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ブラサカ選手紹介|全盲選手の趣味を深堀り! 丹羽海斗選手

野球、バンド、ゲーム・・・・・・
全盲の丹羽選手の楽しみ方とは?

今回は、丹羽 海斗(にわ かいと/free bird mejirodai)選手を紹介します。

強豪のブラインドサッカーチームfree bird mejirodai(東京都・文京区)で活躍する丹羽選手は千葉県出身の23歳。幼少期から全盲の丹羽選手ですが、プライベートではバンドを組んでいたり、テレビゲームで遊んでいたり、思わず「見えていないんじゃなかったの?」とツッコんでしまうような趣味の持ち主です。

今回のブラサカマガジンでは競技から少し離れて、丹羽選手がどのように趣味を楽しんでいるのかについて聞きました! すると、そこには全盲の丹羽選手の工夫と悩みがありました。

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ピッチの中では自由でいられる、それがブラサカの一番の魅力

ーーまずは自己紹介をお願いします。

網膜芽細胞腫により、生後半年で全盲になりました。いわゆる、子どもの眼のがんです。小学校卒業までは千葉盲学校に通いました。中学以降は筑波大学附属盲学校に入学し、鍼灸の専門過程を卒業しました。その後、ヘルスキーパーとして主にマッサージを仕事にしながら、ブラインドサッカー選手としても活動しています。

ーー丹羽選手が所属しているブラインドサッカーチームfree bird mejirodaiはどんなチームですか?

free bird mejirodaiは、筑波大学付属視覚特別支援学校の生徒、OBを中心としたチームです。チーム全員がそれぞれサッカーと向き合いながら切磋琢磨しています。チームメイトは、先輩後輩問わずサッカーを通じて刺激し合える最高の仲間です。ちなみに私はいじられ役です(笑)

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ーーブラサカの魅力はどこにあると思いますか?

一番の魅力は、ピッチの中では自由だということです。ガイドや監督など指示を出す人はいますが、その指示を聞いてどう動くかを決めるのはあくまで自分です。自由に動ける範囲がすごく広くて、フィジカルコンタクトも激しい。視覚障がい者スポーツでは異質の競技だと思います。

また、アイマスクをつけると全員同じ条件になるところもブラサカの魅力の一つだと感じています。障がい者スポーツの中には、障がいの程度によって持ち点に差があったりして、競技内での役割や試合に与える影響力が異なる種目も多いですが、ブラサカは全盲でも弱視でも晴眼でも、アイマスクをつければ全員同じ。障がいによる有利・不利はなく、純粋に競技力を競うことができます。

ーー丹羽選手の得意なプレーはなんですか?

音への反応は優れているほうだと思います。ボールへ素早く反応してトラップやインターセプトができるのが自分の武器です。

野球にバンド・・・・・・多趣味な丹羽選手
仲間とジャムセッションも?!

ーーここからは丹羽選手の趣味について聞いていきたいと思います。丹羽選手といえば野球好きのイメージがあるのですが、野球好きになったきっかけは何でしょうか?

小さい頃から家族がよく野球を観ていたので、自然と好きになっていました。プロ野球はラジオ中継がたくさんあるので、野球好きな視覚障がい者は多いと思います。

ーー確かにブラサカの選手も、サッカーより野球が好きな人が多いですね(笑)

そうですね。私の場合は、野球は観るだけでなくプレーするのも好きなので、学生の頃はグランドソフトボール(視覚障がい者の野球)をやっていました。

ーー丹羽選手は音楽も好きでバンドを組んでいますよね?

はい。バンドは中学校に入学したときに、先輩に誘われて始めました。それから盲学校時代の先輩たちとバンドを組んでいて、私はドラムです。主にパンクロックやブルースを演奏しています。バンドの楽しさを一番感じるのは、ライブのときとジャムセッションのときです。

ライブで、独特の緊張感のなかで演奏を始めて徐々に曲にのめり込んでいく。そこにお客さんも巻き込んで味わう一体感は最高です。

ジャムセッションとは、バンド仲間とキーだけを決めて、それぞれが思いつくままに演奏をして合わせるものです。もちろん演奏中の会話やアイコンタクトなどは一切ありませんが、それでも不思議と全員の呼吸が合って、やりたいことがバシッと決まった瞬間は何とも言えない爽快感があります。

ーー目が見えないメンバーでバンドの練習をするのは大変ではないですか?

基本的には目が見える人たちと変わらないと思いますよ。中学・高校のときは、宿舎に軽音サークルの部屋があったのでそこを借りて、長期休みのあいだはスタジオを借りて練習していました。私はドラムなので耳コピで練習しています。

一応「点字楽譜」という視覚障がい者のために点字で記述された楽譜があって、盲学校の音楽の授業ではそれを使っていますね。

ーー基本的に目が見える人たちと変わらないというのは少し意外です。それから、丹羽選手はゲーマーだと聞きました!

そうですね(笑)晴眼者と同じゲームも視覚障がい者向けゲームも両方遊びます。

ゲームでも、障がいを理由に諦めなくていいように
誰もが遊べる工夫が広がってほしい

ーーどうやって晴眼者と同じゲームを遊んでいるのですか?

