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蜂の生息地減少の解決策「Bee Home」−SPACE10の試み

高倉遥輝:著
北欧研究所:編集
2020年6月発行

はじめに

デンマーク、コペンハーゲンの中心部にあるSPACE10(IKEAのイノベーションラボ)をご存知だろうか。そんなSPACE10での、最近注目される取り組みの1つに「Bee Home」というものがある。これは、世界中で問題となっている蜂の生息地の減少、それに伴う植物の受粉機会減少の問題に対処すべく行われたプロジェクトだ。本項では、「Bee Home」の概要その背景、またそこに取り入れられている民主的デザインについてお話ししたい。

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Bee Homeとは

Bee Homeとは、その名の通り「蜂のための家」であるのだが、注目すべきは、集団ではなく単独で行動する蜂のためにデザインされた住処だという点だ。そして、誰でも、好きな様にオンラインでBee Homeの構造をカスタマイズできるようになっており、地域のメーカースペースで実際に作り上げることができる。誰でもどこにいても参加できる民主的デザイン手法のパイオニア的位置づけとしての製品だ。Bee Homeの利用対象エリアは世界中で、世界中の蜂の生息数減少を課題として作られた。

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HPでは世界中のメーカースペースを一覧できる)

蜂の減少と受粉の重要性

蜂さん

Food and Agriculture Organisation of the United Nations (FAO)によると、約90%の花を持つ植物の受粉は生物によって行なわれているつまり、それは、約3分の1の世界の食糧供給は生物による受粉によるものだということなのだそうだ。蜂のような花粉媒介者は、多様な生物が存在でいる生態系を可能にしており、今の世界を形成している。

しかしながら、そのような蜂の存在は、現在、人間の活動の影響から絶滅の危機にさらされている。知らず知らずのうちに、蜂の住処や生息地が人間の建物構築や殺虫剤、化学用品などの影響で追い込まれ、結果として自然植物の草地や、蜂がかつて住処としていた場所が失われる状況が起こっている

人々と植物のより良い関係を再構築するために、私たちの周りの自然環境を再建する必要がある。まず第一歩目として、蜂の住処を彼らに返すことを目的とした人々と植物のより良い関係を再構築するために、私たちの周りの自然環境を再建する必要がある。このような問題意識から、まず自然環境再構築の第一歩として、Space 10では、蜂の住処を彼らに返すことを目的としたBeeHomeのプロジェクトが立ち上げられた。

どうして、単独行動する蜂を対象とするのか

Bee Homeは、数ある蜂の種類の中でも最も生産性の高いと言われる単独行動する蜂のために作られた。世界中には2万から3万の蜂の種類があると言われている。最も有名な蜂は西洋蜜蜂(集団で生活している)と呼ばれるものだが、そうした集団行動する蜂がいる一方で、ほとんどの種類の蜂は孤独に暮らしており、巣箱に暮らしているわけでも、蜂蜜を作っているわけではない。その代わりに単独で生活し、花粉集めや子孫のための食べ物集めに勤しむ生活を送っている。

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単独行動する蜂は、花粉媒介者として通常の蜂以上、ミツバチ約120匹分の働きをするさらに、商業用に国間の取引等で運ばれてきたミツバチとは違い、野生の蜂はその環境や生息地にあった植物に特有的に適応、共進化している。そのため受粉において、彼らは他の生物にはできないオリジナルな仕事を果たしている。

単独行動する蜂の面白い点は、全ての雌蜂は巣を持つ女王蜂のような働きをし、約20−30の子孫を残せるという点だ。つまり、住処や生息地さえ確保できれば、蜂の数減少という問題に対処できる可能性は高い。安全面を考えると、子孫を持った雌蜂は本能的に人に危害を加える可能性もあるという危惧すべき点がある一方で、ミツバチが蜂蜜のように守るものがあるのに対して、単独行動する雄蜂は子孫を持たず、蜜のように守るものがないため攻撃しないという調査結果がある。

これらの点から、Space 10は、1つのBee Homeが何百もの孤独な蜂に生活の場、命を与えることによって、花、木、そして生物や私たちのエコシステムが今後も存続していくのに役立つと考えた。

