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Base Ball Bear『ポラリス』レビュー

Base Ball Bearが’19/1/30に『ポラリス』という新曲4曲、及びライブ音源収録の2Disc入りEPをリリースした。三人体制でのリリースという側面では『光源』も同様だが、今作は完全に三人の音で構築したという点で、これまでとは大きな差異を持った曲群であると言える。その四曲について紙幅をとってレビュー…とまではいかない何かを認める。
 
1.試される
 まず、歌詞に注目すると、二方向の視点を、「この中の誰かが犯人って状況 孤島の館で五泊」からうかがえる金田一でも少年の方なのか横溝正史による方なのかといったミステリー的世界観と、「試される」という言葉で集約しているのだと考えられる。
 一つ目の視点はボーイミーツガールの妙味について。
これは冒頭から「颯爽という字面が似合う 初対面の君と」とインディーズ期の詞にも近いものがある歌詞がつづられていること、サビに「ミステリーさ Boy Meets Girl」とあるからも明白だろう。「原始的に心惹かれるだろ!」「罪も 罰も 悪も 正義も ゆれるだろ!」といったように、特別な誰かに出会ってしまったら、難しい話を飛び越えて影響をモロに受けてしまうことも述べている。
 二つ目の視点は、「社会VS自分」という点。二番の歌詞を引用したい。

得してる奴がさらに得して 損な奴はずっと損
あの中の誰かも犯人だが システムを疑えよ
価値観が(価値観が)
悲しそうに
ゆれるなら(ゆれるなら)
人間的に抗いたくなるだろう!

「犯人」というワードは一番に対応しており、また全体に通底するミステリー感を踏まえたものだ。しかしながら、ここでの「犯人」は何か殺人事件の加害者をさすものではない。直前の一節を踏まえると、損得を生む存在(特定の人物)を指して使われているものだと分かる。しかしながら、直後に、「システムを疑えよ」と、特定の「犯人」を挙げることの無意味さを述べている。
 この詞の部分は、小出祐介が影響を公言しているRHYMESTERの「The Choice is Yours」の最初のMummy-Dの下に引用したバースに通ずるものがあると思った。

汚れたマネー 腐った官僚 腐った政治家に大企業
腐った国家 日本株式会社 ヤツらが悪い オレは被害者
大人が悪い 子供が悪い ゆとりのせいで アタマが悪い
教育が悪い 行政が悪い 巡り巡って 大人が悪い
じゃ、悪い大人を代表し 言ったろう禁忌(タブー)を解放し
この世界はそんな単純じゃないんだ ラスボスはどこにもいないんだ
所詮カネか? 誰かの陰謀か? そりゃ解り易いがそれだけじゃないな
騒ぎ出す外野 揺れるガイア 誰がメサイア? 誰がライアー?

「解り易い」答え=「犯人」がいて、それを捕まえ糾弾してしまえば問題は片付くかというと、そんな単純ではない。ましてや「トリッキーなこの世界」なのだから、その「システム」への目がなければ、こちらがいつ「血塗られる」存在になるやもしれないのだ。

そんな世界で試されている僕ら。「思い切って謎に迫る」しか生きていくすべはないのかもしれない。
 続いて曲に関して。まず印象深いのが、作曲のクレジットに関根史織の名があるということだ(「PARK」も同様)。いくつも挙げたベースのフレーズを基に作成された曲であるため、名が記されている。そのためか、ギターが聞こえる位置(右の後方部に振られている?)も含め、最低限トリートメントする程度の存在感で、中心(音が聞こえる位置も含め)にはドラム・ベースの音が太く響いている。つまりリズムトラックを軸に据えた構造になっている。こういったトラックの作りは、様々なインタビューで答えている、最近の洋楽を踏まえた作りということだろうか。
 あと気付いた点では、ギターのリフ、チェッカーズ「ONE NIGHT GIGOLO」のアレぽいなと思ったり、「Alright! come on!」の所は斉藤和義「COME ON!」を思い出したりといったくらいで。

