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JBFな人たち #20 塚本寛基(株式会社Ash & Co.)

JAPAN BRAND FESTIVAL(以下、JBF)にかかわる人たちは、一体どんな想いを持ってものづくりやビジネスをやっているのか? JBFに入って良かったことは何か? 当事者たちにインタビューしてきました。
今回お話を聞いたのは、企業ブランディングに軸足を置き、CI・VIを中心にグラフィックデザインを手がける株式会社 Ash & Co.の塚本寛基さん。一昨年、娘さんが生まれてから、考え方も生活もずいぶん変わったそうです。

新ブランド立ち上げの裏に「娘」の存在あり

——デザインを通して、多岐にわたる企業のブランディングを行っている塚本さんですが、最近伝統工芸作家とのコラボブランド「KIJI」を立ち上げましたね。それはグラフィックデザインというお仕事の延長ですか?

塚本 20年ほどデザイン業界で働いていますが、プロダクトデザインはほとんどしたことがないんですよ。なので、延長というよりはじめての挑戦ですね。
でも、子どもの頃から自分もモノを作るのが好きだったし、職人さんの手仕事を見るのも好きだったんです。近所の畳屋さんが張替えをしていたり、職人さんが看板を塗り替えたりするのを学校帰りに足を止めて見ていた記憶があります。

——では、ご自身のなかでは自然な流れだった?

塚本 うーん、大きなきっかけとしては娘の存在かもしれないです。2年前に生まれたんですが、そこでガラッと考え方が変わって。正直、若い頃は「今さえ楽しければいい」「宵越しの金は持たない」なんて思っていた時期もあったんですけど、娘が生きていく世界を考えたら、環境や社会のことにも気持ちが向くようになりました。伝統工芸品のように丁寧に作られた製品を長く大切に使うことって、すごく自然だし、結果的にエココンシャスなライフスタイルだと思うんです。

——「結果的に」という部分が面白いです。

塚本 もちろん、意識して環境にいいことをするのも大切だけど、みんながみんな、急にそういう考え方に変わったりはしないですよ。それに、大変な努力をしなくちゃいけない生活って長く続けられない。でも、「これ素敵だな」「便利だな」と思って使っていたら、結果的に、環境によかった。これが一番、無理がない、サスティナブルなライフスタイルだと思うんですよね。

——塚本さんのデザイナーとしての矜持(きょうじ)を感じます。

塚本 それで、デザイン性が高く、日常使いできる伝統工芸品のブランドを、という発想に行き着いたわけですが……実はその具体的な造形も娘がヒントになったんです。娘が食事をする姿を見ていて、幼児の体に合って、使いやすくてデザイン性も高い木のスプーンを作りたい、と思ったのが「KIJI」というブランドの具体的な構想のはじまりです。

一緒にブランドを作り上げていく仲間

——「KIJI」はどんなブランドですか?

塚本 コラボレーションするのは、岐阜県恵那市で木の器を作る工房「小林ロクロ工芸」の三代目・小林哲也氏です。「KIJI」という名前自体が、小林氏の「木地師(きじし)」という仕事からつけたので、木を使った器やキッチンウエアなどの生活雑貨を中心に展開する予定です。
といっても、生活雑貨という特性上、木だけではまかないきれない部分がある。それははじめからわかっていたことなので、金属やガラスなど、異素材の職人さんを交えてのコラボレーションも構想はしています。

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——そもそも、小林氏とはどうやって出会ったんですか?

塚本 妻の同級生の弟さんなんですよ。工房の存在は前から知っていたんですが、彼とは妻を介して出会うことができてよかったと思っています。ずっとブランディングに携わってきたのでわかるんですが、知らない工房に行って「こんなものを作りたいんですよね」と相談した時点で、僕と相手は「発注者」と「業者」になっちゃうんですよね。入り方がオーガニックだったので、一緒に新しいブランドを作り上げていく関係も自然と構築できて、妻には感謝しています。

——塚本さんは、KIJIのプロデュースだけじゃなく、自分でもプロダクトを作られるんですよね?

塚本 先ほどお話した子ども用の木のスプーンは、僕がデザインして、理学療法士のアドバイスを受けながら、関節の自然な動きに着目して設計しました。プロダクトデザインは初めてなので難しい部分も多いけど、今はそれが楽しくて仕方ないです。

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仕事が捗る魅惑の晩酌タイム

——JBFに参加したのは、どうしてですか?

塚本 今の当社の最大の課題が、資金調達と販路の確保。そもそもモノを売った経験がほとんどないので、その部分での知見が得たくて参加しました。でも、それ以上に得るものがありました。

——具体的にどんなメリットを感じていますか?

塚本 第一に、KIJI事業と非常に親和性の高いメンターさんと出会えた。これも素晴らしいことですが、他の参加者のみなさんとの出会いも、JBFに参加していなかったら絶対になかったものなので、感謝しています。
当社はたぶん今回の参加者では最小規模の法人だと思うんですが、3つくらい桁が違う大きな企業や、北は北海道から南は沖縄まで、さまざまなエリア、業種、会社の歴史……。

——創業100年超えの老舗企業さんも結構いますからね。

塚本 驚きました。そういう、何もかも違う人たちと、同じ課題に向き合って、一緒になって意見を交換できるのは、JBFならではだと思います。あと、JBFに参加したことでイベントというタイムリミットが設定されたので、一人でやっていたら先延ばしにしていたようなことも、やるしかない。個人的にはこれが結構大きかったと感じています。

——しかし、もともとの仕事もあるし、今はかなりお忙しいんじゃないですか?

塚本 一時的に、朝まで仕事をして、午前中に仮眠をとって、午後からまた仕事をする……みたいな生活リスムになってしまっていて。妻には叱られています(苦笑)。楽しいから苦ではないですけど、サスティナブルな働き方をどうマネジメントするか、これはやはり課題ですね。とはいえ、お酒と料理が大好きなので、忙しいと言いつつ、毎日妻と晩酌はしていて。それが終わったら、気持ちを切り替えて、また仕事。家族とのこの晩酌の時間があるから、忙しくても頑張れるんだと思いますね。

塚本 寛基
株式会社 Ash & Co. 代表取締役

1975年、東京都生まれ。1998年よりグラフィック・デザインに携わる。広告代理店勤務・制作会社取締役等を経て、2007年に独立。ブランディングに軸足を置き、企業や商品・サービスのCI・VI設計やグラフィックデザインを幅広く手がける。2020年、株式会社 Ash & Co. 設立。2021年3月、伝統工芸作家とコラボした生活雑貨ブランド「KIJI」をリリース。伝統工芸技術を現代に活かした生活雑貨・ファッション雑貨・インテリア雑貨などを展開予定。



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