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筋肉の恥じらい:本当はもっとエロいフレンチ・ディスパッチを解読する(原語セリフの不可解な単語に関する考察)

本作に出てくる「筋肉が恥ずかしい」という日本語訳に違和感を覚えたので、原語セリフも参照しながら、本当はもっとエロいフレンチ・ディスパッチを解説していきます。

具体的な基準にはあまり詳しくないので分かりませんが、この文章はおそらくR15指定相当くらいの内容になっていると思います。苦手な方はご注意ください。

まあ、アートには人間の根源的な部分に触れる性質がある以上、エロやセックスを扱うのはある意味避けて通れないことですので…。

あと、物語の核心をがっつり #ネタバレ してますので未視聴の方もご注意ください。

= = =

▼日本語字幕の「筋肉が恥ずかしい」とは?:

本作では序盤からレア・セドゥがフルヌードになったり、ティルダ・スウィントンが極秘写真(?)をぶっ込んできたりと、想像していたよりも性描写が多いなという印象を持たれた方は多いのではないでしょうか。ウェス・アンダーソン監督といえば、以前から『グランド・ブタペスト・ホテル』など内容がそれなりにゲスい作品はありましたが、ここまで視覚的にダイレクトな描写はレアだったかと思います。

先述の大女優2名の脱ぎっぷりに比べれば可愛らしいものですが、ティモシー・シャラメとリナ・クードリも一部体当たりの演技がありました。シャラメのバスタブのシーンなどは特に初々しい感じがよく出ていましたね。

The French Dispatch (2021)

ただ、ここでの「筋肉」という翻訳はちょっと微妙でした。

Please turn away. I feel shy about my new muscles.
あっちを向いてくれよ。筋肉が恥ずかしい。

The French Dispatch (2021) 映画館で見た記憶を頼りに日本語訳を記載

実はこれ、結構言葉を省略しています。おそらく翻訳をするときのルールとして単位時間に表示できる文字数に限りがあるためだと思われるので、省略された単語を補うと以下のようになります。

Please turn away. I feel shy about my new muscles.
あっちを向いてくれよ。僕は新しい筋肉だから恥ずかしいんだ。

The French Dispatch (2021)

あ、なるほど「新しい筋肉」だったんですね。

はい。はい。

そういうことかー。

……

…って新しい筋肉って何ですか??

なにその「新しい地図」みたいな言い回しは?笑。

分かったような、分からないような…???

ただ普段使いの言葉としては、違和感があるのは間違いないです。

次の章で答えを教えましょう。

▼「新しい筋肉」の正しい翻訳:

新しい筋肉、

それは、、、

ずばり、未熟な包茎のペニスです。🎉 🎉 🎉

https://en.wikipedia.org/wiki/David_(Michelangelo)

なぜ、そうなるのかを説明します。

muscle(マッスル)は直訳すると「筋肉」になりますが、もう少し派生して「力」とか、転じて「武器」という意味を持ちます。ここで「裸の男性の力の象徴」といえば、もう何になるか分かりますよね。

なお隠語や俗語に強いUrban Dictionaryでもmuscleに対してpenisという意味があると確認できました。これは私も観賞後に調べて知りました。私は筋肉(muscle)という語感から、せいぜいカラダ(body)とか肉体(flesh)などと翻訳するのが妥当かなと思っていたので、penisまで範囲を限定できるのは意外な結果でした。

で、そんなmuscleが「new」なんですって。生まれたばかり。使い古されていない。だから彼は恥ずかしいんですって。

つまり「new muscle」というのは、子供みたいなチンコだから恥ずかしい、というのを「子供みたいなカラダだから恥ずかしい」とややオブラートに包んで言っていることになります。嗚呼、初々しい。知り合いとはいえ他人のおばさんにこんなこと言えるなんて素直な心をお持ちですね。笑。

▼そして少年は大人の男になる:

このセリフ(new muscle)をゼフィレッリ君(シャラメ)は映画の中で2回言います。1回目は敏腕記者のクレメンツ女史(マクドーマンド)に風呂を覗かれてしまった時。2回目は同級生で生娘きむすめのジュリエットちゃん(クードリ)と初めてセックスする時です。

これは後日クレメンツ女史が発見するのですが、ゼフィレッリ君はクレメンツ女史の原稿ノートにジュリエットとの初めての情事のことを綴ったポエムをこっそり書き残していました。
(つまり、ジュリエットと結ばれた後にもクレメンツの家で寝泊まりしてたってこと?まあ男子がずっと女子寮で暮らすわけにもいかないし仕方ないか。それとも荷物を一度だけ取りに来た?でもジュリエットがきっかけでクレメンツとは別れたようなもんなのにクレメンツのノートに書く意味って?サヨナラの言葉を綴った?もしくはジュリエットとセックスする前に妄想でそんな落書きをしていたってこと?それは流石にないか。笑)

KREMENTZ: March 15th.
Discover on flyleaf of my composition book a hasty paragraph.
Not sure when Zeffirelli had the chance to write it.
Late that night while I slept?
Poetic, not necessarily in a bad way. Reads as follows…
3月15日。
ルーズリーフの私の原稿ノートの中に殴り書きの文章を見つけた。
ゼフィレッリがいつの間にそれを書いたのかは分からない。
あの日の夜遅く私が寝ている間に?
詩のようで、そんなに悪くはなかった。私が読み解いた限りでは、こうだ。

The French Dispatch (2021)

(中略)

ZEFFIRELLI: The girls’ dormitory.
First time I’ve come inside, except to vandalize it during demonstrations.