2.Flame
 歌詞は、インタビューで語られているように、イニシエーション的な話というべきか、生きていく中で抱える痛みと付き合っていくしかないことについて、結論や答えを出さない形で書き上げているものになっている。
 この曲は、他の三曲がかなりリズムトラックとギターという二つが分かれているような聞え方がするのに対して、それらが絡み合うような聞え方のする曲となっている。印象としては、『C2』収録「どうしよう」のもっと滑らかなレベルアップver.というもの。
ボーカルについても、サビでもあまり張らない声の出し方をしていて新鮮さがある。マテリアルクラブの「WATER」もサビでは声を張らないようなメロディーを取っていたので、それが生かされたものではないか、と考えられる。

3.PARK
 歌詞については、この一節が大きく物語っているだろう。

アレゴリーの檻に囚われた 動物たちの棲みかがこのパークさ

つまり、この曲で語られている動物たちは、実在の人間をアレゴリーつまり寓意によって覆い表したものであるということだ(それは「」という漢字自体が示している)。
冒頭の詞の「トカゲ」は連日問題が報道されている国会での様子を捉えたものであろうし、「歪みきったHate散らすハゲタカ」なんて完全に海賊と呼ばれたハンドレッド田(まんま書くとアレなので)のTwitterでの有り様だろうし(見たくないのでブロック・ミュートしてる)で。
こういった、直接的に述べ難い政治問題などを寓意を用いて表そうとする姿勢は、まさに小出祐介が影響を述べる安部公房の初期作品「壁―S・カルマ氏の犯罪」「赤い繭」「砂の女」「棒」などと重なる。これまでは出て来るフレーズの類似性を指摘されてきたが、表現技法の面でも通じてきている。そして、ここまで直接的に社会風刺・批判に向かっている詞もこれまでにないのではないか。沖縄の埋め立て問題の署名したことをTwitterで述べていたことにも驚いた(意識的に政治に触れる話はしなかった印象なので)が、この歌詞を書いたことにもつながってくるのではないか。(下のリンクに読書について)

 また、歌詞では他に、
「ウルトラマンエースの最終回~」
「Queenの曲から(『ボヘミアン・ラプソディ』観たから?)と思しきフレーズが散見される【Da Ga Ga Ga】【Show must go on】」
「ラップしてるしマテリアルクラブのこと書くよね~」
「【なみだってる】は【涙ってる】だし【波立ってる】でもある掛詞」

てな所が挙げられるか。
曲に関しては、ほとんど「試される」と同じような印象で。しかし、この曲ではよりギターを弾かず、ドラムとベースで構築されており、そのリズムトラック上でのラップが冴えわたっている。この在り方は、最近の「The Cut」のライブアレンジと通ずるものでもあるといえよう。すこぶる好きな一曲。

4.ポラリス
 歌詞についてはもう、遊びまくりだな!笑という有様で。元ネタについては、各サイトのインタビュー記事が参考になるのではないかと思うばかりで、ここで改めて挙げることはないかな、と。言及されているもの以外で俺が新たに、これというものが見つけられていないしね…。
 曲に関しては、三人による音に間違いはないけども、音遣いやギターリフの感じが「GIRL FRIEND」らへんの匂いを感じさせるもので、懐古(歌詞に関しても曲に関してもセルフオマージュを行っている)と新鮮さの両輪を大事にしているということか、と思った。

【総評】
曲に関しては、特に1,3,4曲目が三人の音で作り上げたというソリッドさ、生々しさを感じる意匠になっていると感じた。よりソリッドに、という面の楽曲と言えるのではないか。また、これまで以上にリズムトラックを中心に太く鳴らしているのも面白い点だな、と。2曲目は、少ない音の絡み合いを堪能できる点を楽しむことができて。同じことやってても、どんどん飽きるし、どんどん新しい可能性を見つけていくし、自らにウケたいしという所じゃないだろうか。
 歌詞については、より社会に対するまなざしと、様々なカルチャーを盛り込む面白みと、「詩心(うたごころ)」を込めていくという三点が言えるのではないか。つまりは、リスナーも多岐にわたる興味を持ってその上でベボベの音楽聴くと、その交差も合わさってより楽しめるのでは、という話じゃないだろうか。
 何にせよ、リリースペースもライブのペースも著しいものがあるし、ますます今後が楽しみだなーと思うばかりの一枚だった。

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