候群」などと呼ばれていましたが、不器用と言われて嬉しい人などいないので、特に教育や医療の現場において現在、このような呼び方は避けられています。こうした運動が苦手な幼児、児童、生徒、学生、成人の困難さを、はたして発達障害として扱うべきかどうかについては、賛否両論があります。その問題はさておき、賛成派は、過去半世紀にわたって、多岐にわたる研究を行ってきました。
 そうした研究の中には、介入研究があります。DCDがあると判断された子たちに、運動訓練を実施すると、実施しなかった子たちよりも運動能力が向上するかどうかを調べる研究です。これまで世界中で50報以上の介入研究報告が存在しますが、2017年に発表されたDCDのコクランレビューによると、適切なランダム化比較試験の数は、6報しかありませんでした。このうち、質の高い2報のランダム化比較試験の結果をメタ分析で統合したところ、介入効果のエビデンスは得られませんでした。ただし、質の低いランダム化比較試験の結果も含めてメタ分析で統合すると、わずかな介入効果がみられました。この理由には、質の低いランダム化比較試験のバイアスが高いことと、全体の被験者数が増えたことがあげられます。
 コクランレビュー以外のシステマティックレビューやメタ分析は、コクランレビューと同じ結論を示しているでしょうか。アンブレラレビューやメタレビューと呼ばれるシステマティックレビューやメタ分析によると、質の低いシステマティックレビューやメタ分析は、介入効果があるという結論を導く傾向があるが明らかになりました。ここでも、介入効果があってほしいというバイアスが関与していると思われます。
 今後、介入効果に関する定量的エビデンスを蓄積するならば、質の高いランダム化比較試験と、質の高いシステマティックレビューやメタ分析を実施してゆくことが求められます。

文責 宮原

参考文献
Miyahara, M., Hillier, S. L., Pridham, L., & Nakagawa, S. (2017). Task-oriented interventions for children with developmental co-ordination disorder (Review). Cochrane Database of Systematic Reviews. No. 7. doi/10.1002/14651858.CD010914.pub2
Miyahara, M., Lagisz, M., Nakagawa, S., and Henderson, S. E. (2017) A narrative meta-review of a series of systematic and meta-analytic reviews on the intervention outcome for children with developmental co-ordination disorder. Child: Care Health and Development, 43(5), 733–742. doi: 10.1111/cch.12437.
宮原資英 (2019). 第1章 DCDにまつわる歴史 澤江幸則, 増田貴人, 七木田敦編 発達性協調運動障害[DCD]: 不器用さのある子どもの理解と支援 金子書房
Miyahara, M., Lagisz, M., Nakagawa, S., & Henderson, S. (2020). Intervention for children with Developmental Coordination Disorder: how robust is our recent evidence? Child: Care, Health and Development, n/a(n/a). doi:10.1111/cch.12763
宮原資英 (2020). 発達性協調運動障害:親と専門家のためのガイド  第2版増補版 スペクトラム出版


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