
戦国Web小説『コミュニオン』第22話「私が待っててやるよ」
第22話 「私が待っててやるよ」
静流 「隼介・・・頑張ってんだね。」
大山 「・・・ああ。なんてったって、斬りこみ隊長だからな。」
笑顔が消える静流。
静流 「・・・怖い名前だね。」
大山 「会いにきたんだろ?」
静流 「うん。」
大山 「隼介はなんて?」
静流 「なんてって・・・べつに。」
大山 「・・そう。」
静流 「なんだかな~~。」
大山 「なに。」
静流 「聞いてくれる?」
大山 「いいけど。」
静流 「ねぇ、大山はどこの宿舎?」
大山 「あそこ。」
隼介がいる宿舎を指さす。どうやら歩兵1番隊の宿舎のようである。
静流 「あそこか・・・。」
大山 「なに?」
静流 「じゃぁいいや。」
大山 「なに??」
静流 「隼介の前だと・・・」
大山 「マズイの?」
静流 「なんかさ、迷惑な気がして。さっきも追い出されたし。」
大山 「ここじゃダメなの?」
静流 「いいけど・・・」
静流、周りを見渡す。さっきから何人か兵士たちがうろついている。人の目が気になる静流。
大山 「気になる? 人目。」
静流 「うん。別にいいんだけど、なんか、兵士の人たちってちょっと怖い。」
大山 「味方だよ。」
静流 「まぁ、そうなんだけどさ。」
大山 「俺らだってそうだし。」
静流 「そうなんだけど、ちょっとね。」
大山 「よくここまで来れたな、そんなんで。」
静流 「おぅ。褒めてくれ。」
大山、少し笑ってしまう。
大山 「いいね。やっぱ面白いわ。」
静流 「私?」
大山 「おぉ。癒される。」
静流 「マジで?もっと言ってくれ。」
大山 「言わないけど。」
静流 「あそ。」
大山 「ちなみに・・俺も怖い?」
静流 「ん~ん。ってか、怖かったら話しないよ。」
大山 「そっか。いや~、俺、初対面の人に怖がられたりするからさ。」
静流 「でかいもんな。」
大山 「おぅ。」
静流 「それに顔もいかついし。」
大山 「かな。」
静流 「どー見ても年上だし。」
大山 「それは関係ねーし。」
静流 「確かに意外だな~。」
大山 「何が。」
静流 「見た目と違う。」
大山 「ん?」
静流 「印象。多分黙ってたら絶対怖い人だと思う。」
大山 「多分なのに絶対か。」
静流 「絶対怖いな。」
二人の会話は続く。他愛もない内容だが、楽しそうな二人。いつしか話題は少し重くなっていた。
静流 「隼介はさ、いつ戻ってくるの?」
大山 「俺に聞かれてもな。」
静流 「だよね。」
大山 「・・・本当に会いにきただけなんだな。」
静流 「他に目的なんかないよ。」
大山 「そうか。」
静流 「もちろん役に立つつもりで来たよ。治療のことだって勉強してきたし。」
大山 「・・・俺は・・・こんなところに居てほしくないな。」
静流 「・・・・・。」
大山 「あ、べつに嫌だとか、邪魔だとか、全然そうゆうことじゃなくて。そうゆうことじゃなくて・・・」
静流 「なに?」
大山 「こんな危ないところに居てほしくない・・ってこと。」
静流 「ありがと。」
大山 「待ってなよ。安全なところでさ。」
静流 「・・・・・。」
大山 「待っててくれる人がいるってだけで、すごい支えになると思うよ。」
静流 「・・・なんか・・・」
大山 「ん?」
静流 「いいこと言うね、大山。」
大山 「まぁ・・本当に、そう思うし。」
静流、笑顔。
静流 「大山にもいるんだな、そうゆう人。」
大山 「いや、俺は・・・」
静流 「いるんだろ。」
大山 「俺には、いない。」
静流 「嘘つくな。」
