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山の本棚・辻まこと関連

山に登り始めの頃、よく一緒に行っていた同じ会社のTさんが好きだったように記憶しています。たまたま調布の書店で手にとって、初めて読んだのは白日社から出た『山の嵐の中へ』でした。その後、山以外の夥しい著作物を通じて、いろいろな側面を知ることになりました。でも、山と縁がない作家であれば興味を持てなかったと思います。画文集という形式は時間の経過を感じさせないのがいいです。ネットがない頃で、在庫の照会は書店経由なので、店頭で見かけるたびに購入してきました。

今はネットでポチるだけで欲しい本が中古でも簡単に購入することが出来て便利です。ネットで注文した『辻まこと全画集』は1980年に1500部限定で出版され、2000年頃に悠久堂書店で定価の倍以上の値がついているのを見ました。それから10年以上経って、地方(といっても八王子ですが…)の書店で手の届く値段で出ていましたた。輸送用の外箱と帙に経年変化があるものの、本自体は程度がいいというか、ほとんど読まれた形跡がありません。



1. オリジナル出版物

辻まことが1975年に胃がんで亡くなるまでの間に自ら関わった書籍です。

『山からの絵本』

 辻まこと 創文社 昭和41年

長い間オリジナルが書店で入手できましたが、今は『山からの絵本 (ヤマケイ文庫)』として山渓から出ているようです。

『橋の下の子どもたち』

 ナタリー=カールソン作 弘田令子訳 辻まこと絵
 学習研究社 昭和41年11月10日

戦前のパリを舞台にした小学校3~5年生向けの児童書です。 訳者による解説に「この本に美しい絵をかいてくださった辻まことさんのお話によれば、パリの橋の下は、日本の子どもたちには想像もできないような、きれいで、ゆったりした場所であり、アルマンのような宿なしも(中略)、ただ自由きままにしていたいばかりに、放浪生活をしている人たちだそうです 」とあります。戦前にパリで過ごした経験を重ねて挿絵を描いていたと想像できます。

『極北の犬トヨン』

 ニコライ=カラーシニコフ作 高杉一郎訳 辻まこと絵
 学習研究社 昭和43年1月10日

小学校高学年~中学生向けというので334頁と分厚く、ルビが振ってあるのを除けば、正直面白いです。おそらく原画は表紙のように大きいのだろうが、本文の挿絵は小さくて印刷の都合で細部が潰れてしまっているのが残念です。

『山の声』

 辻まこと 東京新聞出版局 昭和46年

『岳人 '72 5月号』

 東京新聞出版局 1972年

市内の古本屋に辻まことが表紙を描いていた頃の『岳人』が大量に出ていたので、富士遭難の記事があるものを購入しました。『山の画文-「岳人」』があることは知っていたのですが、なかなか手に入りませんでした。

『辻まこと画文集・山で一泊』

 辻一 創文社 昭和50年

『白いきば』(学研世界名作シリーズ12)

 ジャック=ロンドン作 藤川正信訳 辻まこと絵
 学習研究社 昭和51年

『白いきば』は時期的に最後の仕事だったと思われます。『挿絵集』と『画帳から』に何点か収録されていて、表紙絵を含めて4点のカラー図版の他、モノクロの鉛筆画が多数含まれています。子供向けの本ですが、単に図版をみるのとは違って、どういう場面の挿絵かわかるのがいいです。ちなみに函にある絵は挿絵になく、逆恨みから飼い主宅に押し入った脱獄囚ジム=ホールに襲いかかる白いきば。(※前半の描写は『トヨン』に較べて違和感がなく自然だが、後半はあり得ないほど急展開…。)

『すぎゆくアダモ』

 辻まこと 創文社 1976年

2. 辻まことの世界

辻まことの死後にまとめられた書籍です。さまざまな出版物に掲載された文章やイラストをまとめたもので、書籍としてはこちらの方が断然多くあります。

『アルプ 第218号 -特集 辻まこと-』

 創文社 1976年4月1日

神保町の古本屋の店頭で買いそびれた本に未練を感じて、翌週に散歩がてらまた行ってみました。その本はすでに売れてしまっていましたが、そのかわり同じ店で『アルプ』1976年4月号をみつけました。シミが多いのでちょっと迷いましたが、この後に出版された本に引用されている写真の解説があったので購入しました。戦前の銀座界隈から志賀のゲレンデ、戦時中の満州、そして戦後と、交流のあった29人の思い出が書かれていて、長年のモヤモヤが晴れたような気がしました。

