ブルーハワイ

「ブルーハワイ」
カキ氷などにブルーハワイがあるが、元々はカクテルの名前だ。この名前は、個人的には勢いでつけてしまった雰囲気が感じられる。色が青くてハワイの海とか空っぽい。だからブルーハワイ。かなり安易に思う。この名前の付け方って、どうなんだろう。
と思ったので、ブルーハワイに考察を加える前に一応念のために語源調べてみたら、
ブルーハワイ:エルビス・プレスリー主演の映画「ブルーハワイ」に由来。

ああっ、何てことだろう。全然違った。勝手に、青さがハワイの海っぽいから、ブルーハワイって名前にしたんだな、なるほど、と思い込んでいただけだった。ブルーハワイの青さを見てハワイみたいだと思ったのは、他でもない自分だった。勝手に、ブルーハワイの青さから、ハワイの海と空に想いを馳せていた。

そんな訳で、ブルーハワイに関する考察を展開しようと思っていましたが、予定を変更して「居酒屋戦隊サケレンジャー」をお送りします。

「やっぱりさあ、俺って居酒屋戦隊サケレンジャーには要らないんじゃないのかなあ」
イエローインドは、ブルーハワイに愚痴をこぼした。ブルーハワイは、「また始まったか」と顔を顰める。イエローインドは酒を飲んで酔うと、いつも愚痴をこぼすのだ。
怪人との戦いが終わると、ブルーハワイは決まってイエローインドに飲みに誘われる。そして、毎回、聞きたくないイエローインドの愚痴を聞かされるのだ。本当は付き合いたくないのだが、ブルーハワイは変に人が良いせいで断り切れない。
特に今日の戦いは、敵の四天王「怪人サンバブラジル」との戦いで苦戦を強いられたのだ。帰って早く休みたい、とブルーハワイは思う。
そんなブルーハワイの気を知らず、イエローインドの愚痴は続く。
「大体さぁ、俺って酒と関係ないだろう」
「それって、どういうこと」
ブルーハワイは、渋々愚痴に答える。ここで愚痴に答えてやらないと、イエローインドは怒って暴れだすのだ。ただ暴れるだけではない。サケレンジャーのイエローインドとしての必殺技を出して暴れるのだ。過去に、イエローインドは必殺技で二つの街を消し去った。二つの街の消失は、戦隊の上層機関が、悪の組織の所為にして揉み消した。始末の悪いことに、イエローインドは、酔いが醒めた時には、自分が破壊した事を全く覚えていない。街の消失を聞いたイエローインドは、「悪の組織は怖いなあ」などと、他人事のように恐れていた。
「うちの戦隊メンバーは、みんなそれぞれ酒に関係した得意技があるだろう。レッドアメリカは、バーボンボンバー。ブラウンチャイナは、紹興蹴り。ブラックドイツは、ビールかけ。ピンクフランスは、ドンペリアタック。ホワイトコリアは、モッコリマッコリ。お前だってカクテルシャワーだ。それなのに、俺だけカレーチョップ。おかしいだろう。カレーって。バーボン、紹興酒、ビール、ドンペリ、マッコリにカクテル。なんで、そこにカレーが出てくるんだよ。戦隊の名前だって、居酒屋戦隊サケレンジャーなんだぞ」
確かに、カレーは酒と関係ないとブルーハワイは思う。しかし、ここで「確かに関係ないね」などと答えたら、イエローインドは怒り出すだろう。それでは何と答えればよいのか、ブルーハワイは頭を抱える。間違えた答えで怒らせたくない。街一つの運命が懸かっているのだ。カレーチョップ、名前の割りには威力は凄い。悩んだ末、ブルーハワイは話を逸らして誤魔化すことにした。
「あっ、そうだ。ピンクフランスのドンペリアタックは凄いらしいぞ。必殺技の代金は、場所によっては10万円は掛かるみたいだ。しかも、その代金の請求書は怪人の自宅に届くんだってさ」
「いや、誤魔化さないで答えてくれよ。ピンクの話じゃあなくて、俺の話なんだよ」
どうやら、誤魔化しきれないようだ。「カレーなんかいらない」と思っていても、口が裂けても言えない。街が一つなくなってしまう。
「いや、とにかく、イエローインドみたいなキャラクターはサケレンジャーに必要なんだよ」
「どんなところが」
「やっぱり、いつでも、厳しい戦いだからこそ、場を和ませるための笑いって、絶対に必要だろ」
イエローインドは駄洒落をよく言うのだが、物凄くつまらない。しかし、乗り切るにはイエローインドのつまらない駄洒落を褒めるしかなさそうだ、とブルーハワイは考え、イエローインドは面白いと褒めることにした。街一つの為だ、嘘を付いても許されるだろう。
「その笑いの担当が俺だと……」
「そうそう。そういうことだよ」
「いや、嘘付くなよ。昨日、俺がいなかった時、皆がイエローインドの駄洒落はつまらないって言ってたの聴こえてたんだぞ。お前も一緒に言ってたじゃないか。ホワイトコリアが、モッコリマッコリを出したときの方が面白いって」
確かにホワイトコリアの技「モッコリマッコリ」は見ているだけで面白い。以前、怪人まで笑い転げていた。それに、ホワイトコリアは技だけでなく、話も面白い。イエローインドとは大違いだ。それにしても、イエローインドがその話を聞いていたとは……。つまらないところで、無駄に地獄耳だ。「ごめん、街の人。みんな死ぬかも」とブルーハワイは心の中で謝った。
「えっと……。まあ、気にするなよ。とにかくイエローインドは必要なんだよ」
「やっぱり、いらない隊員だよな。俺って」
不穏な空気が二人を包む。イエローインドのベルトの風車が回り始めて、右手が輝き始めた。右手にエネルギーの充填が始まったのだ。出るぞ、カレーチョップが。ブルーハワイは、とにかく喋ることにした。
「あっ、思いついた。じゃなくて、思い出した。そうだそうだ。俺達って7人構成の戦隊だろ。それで、一週間、メンバーが一日交代で基地に宿直になるだろ」
「うん、それで」
「一人欠けると、誰かが一週間に二日やらなきゃいけないじゃないか」
「それだけか。俺の存在意義って」
「いや、違う違う。今のは間違いだ。えーと、アレだアレ。正義の味方がさあ、酒で一週間ずっと宿直を乗り切るのは駄目だろう。だから、お前は休肝日だ。そうだ、休肝日なんだよ」
「休肝日かぁ」
イエローインドは泣きそうな複雑な表情で俯き、チョップを収めた。ベルトの風車はカラカラと、乾いた音を立てていた。

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