大山 「いないって。」
静流 「だったらさっきみたいなこと言わないだろ。」
大山 「俺は、「思う」って言っただけ。俺自身にはいない。」
静流 「そうなの?」
大山 「おぉ・・。」
静流 「でも、家族とか、友達とか、離れ離れになったんでしょ。」
大山 「家族はいないし、友達は道場の仲間しかいないから、一緒に来た。」
静流 「・・・・・。」
大山 「まぁ・・・いや。」
その友達も何人か死んでしまった・・・とは言えなかった。
静流 「そっか。」
家族はいない。あまり深くは聞かない方がいい気がした静流。
大山 「・・・・・。」
突然、大山の肩をパシッと叩く静流。
大山 「いて。」
静流の方を見ると、満面の笑み。
静流 「私が待っててやるよ。」
大山 「え。」
静流 「元気で戻ってこいよ。」
優しい笑顔だった。とても暖かい笑顔。
大山 「おぉ。ありがと。」
辺りは暗くなっていた。今日はもう何も任務はないとはいえ、いつまでも雑談しててはいけない。いつ不測の事態が起こるとも限らない。ここは敵地で、今は戦争中なのだ。
大山 「じゃ。」
静流 「え、もう行くの。」
大山 「おぅ。」
静流 「もっと話そうよ。」
大山 「いや、自分の宿舎で待機だ。」
静流 「え~~~。大山ぁ、かたいこと言うなよ~~。」
大山 「俺ももっと話してたいんだけどな。」
静流 「じゃぁいいじゃん。」
大山 「ダメ。いつ緊急の命令がくだるか分からん。」
静流 「そっか。そだね。うん、分かった。」
静流と別れた大山、宿舎へと歩いていく。本当にもっと静流と話していたかった。
皇 「大山く~~ん。」
大山 「うわビックリした~~~。皇?」
声の主が闇の中から姿を現す。ニコニコと爽やかな笑顔
皇 「女の子と二人で何してたの~~?」
大山 「・・あぁ・・参るなぁ。」
皇 「密偵としての腕は上達しつつあるけど、まさか自分が監視されてるとは思ってもみなかったようだね。」
大山 「思ってもみねーよ。」
皇 「なに話してたの?」
大山 「べつに。」
皇、大山と静流の声真似をする。
皇 「なんかぁ、兵士の人たちってちょっと怖ぁい。味方だよ。」
大山 「聞いてんじゃねーかよ!? しかもけっこう最初の方から。」
皇 「情報収集が任務だから。」
大山 「いらねーだろ、こんな情報。」
皇 「上層部に報告しないとね。」
大山 「何を報告するんだよ。」
皇 「あの二人、怪しいですって。」
大山 「あそ。」
皇 「で?」
大山 「でって?」
皇 「どうなの。」
大山 「どうって。」
皇 「どう思ってるの、静流ちゃんのこと。」
大山 「べつに。」
皇 「そう。」
大山 「おぅ。」
皇 「・・・そっか。いやね、込み入った話までしてたからさ。」
大山 「・・・・・。」
皇 「あんまり言わないじゃん、仲良い人にしか。」
大山 「うん。なんか・・言えた。」
皇 「そっか。あの子、話しやすいのかな。」
大山 「話しやすいな。気がほぐれる。」
皇 「奪っちゃう? 相葉君から。」
大山 「べつに隼介のものじゃないだろ!」
皇 「あら。ムキになっちゃってぇ~。」
大山 「・・・そんなんじゃねーよ。」
宿舎へ入っていく大山。
皇 「・・・・・。」
皇も宿舎へと入る。中に入ると、大山が皆に囲まれ、口々にはやしたてられていた。
兵士 「なんかぁ、兵士の人たちってちょっと怖ぁい。味方だよ。」
大山 「聞いてたのかよ!? しかも最初から聞いてんじゃんかよ!!?」
大山の肩をパシッと叩く兵士。
兵士 「私が待っててやるよ。」
大山 「うるせーよ!」
