狂人たる君へ


  世相をわだかまりと呼ぶ君へ、


君は取り残された。

はるか昔より君は取り残されていた
ただ一つを想わんばかりに遺された
ただ一つを願わんばかりに遺された
ただ一つを脈々と伝えんが為に…
          …取り残された。


 それでも世界は回るだろう
何事もなきように、それでも世界は紡がれる

君が何を願おうとも
     君が何を欲っそうとも


         それでも世界は…


   世界は
 何食わぬ顔で回り続けるだろう。
     まるで君を否定するかのように。
   まるで君を必要としなかったように。
       まるで君を殺さんとするかのように。


まるで君が存在しなかったかのように…。



君は狂人

どの時代、どの国、どの世界においても
君の宿命は
狂人である事

『狂人である事』
それのみが
君の唯一の存在意義


君の名はなんと言う?
いや
それも意味もなき事

君が何と名乗ろうと
それは、
その名の意味する処は
狂人である事。
ただそれのみしか無く。


いかにそれを遠ざけようとも、
許されようと望んでみても、
もがいてみても、
たとえ安寧を求めようとも、
たとえ安寧があろうとも、

それは一瞬、

ただの一瞬でしかなく、
それは君が狂人である事を痛感する為の儀式でしか無く、
呪う為の儀式でしか無く…。

狂人たる君は
孤独と共にあり、
虚しさと共にあり、
愁と共にあり、
自己嫌悪と共にあり、
羨めしさと共にあり、
怒りと共にあり、
嘆きと共にあり、
そして

流れぬ涙と共にある
それが君なのだ。


全てに嫌悪、憎悪、呪罵の記憶を持つ君よ
君はやがては君を産み落とした『我』を呪うだろう

我は生まれてこの方、
ただの一度も君に
狂人たりえなかった人生など一つも与えてはやれなかった、

それはそれが君だけの宿命であり、
『さだめ』だったからだ。

理解などもう、求めるな、
君を理解など…
そもそもが不可能だ

君には安寧は無い。


永劫、
君は狂人たる道を一人歩む。

何度死のうと、何度生きようと。
何を望もうと、何を願おうと
それは決して叶わぬ願いであり、
そしてそれは叶わぬ想いである。

そして、
その想いすらもまるで、皆無の事象の一部のように
世界は回る
君をただ一人残し
何を訴えようと、変わらぬ事もまた
理の一部なのだから。

それすらも良く知る君は
それでもそうあり続けるしか無く

それが狂人たる君の宿命であり、
ただ一つの生き方であり、
それしか歩めぬ憐れなる君の、人生なのだから。


我は君に命を与えた。
狂人たる道を歩ませる為、命を与えた。
一つの願いを永劫伝え続けんが為に。

ただそれだけの為に
君に命を与えた。

君は狂人、
悲しき、むなしき、嘆きの狂人

そして、いつかは狂人である事を誉れとせよ。
君は狂人のままで
全てを許し、自らを許し、我を許し

狂人たる君の目から
狂人のたどり着くその境地から

世界を見渡せ、
それが、
君のよく知る凪の景色



…そしていつかは

真に美しい

狂人となれ

 

     …耳鳴りがする…。










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