例えば、格闘ゲームのなかにはイヤホンをつけてプレーすると、右側にいるキャラクターの音が右側から聞こえるようになっているものがあります。このように音が左右に振り分けられているゲームでは、音を聞いてキャラクターの位置を把握することができます。

また、攻撃、ダッシュ、回避、ジャンプなど、それぞれのキャラクターで各アクションの音が異なっているゲームが多いんです。だから、キャラクターごとのあらゆる音を覚えて、対戦相手の動きを聞き分けながら戦うことができます。

野球ゲームは、一人でやるときはCPUとの対戦で遊びます。各チームのオーダーや控え選手の初期設定は大体覚えているので、スタメンの変更はできます。

バッティングは、ストレートのタイミング・カーブのタイミングなど、球種ごとにスイングするタイミングを覚えています。ミートカーソルが自動でボールを追うように設定しているので、スイングのタイミングが合えばヒットを打てます。晴眼者の皆さんのようにコースを読んで打つのではなく、スイングのタイミングを測って打つのを楽しむ感覚です。

走塁では、歓声や実況の声で大体の状況を把握できます。良い当たりでも、観客や実況が盛り上がっていなければセンター真正面のフライだったり・・・・・・。音から分かる打球の行方や、ランナーの走力などから進塁するかどうかを判断しています。

投球の操作は簡単で、ほとんど目が見える人と操作は変わらないと思います。守備はセミオート(捕球は自動・送球は自分で操作)の設定にしています。

ーーちょっと考えられないですね・・・・・・(笑)もう一方の視覚障がい者向けのゲームはどんなものですか?

視覚障がい者向けのゲームは、PCの音声読み上げソフトを利用してプレイするものが多いです。もともと音だけでプレイできるように作られているものが多いため、私でもスムーズに遊ぶことができます。『Shadow Rine〜シャドウライン〜』『僕らの大冒険』というゲームをやっていました。

ーー丹羽選手はいわゆる”普通”の趣味を持っていると感じるのですが、晴眼者の友達も多いですか?

晴眼者の友達は、バンドつながりで結構いますね。ライブハウスに行って知り合った人とか、大学の学祭に出たときに知り合った人とか。あとはブラサカで出会った人たちも多いです。

その人たちとゲームをすることはよくあります。『桃太郎電鉄』が大好きなのですが、一人で遊べないので目が見える友達とやっています。

ーー「こうなったらもっと楽しいのに」と思うことはありますか?

もう一歩、視覚障がい者に歩み寄ってくれればなと思うときはあります。先ほど晴眼者向けのテレビゲームを遊ぶ話をしましたが、実際には「このゲームをやってみたいな」と思ってもできないことのほうが多いのが現実です。

文字情報中心のストーリー性が高いゲーム等を遊ぶことは、視覚障がい者にとってどうしても難しいことですが、(PCの読み上げソフトではなく)テレビゲーム機自体に読み上げソフトが搭載されていれば、視覚障がい者でも楽しめるゲームの種類が増えるのになと思います。

2020年に発売された『The Last of Us Part II』というPS4のゲームには、アクセシビリティ機能が実装されています。アクセシビリティ設定項目が60種類以上あって、障がいの程度によってさまざまな設定ができるようになっています。そして、聴覚や細かい運動に関するオプションも豊富にあるため、視覚障がい者でもそれぞれに合った楽しみ方ができるようになっています。

誰もが遊べることを大切にする考え方と、それを可能にする技術の組み合わせ。そうした工夫が社会全体に広がれば、障がいを理由にやりたいことを諦めなくてもよくなるのではないかなと思います。

ブラインドサッカーを通して、周りに勇気を与えられる存在になりたい

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ーーブラサカにおける目標を教えてください。

目標は二つあります。一つは、日本を代表する選手になってパラリンピックに出場すること。もう一つは、ブラインドサッカーを通して、周りに勇気を与えられる存在になることです。

多かれ少なかれ、人には苦手なことやコンプレックスを感じることがあると思います。私にもできないことや苦手なことはたくさんあって、そのうちの一つが目が見えないということです。もちろんこれは悪いことばかりではありませんが、目が見えないことによって不便なことがあるのも事実です。

”人より劣っている点があっても、工夫次第で、楽しむことも人の力になることもできる”、それをブラインドサッカーのプレーを通して体現できる選手になりたいです。

ーー最後に読者の方へメッセージをお願いします。

いつもブラインドサッカーを応援していただき、本当にありがとうございます。皆さんの支えがあって、私たちはブラインドサッカーをプレーし続けることができています。いただいている応援にお答えできるよう、これからも全力で励んでいきます。コロナ禍が落ち着き、皆さんに直接お会いし、プレーをお見せできる日を楽しみにしています。ぜひその際には、気軽にお声掛けいただけるとうれしいです!

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編集後記

最後までお読みいただき、ありがとうございます。ブラサカマガジン担当の貴戸です。障がいや人種、ジェンダーなどに対する偏見の原因の一つには、それについて単に”知らない”ということもあります。一度それについて知ってみれば、偏見がなくなることも少なくないはずです。

ブラインドサッカーには、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会をつくる力がある。それは、お互いがお互いのことを”サッカー”を通じて、自然に知ることができるからです。

「お互いを自然に知り合える」という点において、今回丹羽選手が話しているバンドやゲームなどの趣味の領域は、大きな可能性を持っていると言えます。さまざまな趣味を誰もが楽しめるようにするにはどんな工夫が必要なのか、障がいのある人と楽しみを共有するにはどうすればいいか。一人一人が、自分の好きな領域でそんなことを考えていけば、誰もが混ざり合う社会に近づくのではないかと思いました。

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