実はずっと聞き耳をたてられていたようである。しかも宿舎の皆から。どうやら静流のことが気になった宿舎の者たちが目で追っていたところ、大山と二人で話し込みだしたので注目を浴びてしまったらしい。宿舎にも窓があるのだ。
皇 「・・・まさか、みんな聞いてたとはね。僕も気づかなかった・・・。」
隼介は一人、巨大刀を磨いている。彼らの話は聞こえているはずだが、何の反応も見せない。
隼介 「・・・・・。」
大山、そんな隼介が気になる。隼介は静流のことをどう思っているのだろう? 自分が静流と仲良くなったらどう思うのだろう? そんなことを考えていた。なんとなく気まずい。気まずくなる理由もないのだが、なんとなく気まずい。
磨き終わった巨大刀を眺める隼介。若い兵士が隼介に寄ってくる。
兵士 「隊長。」
隼介 「ん?」
ちなみに隼介は同じ部隊の者たちから、「隼介」「隼介さん」「相葉」「相葉さん」の他に、「隊長」とも呼ばれている。元々青龍館道場時代からの仲間たちや、年上の者たち、あまり上下関係を気にしない者は呼び捨てで呼ぶ。そうでない者はさんづけか隊長と呼ぶ。少数だが君づけする者もいるにはいる。
兵士 「その刀、「大斬刀(だいざんとう)」って呼ぶそうですよ。」
隼介 「そうなの?」
隼介は基本的に年上には敬語を使う。部下であってもである。あまり歳が離れていない者にはタメ口で話す。部下の方はいろいろである。名前の呼び方もそうだが、敬語を使う者もいれば使わない者もいる。そして隼介はそういったことにあまりこだわらない。
隼介 「大斬刀か。」
兵士 「はい。大きい、斬る、刀と書いて大斬刀です。」
隼介 「いいねぇ。」
隼介、その名前が気に入ったようである。
隼介 「大、斬、刀。」
巨大刀、改め大斬刀を眺めながら悦に入る。見ているだけで、これを振り回している時の感覚が蘇る。柄を握った時の感覚。思いっきり遠心力をつけて薙ぎ払った時の感覚。その反動をこらえつつ二撃目を放つ時の感覚。振った流れに身を任せ、瞬間的に速く動いた時の感覚。それらがリアルに思い出される。
どうもさっきまでの雑談を隼介は聞いていなかったように見える。大山が皆にはやしたてられている間も、隼介は頭の中でずっとこの大斬刀を振り回していたのかもしれない。
兵士 「なんでも、元々は淘來で作られた武器らしいです。」
隼介 「へ~。」
兵士 「もの凄い強い豪傑がいて、そいつが使ってたそうです。」
隼介 「どんな?」
兵士 「詳しくは知らないんですが、昔淘來が攻めて来た時に討ちとられたみたいです。」
隼介 「ふ~~~ん。」
大山 「・・・・・。」
静流のことなど気にも止めてないように見える隼介。やはり隼介の本音が気になる大山。
兵士 「大斬刀の悪鬼。」
隼介 「え?」
兵士 「って呼ばれてるらしいですよ、隊長。」
隼介 「誰に。」
兵士 「敵から。」
隼介 「ほぉ・・・え? あっき??」
兵士 「はい。大斬刀の悪鬼。鬼ですよ。悪い鬼と書いて悪鬼。」
隼介 「え? 俺??」
兵士 「めっちゃ有名らしいですよ。敵軍の間で。」
隼介 「う~~~ん・・・評判悪いのか・・・」
兵士 「いや、凄いじゃないですか。敵から恐れられてるんですよ。」
隼介 「あぁ・・そうか・・・」
兵士 「喜んでいいところですよ。」
隼介 「(苦笑い)ありがと。」
と言って、ふたたび大斬刀を眺める隼介。
この日は何事もなく就寝時間を迎える。明日も何事もなければ陣地構築に一日が費やされる予定である。まだ完成しているわけではないのだ。兵員宿舎がまだ全員分できていない。