『辻まことの世界』

 矢内原伊作編 みすず書房 1977年

『続・辻まことの世界』

 矢内原伊作編 みすず書房 1978年

『辻まことの芸術』

 辻まことの世界展準備委員会・代表宇佐美英治編 みすず書房 1979年

『山の画文』が置いてあった万葉堂泉店で30年もたってから「魚河岸のマヤ」にひかれて一緒に購入しました。

辻まこと全画集1 『無言の対話』

 編集 串田孫一・矢内原伊作 みすず書房 1980年5月15日

2000年頃まで神保町にある悠久堂書店の階段脇のガラスケースに11~12万あたりの値付けで置いてあり、欲しかったけれど手が届きませんでした。それから10年以上経ってネットを見ると、八王子の書店が発売価格の半額くらいで出ていたので購入しました。外箱は痛んでいましたが、中身はほとんど読まれた形跡がないほど状態がよかったのでラッキーでした。

辻まこと全画集2 『油絵・水彩・デッサン集』

 編集 宇佐見英治 みすず書房 1980年5月15日

辻まこと全画集3 『カリカチュア集』

 編集 小室新吉 みすず書房 1980年5月15日

辻まこと全画集4 『男よ君は弱かった 写真漫画集』

 編集 小谷明 みすず書房 1980年5月15日

辻まこと全画集5 『社会戯評・文明戯評』

 編集 小室新吉 みすず書房 1980年5月15日

辻まこと全画集6 『余白の告白』

 編集 小室新吉 みすず書房 1980年5月15日

辻まこと全画集7 『挿絵集』

 編集 矢内原伊作 みすず書房 1980年5月15日

辻まこと全画集8・9・10・11 『閑人帖・カット集』

 編集 矢内原伊作 みすず書房 1980年5月15日

辻まこと全画集12 『まんが集』

 編集 矢内原伊作 みすず書房 1980年5月15日

辻まこと全画集13 『広告画文集 1』

 編集 小林恒雄 みすず書房 1980年5月15日

辻まこと全画集14 『広告画文集 2』

 編集 小林恒雄 みすず書房 1980年5月15日

辻まこと全画集15 『カレンダー集』

 編集 川崎覺太郎 みすず書房 1980年5月15日

『山と森は私に語った』

 辻まこと 白日社 昭和55年

初めて購入した辻まことの本です。山にちょっと飽きて、バイクにうつつを抜かしていた頃でした。ちょっとしたきっかけで、また登り始めたのですが、山スキーと沢登りがメインだったので、この本の舞台になっている志賀や奥日光に行く機会がありませんでした。かなりヨレヨレになったので、ずいぶん後に新刊を買いなおしました。

『山の嵐の中へ』

 辻まこと 白日社 昭和55年

『居候にて候』

 辻まこと 白日社 昭和56年

『辻まこと山とスキーの広告画文集』

 小林恒雄、志村俊司編 秀山荘 昭和56年

何かでこの本を知って、山の会の先輩で書籍の卸をしていたK藤さんにお願いしてやっと入手して貰いました。 普通の流通ルートに乗っていなかったので、探すのに苦労したとか…。ずいぶん経ってから山渓から同じものが再発行されたらしいです。

『画帳から』

 辻まこと 白日社 昭和57年

『山の画文-「岳人」の 表紙と画と言葉-』

 辻まこと 白日社 昭和57年

久しぶりに仙台市内の古本屋を巡回していると、辻まことの『山の画文-「岳人」の表紙の画と言葉』が置いてありました。 文庫版の『山からの言葉』は持っているし、理性的に考えるとパスなのですが、気がつくと助手席にありました。2011.3月の震災でその店が閉鎖されたままなので、この本を救出できたのは良かったです。

