議論の多い政策テーマを報じる際に避けるべきことと、正しく報道するための方法

<感染拡大防止のコミュニケーション> Curated by 瀧澤美奈子

 世の中には、合理的な意思決定が必要な複雑な政策テーマが多くあります。あるテーマについて、さまざまな情報や対立する意見が存在するとき、情報を発信する際にどのようなことに注意したら良いのでしょうか。有力な情報源は学術界にありますが、どのように質の高い研究を見極め、報道に利用すればいいのでしょうか。ハーバード・ケネディスクールのThe Journalist’s Resourseの記事、Covering scientific consensus: What to avoid and how to get it rightより、ポイントを抜粋してご紹介します。

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「ワクチンの安全性」などのような議論の多い政策テーマを報道する際、ジャーナリストは「科学的コンセンサス」を参考にすることができます。 

科学的コンセンサスとは、その分野の専門家が入手可能な証拠の解釈に基づいてまとめた総合的な見解のことです。自分が取材している政策問題について、専門家の間で合意が得られている場合、視聴者(読者)はその情報を必要としています。

以下に科学的コンセンサスを報道する際に避けるべきことと、正しく報道するための方法をご紹介します。

1.     避けるべきこと

  • 特定のトピックに関する研究者の見解が、その分野の他の研究者の見解と比べてどうなのかを説明せずに、個々の研究者の見解を引用すること。

  • 研究者に専門外のテーマについて意見を求めること。

  • その分野のコンセンサスを紹介せずに、意見の対立が激しい研究者の発言を引用すること。

  • 科学的見解に関して、研究者、政治家、コミュニティ・リーダーなどの対照的な意見を同等に扱うこと。ジャーナリストは公正でバランスのとれた報道をしようとする傾向がありますが、科学報道では失敗の原因となります。科学的見解に関しては、研究者コミュニティが何十年もその問題について証拠を積み上げているという事実をふまえた報道が必要です。科学的コンセンサスと極端な立場の声高な批判者の意見を同等に扱うと、「何が真実か誰にもわからない」という誤ったイメージを視聴者に与えてしまいます(とくに米国では気候変動問題でこの誤りが長く続きました)。

2.     正しい情報を得るには

  • あるテーマについて、科学者間で意見が一致しているか、またどの程度一致しているかを判断するには、査読付きの研究成果が参考になります。学術雑誌には特定の問題について合意のレベルを明らかにするために、既存の研究を分析した論文や総説が掲載されています。

  • 科学アカデミーや学協会などの科学組織がコンセンサス・ステートメントを発表しています。

  • まだ十分に研究されていない問題や、プレプリント論文、学会発表の内容などで査読が行われていないようなテーマを取り上げる際には注意が必要です。査読とは、独立した研究者が研究内容を評価し、科学的な問題点や欠点を指摘するプロセスです。

 3.     より良い報道のために

  • すべてのテーマについて、専門家のコンセンサスがあるわけではありません。しかし、研究者コミュニティは重大な結果をもたらすような、論争の的になるトピックについて、合意に関する検討を重ねる傾向があります。そこで、可能であれば「合意している研究者の割合」を示すことで、その時点での科学的主張の妥当性についての情報を視聴者に伝えることができます。

  • 一方で科学的コンセンサスは、科学者が現在までに集めうる情報をもとにまとめた見解であり、(とくにまだ十分に研究されていない問題では)時間が経てば科学者の見解が変わりうることも頭に置いておくべきです。研究の進展に従い、科学知識にはつねに新しい情報が加えられていくからです。

 

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