まずは位の高い部隊から優先的に作られている。それが完成すれば、捕虜収容所も作られるかも知れないという噂もある。隼介が希望すればおそらく作られるだろう。
眠れない大山。静流のことを考えていた。「私が待っててやるよ。」と言ってくれた彼女は、とても優しく、そして暖かい笑顔を見せてくれた。嬉しかった。まさかそんなことを言ってもらえるとは思ってもみなかった。
宿舎の外に出ると見張りの兵士たちに交代要員かと誤解される。「ただ寝れないだけだ」「ちょっと散歩に」「遠くにはいかないから気にするな」と言って歩き出す。30秒もたたないうちに、隼介を見つける。月明かりに照らされながら大斬刀を振り回している。大山の気配に気づく。
隼介 「・・・・・。」
大山 「隼介。俺。」
隼介 「大山?」
大山 「おぉ。」
隼介 「どうしたの?」
大山 「寝れなくて。お前も?」
隼介 「うん。」
やっぱり隼介も静流のことを想って寝れないのか、と思った大山だったが、
隼介 「これをもっと極めたくて、じっとしてられない。」
大山 「・・・・・。」
違うのか。静流のことは、本当に気にもとめていないのか?
隼介 「なんかさ、いろいろ・・あったじゃん。これからもあると思うし。こうゆう時間がないと、気が振れちゃいそうなんだよね。」
大山 「こうゆうって、どうゆう?」
隼介 「稽古。道場にいた頃もそうだったし、小さい頃から、こうゆうの毎日やってて。遊びみたいなものだったから。だから、すごく落ち着く。」
大山 「・・・・・。」
あぁ、そうか・・・。隼介にとってこれは心のメンテナンスなんだ。武術の腕を磨くこと、武器を扱うこと、それは彼にとっては自分を保っていくのに必要なことだったんだ。人を殺めることに慣れてきたと思っていたが、彼の心はいろいろと複雑なのかも知れない。
決して望まない戦いの日々。そんな中で手にした、自分にとって最高の玩具(癒し?)。本当はこうやって、ただただ稽古だけしていたいんだろうな。
大山が感じたことは正しかった。隼介にとって、こういった行為は心のメンテナンスであった。無心にただただ稽古している時間が癒しになるのだ。そして、相手を「敵」だと断ずることで、なんとか人を殺めることを正当化している。慣れてはきたものの、やはり相当なストレスを蓄積させていたのだ。
大山 「そうか。」
隼介 「うん。」
なるほどね、といった感じの大山。しかし一方で、「で? あの件はどうなの?」「静流のことはどう思ってんの?」とも思う。が、さすがに聞けない。
隼介 「稽古しててさ、」
大山 「ん?」
隼介 「すごく相性のいい人がいてさ。」
大山 「ほぅ。」
隼介 「女の子なんだけど。」
大山 「・・ほぅ。」
隼介 「その子と稽古してると、どんどん上達してくのが分かる。その子と稽古してなかったら、多分、試合で勝てなかった。」
大山 「そんなに強いの? その子。」
隼介 「う~~ん、強いと言えば強い。」
大山 「隼介と同じぐらい?」
隼介 「ではないけど。」
大山 「だよな。んなわけないよな。」
隼介 「うん。でも相性はいい。一番いい。」
大山 「そう。」
隼介 「うん。そう。」
大山 「・・・・・。」
隼介 「早く会いたい。」
大山 「・・・彼女?」
隼介 「ではない。けど、俺は好き。」
大山 「・・・そっか。」
隼介 「静流のこと・・・」
大山 「・・・・・。」
隼介 「どう思ってるか知らないけど、仲良くしてやってね。」
大山 「・・・おぉ。」
なんだ・・・やっぱり聞いてたのか、隼介も。
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