『ノイローゼよさようなら』

 辻まこと みすず書房 1985年

『山からの言葉』(平凡社ライブラリー151)

 辻まこと 平凡社 1996年

『山の画文』の文庫版です。

『虫類図譜(全)』(ちくま文庫つ-4-2)

 辻まこと 筑摩書房 1996年

『わたしの博物誌』

 (文)串田孫一 (画)辻まこと みすず書房 1998/8

串田氏が昭和36年8月から昭和37年9月まで「週刊朝日」に連載したもので、辻まことの40代後半の時期の挿絵が載っています。串田氏の著作は苦手だったのですが、ここに書かれている串田氏の文章は、実に生き生きとしています。あらためて『....岩の沈黙』を開くと、解説に1963年に罹った変形性脊椎症からの展開が書いてあり、このあたりが契機だったようです。

『辻まこと全集 1-5, 補遺』

 辻まこと みすず書房 1999/12~2004/7

ヤフオクで相当安く売っていたので、半ば冗談で入札していたら落札してしまいました。この全集だけ購入するなら良いのでしょうが、他の本とカブる部分が多いのと、価格がそれなりに高く、カラーの図版も少ないのであまり人気はなかったのだと思います。どこに書かれていた文章なのか検索するには都合が良いけど…。

3. 辻まことの思い出

辻まことが亡くなった後に交流のあった人によって書かれたものです。

『山の彼方の』

 山本太郎 山と渓谷社 昭和55年

辻まこと自身の山登りについては、著作などを見てもボヤけていてよくわからないのですが、直接言葉を交わした著者のこの本から、間接的に知ることができて面白いです。古本屋で比較的安価に見かけます。

『山と渓谷12/87 -特集-辻まことの世界』

 山と渓谷社 1987年

表紙は『山の彼方の』の著者です。この頃は特集が組まれるくらい人気がありました。

『無想庵物語』

 山本夏彦 文藝春秋 1989年

辻まことの読者のためにということで、イヴォンヌの父親の書いた『むさうあん物語』からパリの辻まことの様子が引用されています。 また、イヴォンヌを介して知り合った著者との短い交流が出てきます。物語の索引から辻まことのページだけ拾ってみれば早いのですが、そうもゆかず全部読むと長いです。

『見知らぬオトカム』

 池内 紀 みすず書房 1997年

スキーの締め具を首から下げた戦前の写真が載っていて、初版ではこれを「カンジキ」と書いていて買うのを止めた憶えがあります。山やスキーに縁のない人が書いて指摘され、すぐに出た2刷であわてて直したようです。辻まことの本が多く文庫本に入り、オリジナルを容易に読めるのに、敢えて『辻まことの著作を再構成して著者の「肖像」を描く』必要があるのか疑問な本…、と書きたいのでここに載せています。

『辻まことの思い出』

 宇佐美英治 みすず書房 2001年

みすず書房から『辻まことの思い出』が出ているのを知って、Amazonでポチりました。 ずっと絶版だったと思っていて、ブームなのか文庫本をはじめ、いろいろな本が出版されているのを知りませんでした。ちなみに、絶版になったのは1978年に湯川書房刊の同名の本で、みすず書房刊のものはオリジナルに(かなりの量の)注釈と短編を追加したものです。この本の著者が引用しているように、この本もそれぞれの世界の一つで、個人的に読んで面白いかというと微妙な気がします。ただ、他の山とはあまり縁がない人が書いたものとは違って、同時代を過ごした人の描写なので、掲載されている書簡を含めて意味があるのだと思います(※難しい漢字が多いけど…)。

『伊藤野枝と代準介』

 矢野寛治 弦書房 2012/10

辻まことの母、伊藤野枝が上野高女に進学したのは、叔父の代準介の援助によるものでした。著者の義母が代準介の孫だったため、直筆の自伝を受け継ぎ、この記述を元に伊藤野枝の最期までの顛末をまとめたものです。辻まことの記述は少ないですが、曖昧だった母と再婚相手の大杉栄の生きざまが伝わってきます。



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