Bee Homeのデザイン背景

Space 10でのBee Homeプロジェクトは主に、アジャイル式のプロトタイプデザイン、プロジェクト過程に合わせたさらなる調査という2軸で進められた。それぞれ、物理的なデザインを用いて最適な結果が目に見えるように工夫しており、アイデアに基づき素早く、流動的な繰り返しや向上を行なっている。

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第一に行ったことは、蜂のニーズにフォーカスすること。ほとんどの単独で行動する蜂は、木や地面に掘られた隠し穴に巣を作り暮らしている。Bee Homeは、そうした本能的な自然な生態傾向に沿ってデザインされており、それぞれの蜂にとって食べ物を貯蓄する場所に加え、卵を守るシェルターとなる場所を提供している。のりやその他、有毒となりうるものは全て排除し、それぞれの蜂が卵を置くであろう特定の場所のディメンションなど、全てに渡ってできる限り蜂の目線に立ち、いかに蜂がアットホームに感じるかが考えられた上でデザインされている。

第二に、ローカルな製作と持続性を主要なデザインの成功の基準とした。Bee Homeはローカルの硬木を使うことを念頭に置かれてデザインされた。つまり、Bee Homeはその蜂の生息地域から集めた材料を出来るだけ使うようにしてデザインされている。全体デザインに釘やその他のマテリアルは使われておらず、リサイクルも簡単に行うことができるようになっている。これは、野生の蜂がオリジナルな仕事を果たすための環境づくりでもある。

第三に、誰でも簡単にデザインできるような工夫を試みた。BeeHomeのデザインには、簡単にカスタマイズできるようにするためにパラメトリック・デザイン*が用いられている。どこであろうと誰でも、Bee Homeのデザインや実現に関わることができるようになっており、日本にもある10を超えるファブラボで簡単に作ることができるような仕立てになっている。

Bee Homeのそれぞれの層は異なるデザインが施されており、最大9層まで重ねることが出来る。モジュールデザインのおかげで、層の順番をシャッフルしたり、ランダムに並べ替えられるようになっており、最もいいと思う組み合わせの数でそれらを配置することができる。

*パラメトリック・デザイン:3次元のモデリングの際に変数を用い、その数値の変動(パラメータ)を操作することで出来上がるデザインのこと

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デザインと製作の新時代

Bee Homeは無料で誰でも参加できるデザインリソースであり、民主的なデザインの先駆けとなることを目的としている(もちろん実物の製作には材料費など費用がかかるが)。デジタル制作やパラメトリック・デザインなどの最先端の技術に、誰がどこでもデザインやカスタマイズ、製作に関わる一人となれる新たな分配的な方法を統合することで、高度な技術を用いたプロジェクトに関わらず、人々の参加を促すことを可能にしているのだ

当該の課題解決と同時に、あらゆるローカルな土地で様々なBee Homeの作成を可能とすることで、誰でもどこでもデザインに参加できる民主的デザインの先駆けとなるという目的を掲げた当プロジェクト。Space10が、様々な最先端の技術と民主的デザインや製作手法を結びつけることに新たな機会や可能性を見い出していることが感じられる。

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考察

受粉や食生といった人間誰しもが関わる問題に取り組むプロジェクト「Bee Home」。しかし、普通に生活している一人の人間として、受粉などに関して課題意識を持つことは非常に難しく、そもそも課題を知る機会にすら巡り合わない。しかし、誰もが自分自身で蜂の住処をデザインすることができるという形をとることで、より蜂との共生を意識するきっかけが増えることを実感した。

調査やインタビューを通じて、BeeHomeが民主的デザインを取り入れることで、蜂の生息地の減少に対する問題解決の手段としてのみではなく、人間の当事者意識を高めるという役割を果たしていることに気づいたSPACE10の注目する最先端技術と民主的デザインは、今後私たちの生活にどう関わっていくのだろう。

参考文献

1. http://www.fao.org/news/story/en/item/384726/icode/
2. https://news.un.org/en/story/2019/05/1038801
3. https://www.growwilduk.com/wildflowers/bees-pollinators/all-about-solitary-bees
4. https://space10.com/project/bee-home-an-open-source-design-for-our-planet/




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