I said, “Don’t criticize my manifesto.” She said…
(JULIETTE SPEAKS FRENCH) “Take off your clothes.”
ZEFFIRELLI: I feel shy about my new muscles.
Her large, stupid eyes watched me pee.
A thousand kisses later, will she still remember the taste of my tool on the tip of her tongue?
Apologies, Mrs. Krementz. I know you despise crude language.

女子学生寮。
中に入ったのは初めてだ。デモ活動で突入した時を除けば。
僕は「マニフェストを批判するな」と言った。そしたら彼女は…
(彼女はフランス語で何かを言った)《英語字幕:服を脱いで。》
僕は子供みたいなカラダ《包茎チンコ》を恥ずかしいと思った。
彼女の大きくて愚かな瞳が、僕が皮を剥く(peel)のを見ていた。
それから千回はキスをした。
彼女は僕の道具《》が彼女の舌の先端に(はじめて)触れたときの味をまだ覚えていてくれるのだろうか。
ごめんなさい、クレメンツさん、あなたは汚い文章は嫌いでしたね。

The French Dispatch (2021)

私は日本語字幕はあまり読んでなかったのですが、多分ここまでハッキリと官能的には書いてなかったと思います。正確には覚えていないのですが、あまりインパクトに残る字幕ではなかったのだと思います。翻訳作業には字数の都合とか諸事情があって書けなかった側面もあるかと思いますが、まあ手ぬるいですよね。笑。

ノートには「pee(おしっこをする)」と書いてあったようですが、おそらく「peel(皮を剥く)」のスペルミスでしょう。彼はマニフェストについて何度もクレメンツから校正を受けていますから。このポエムだってクレメンツが殴り書きを解読(read as follow)したと断っています。笑。

女の子と初めてエッチするときに緊張して失禁した、という事例は都市伝説ならともかく本当に実在するのかどうかよく分かりませんが、少なくともこの時点でゼフィレッリ君はクレメンツ女史に筆おろししてもらった後なので、そういう事態になるとは考えにくいです。

ただ、少なくとも彼の《道具》の形状については、このpeelから逆算して、ああやっぱりゼフィレッリ君はまだ子供だったんだ、と観客は察するのです。

だって、どう考えたって不自然でしょう、おしっこ(pee)だなんて。初めて男に抱かれる処女のジュリエットが「俺ちょっと小便するわ、トイレ貸してー」「わー見たい見たい」ってなるわけないでしょう。笑。

しかも、このスペルミス疑惑の一文に続くのは「舌に触れる」行為だということは見落とせません。もしその道具が皮に包まれていたら、その道具を舐める前にどうしますか?想像すれば分かる話ですよね。笑。

KREMENTZ: Additional sentence at bottom of page completely indecipherable due to poor penmanship.
そこに続く文章はページの下まで全くもって解読不能だった。文章がめちゃくちゃすぎたのだ(ペンマンシップが全然なってなかったからだ)。

The French Dispatch (2021)

クレメンツ女史は「この続きはペンマンシップ(物書きの心得:スポーツマンシップの文化系版)が酷すぎて解読できなかった」としていますが、実際のところはエロスが過激で公序良俗に反すると判断したか、もしくは赤裸々すぎて公衆に曝け出すのは気がひけると思ったのでしょう。

もしかしたら先述したように、これはあくまでゼフィレッリ君の殴り書きをクレメンツ女史が「解読した結果」なので、彼女は「わざと」間違えて「小便」のままにして、意味不明な文章として本意を隠して原稿を仕上げたのかもしれません。実際に映画でもゼフィレッリとジュリエットが裸で向き合っているときには、画面中央の奥の方にジュリエットのルームメイトらしき金髪の少女がトイレで何かしているのが映り込んでいましたので、監督もその「間違った解釈」に乗っかる形で映像を仕上げた(わざと観客を混乱させようとしている)可能性があります。

このように「爽やかな青春物語」にもできるテーマを、酸いも甘いも知り尽くした良い歳こいた中年の女が若い男との束の間の恋に溺れて、結婚からも出産育児からも自由であることを選んで仕事一筋で頑張ってきたのに、自分の人生の信念にしていた筈の「中立的な立場を守る記者」というアイデンティティさえ見失いかけてしまったオバサンのほろ苦い恋の話、として語っている所に本作の面白さがあると思います。

あと、本作は時代設定が1970年代なのであまり指摘するのは野暮ですが、2022年現在の基準で見ると、クレメンツ女史の一連の行為は未成年への性的搾取だと非難されうる内容かもしれませんね。そういう意味でも結構踏み込んだ描写です。フレンチ・ディスパッチの本誌はテキサス州の新聞ですが、テキサス州はかなり保守的な土地柄ですから、いかに当時のフランスが自由な雰囲気だったかという一種のブラックユーモア(国民性ジョーク)にもなっていそうです。
(というかさっきからこの話、どこかで見たと思ったら、これ『君の名前で僕を呼んで』やんけ!あれもアメリカで権威ある仕事(大学教授)をしている大人が欧州イタリアへ抜け出した限られた時間の中で現地の少年と恋愛する話でしたよね。オジサンがオバサンになっただけで完全に一致ですやん。しかも相手の少年役はどちらもティモシー・シャラメであるという。笑)

= = =

というわけで、「筋肉が恥ずかしい」の正しい解釈と、あの場面は映像だけではなくて、文字でも結構なエロスを爆発させていましたよ、という解説でした。

本作については他にも色々気になったり感動したりしたポイントがあったのですが、長くなるので、映画全体の感想はまた別の記事にしようと思います。この記事が面白かった人はぜひフォローしたりスキを押してくれたら嬉しいです。よろしくお願いします。

了。

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