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デンマークで日本食関連事業を起業するための基礎知識<前編>

北欧研究所
2019年8月

はじめに

本資料は、日本人を対象とし、デンマークで飲食店および輸出入などの事業を起こすことを希望する方への基本情報をまとめたものです。はじめにお断りしておきますが、完全にレストラン・食品業界に未経験の方は想定していません。レストランや飲食業で成功することはある程度の経験や知見が必要だと考えますが、さらに、海外で開業することは、言葉の壁や法律、社会ルールの壁が高く立ちふさがります。「レストラン・食品業界の方を対象」とするとしているのは、本資料では、飲食業の手引きなどの項目は含まれていないためです。ある程度、飲食業に通じている方が、新しい(日本)食の開拓地として北欧、デンマークを選んだということを想定しています。特に、国の違いから起こる法律の違いなどの手引きとして役立てられることを想定しています。

デンマークで食関連事業を起業するにはいくつかの壁があると考えられます。

1. 言うまでもないことですが、レストラン・食品産業は一般的に厳しいと言われる業界です。日本に限らず欧州、そしてデンマークでも、レストラン業界や食品業界は、競争が激しく、移り変わりの多い産業と見なされています。新しいレストランがウドのたけのこのように出てきては消えていく状況は、飲食業界に長年携わる方々にとっても良く見慣れた光景だと思われますが、この状況はデンマークでも変わりません。また、ワークライフバランスが整った国と言われる北欧でも、レストラン業界における(オーナーの)労働時間の長さは他国にも劣りませんし、「人気店になることと収益を上げることを同時に達成することはほぼ不可能」 と著名なデンマーク人レストラン起業家が述べていることからも、デンマークでも飲食業は難しい、ということがわかるかと思います。

2. また、デンマーク独自の課題もあります。欧州では食品関連は、比較的規制が厳しく新規参入者やEU外の第三国が入りにくい環境にあると言われますが、レストラン経営を成功に導く前に立ちふさがる課題は、そのような規制ばかりではありません。まずに、オーガニックマークが街に溢れている北欧では、消費者の食品安全に対する意識や知識が非常に高いことが、日本の状況と大きく異なります。例えば、オーガニック食品に関しては、普通のスーパーマーケットでも、日本とは比較にならないほど多種多様な製品を手軽に買うことができます。レストランなどでも食材の何パーセントがオーガニック食材であるかを誇るマークが掲げられているレストランが増加していますし、公共施設では上位ランクのゴールドマークを掲げている社食が80%とも言われます(参考)。

3. また、デンマークでは、人件費が非常に高い為に、泥臭く人手でカバーといった労働集約型の産業は成り立ちません。著名なレストランであったとしても、ホールのサービス人員が客10名に対して1人といった場所は溢れるほどです。さらに、首都コペンハーゲンは新しい食が好まれる傾向はありますが、デンマーク全体で見ると一般的に伝統的な食事が好まれ、新しいものはなかなか流行らないとも言われます。新しいもの好きの日本の消費者とは異なる消費者層が見えてきます。

4. 日本料理屋に対するデンマーク人の独自のイメージがあります。日本食はたとえラーメンであっても健康に良いというイメージがあり、そのイメージに沿ったラーメン屋が、コペンハーゲンでは成功している傾向にあります。例えば、オーガニックのラーメン屋サステナビリティ認証を受けたラーメン屋などで、日本ではまだあまりみない形ですね。日本茶や日本酒は、デンマークでも大人気で引き手数多ですが、日本のお茶やお酒は、欧州のオーガニック認定を持っていないことがほとんどで、取り引きに至りません。近年、北欧でも日本食料理屋が増加の傾向にありますが、主流はまだスシで、2017年ごろからようやくラーメン屋が見られるようになってきています。また、日本料理屋は、中国・タイ人によるものがほとんどで、そのようなレストランが日本食料理店として認知されている傾向にあります。

デンマークで、日本食レストランの開業や食品ビジネスを成功させるコツはどのようなものなのでしょうか。北欧で成功している日本食料理屋またレストランやカフェの経営者は、持ち前の体力と熱意と長時間労働で運営をしつつ、レストランの経営に喜びを感じていたり、苦労するプロセスを楽しんでいるようにも思えます。

分野にかかわらず言えることだと思われますが、レストラン経営や飲食業の成功に不可欠なのは、もっと基本的なビジネススキル練られたビジネスプラン予算や資本金、そして特に外国人の起業家にとっては銀行との関係がしっかりしているかなどが重要です。その上で、本資料で紹介する様々な規制の遵守義務を全うし、許可の取得など確実にプロセスを進めていくことが重要になってきます。北欧における飲食業経営では、属人的な不合理なルールはありません。最終的に、多くの困難は熱意と理解と時間があれば超えられるものです。

ちなみに、2017年のデンマーク統計局の報告によると、前年度比9%増の1,700店舗の飲食店が新規開店しています。伝統的に自宅での食事が中心だった北欧にも外食文化が2000年を境に広がりを見せています。産業としては、興味深い転機にあるようです。

本レポート<前編>では、日本人(EU市民以外)がデンマークで企業設立をするための事項について解説します。<後編>では、飲食店の開業輸出入手続きについて取り扱います。

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