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共感と共鳴が良いデザインを生み出す、POとともに見る景色

この記事は Goodpatch Design Advent Calendar 2020 6日目の記事です。

 私は今「UXデザイナー」という肩書きで、外部デザインパートナーとして企業の事業活動を支援しています。いわゆるクライアントワークという仕事です。対象はサービス、アプリなどユーザーが触れるものもそうですし、ときに組織改善などの課題に取り組む場面もあります。UXデザイナーになる以前はWebとかメディアとかクリエイティブとか色々つきましたが、基本的にディレクターとしてクライアントワークをやってきました。通算すると10年以上になりますが、相変わらずやりがいがあり楽しくてしょうがないので才能の有無さえ無視すれば天職なのではと感じています。

ずるくておいしいデザインパートナーだから見えるもの

 私たちは “ パートナー ” という立場を活用して、企業の偉い人に話を聞きにいくことで視座を上げてもらったり、時に社内事情を無視した広い視野で思考したり、インハウスデザイナーと比べると高い自由度を持ちながら、ユーザーに向き合うことが出来るという特権を持っています。
 そんな、私がパートナーとして心がけている姿勢があります。POと同じ熱量を持ちながらも、冷静な第三者視点でものを考える、という姿勢です。言うなれば熱い伴走者ですね。そんな私の経験を通して身に染みて感じてきた、プロジェクトを成功に導く2つの重要な要素について改めて書き留めたいと思います。デザイナーだけでなく、チームで仕事をする他職種の方にもぜひ読んでいただきたい内容です。

成功のもと “ 共感 ” と “ 共鳴 ” 

 記事タイトルにも入れましたが、大事だと思うのは共感と共鳴です。もう少し言うと “ ビジョンへの共感 ” と “ チームメンバーとの共鳴 ” です。プロジェクトがうまく行かないと感じている場合は、必ずこのどちらかが欠けていないかを振り返るようにしています。

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 状態で整理してみました。高いビジョン理解、深い相互理解がある “ チーム成果主義 ” では飛躍的な成果が期待できますが、それ意外のプロセス主義、個人成果主義、ことなかれ主義では大きな成果が期待できないと容易に想像がつくと思います。プロセス主義ではミッションの再定義・再認識、個人成果主義ではチームコミュニケーションの改善が必要です。ことなかれ主義の場合はひょっとしたらそのプロジェクト自体の存在意義を問うても良いかもしれません。これを起点に考えプロジェクトをどう成功に導くかを考えてみます。

知らぬ間に陥る、バイアスだらけのミッションの罠

 プロジェクトには必ずミッションがあります。「〇〇を達成したら」や「〇〇をリリースしたら」と皆が一眼となり向かう目的地です。ですがこのミッションというものは、受け取り方を間違えることで悲惨な結果を招くことにもなりかねない、取り扱い注意なものだと思っています。多くの場合、企業には Vision Mission Value といった理念があります。それらに沿い中期経営計画などが立てられ、事業部の方針が決まり、プロジェクトのミッションに落とし込まれます。
 案件開始直後、私たち外部パートナーはこの一連の文脈を理解しようと、ステークホルダーへのインタビューを行います。そういった場面で現場担当者に発生しがちな “ 思い込みの前提条件 ” や “ ミッションの取り違え ” という現象に気付くことがあります。これはプロジェクトのミッションを瞬間的に切り取ったかたちで解釈してしまうことから発生すると思っています。本来であれば前述の上位概念は全て同一線上にあるものですが、目の前のミッションにフォーカスするあまり遠くの目的地を見失い、結果として本来的な目的とは別の方向に進みながらとにかく走るしか無いような状態に陥るのです。

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 レビットのドリルの穴理論でいうと、結果として得られる “ 穴 ”がどうなるかはさておき、いかに素晴らしい “ ドリル ” を作るかに奔走している状態だと思っています。ですので、あなたやチームが行き先に迷うことがあれば、可能な限りの情報を集め理念まで遡って考えてみてください。私自身インタビュー以外にも、大企業であればIR情報や中期経営計画、スタートアップなら創業者のブログやtwitterなど、あらゆるソースから文脈理解を試みます。これらの情報であればパートナーの特権も必要ありません。ぜひ目の前の仕事を放り出して、twitterを読み漁ってみてください。

共鳴のために必要なのは敬意と会話量

 ビジネスのスピードやテクノロジーの進化が目覚ましい昨今、プロジェクトが複雑化の一途をたどっています。そんな中、ビジネス・テクノロジー・デザインを軸にとり真ん中にイノベーションを置いたBTDモデルや、ビジネス・開発者・顧客を軸にとり真ん中にプロダクトを置いたプロダクトマネジメントトラインアングルなど、チームないしプロジェクトを成功に導くための有用なフレームワークがあります。これらの考え方は素晴らしいと思いますし、いくつも解説記事があるので、ここでは詳細には触れません。

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 で、これらのフレームワークを自分なりに解釈してすごく単純化すると、プロジェクトの成功のためには複数の観点が必要で、バランスが崩れると成功が遠のきますよということだと思います。言い換えると、それぞれのロールがプロフェッショナルとして自分の領域でパフォーマンスを発揮することはもちろん、領域を飛び越えて質のよいコミュニケーションを取り、観点を共有し合うことが重要だと思うのです。
 観点共有のための近道はお互いの仕事への興味を抱くことだと思っています。例えばデザイナーがコードをかける必要は有りませんが、テクノロジーで何が出来るかを知り、開発者の観点を知ることは重要だと思います。そうすることで、相手に対しての敬意が高まりますし、敬意が高まれば自然と傾聴する姿勢が生まれ、結果としてコミュニケーションの質が向上すると思っています。私が担当した案件でも、エンジニアがデザインファイルに触れたことをきっかけに、共鳴の度合いがより高まったと感じたことがありました。
 また、コミュニケーションの量も同じくらい大切です。経験上確信していることですが、コミュニケーション量を増やすことは必ず相互理解を深めます。絶対にです。これを怠ってはいけません。本当に。大量のコミュニケーションはいくつかの相互理解をもたらします。それが増えると文脈になり、文脈が定着していくとチームの文化になります。その先には背中を預け合い阿吽の呼吸でプロジェクトを推進する強いチームがの姿があります。これは特別なスキルを要さず、すぐに実践できることなのでぜひ試していただきたいと思います。ぜひ目の前の仕事を放り出して、メンバーに話しかけてください。とにかくたくさん話しましょう。

もし僕らのことばがデザインだったなら

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 もし僕らのことばがウイスキーであったならという村上春樹のエッセイがあります。その冒頭の一節に “ もし僕らのことばがウイスキーであったなら、もちろん、これほど苦労することもなかったはずだ。僕は黙ってグラスを差し出し、あなたはそれを受け取って静かに喉に送り込む。それだけですんだはずだ。 ” とあります。デザインも似ていると感じます。類稀なる才能で言葉を要さず価値あるデザインを作れる方ももちろんいます。残念ながら、私にはそんな力はなさそうです。
 ではどうするか、お互いに発話し、傾聴し、先を見据え、苦労し紡ぎ出すことでデザインに磨きをかけていく……それしか無いです。脳みそは共有できませんからね。とにかく言葉を頼りに考えを伝え合うことを愚直にすべきと思っています。ただそうやってチームで作り上げたデザインには、人を魅了する力と世界を前進させる力が宿ると信じています。そして私はこれからも、POの熱い思いに触れながら、自身も熱い伴走者としてこの景色を見続けて行きたいと思っています。そしてここまでお付き合いいただいた皆さんのチームにも共感と共鳴が生まれることを切に願います。

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