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占い師が観た膝枕〜マメな膝枕編〜

※こちらは、脚本家 今井雅子さんが書いた【膝枕】のストーリーから生まれたアレンジ作品 今井雅子作「膝枕─マメな男」、サトウ純子作「占い師が観た膝枕〜ヒサコ編〜」占い師が観た膝枕〜カレーうどんの男編〜」を元にした二次創作ストーリーです。

※9/2 Comariさん、水野智苗さん、小羽さんによる三膝突き合わせての膝枕リレーで「ヒサコ編」と「宅配便の男編」を聞いた時、書き始めた原点を思い出して、膝枕100日目記念にスタート時のヒサコ編に繋がる話しを書いてみたくなりました。

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出てくる登場人物がどう表現されるのかも興味がありますので、気軽に朗読にお使いください☺️

できれば、Twitterなどに読む(読んだ)事をお知らせいただけると嬉しいです❗️(タイミングが合えば聴きたいので💓)

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サトウ純子作 「占い師が観た膝枕 〜マメな膝枕編〜」


アゲハチョウが舞い込んできた。

迷い込んでうっかり入り込んだ虫たちは、出口を探し、アタフタと絶え間なく動き回るのが常だが、このアゲハチョウは違った。

なにやら、ゆっくりと羽を動かし、近づいては、からかうように離れていく。

占い師は、人差し指を鍵の形で顔前に掲げると、その先にとまったアゲハチョウにそっと話しかけた。

「誰かな?遊びにきたのは」

アゲハチョウを外に逃がそうと、そっと扉を押し開ける。その隙間から突然、女性が覗き込んできた。

「こんにちはー!せんせー、今、空いてます?」

カシュクールの合わせから、胸の谷間をチラつかせた女性。ヒサコだ。

アゲハチョウが部屋の中へ小回りしながら舞い戻る。

「今度、新企画の説明会があるので、また、せんせーにイベント鑑定をお願いしたくて」

小洒落た「おんぶ紐」のようなものをしょっているからだろうか。更にその胸元が強調されているように見える。

そのおんぶ紐には、男の腰から下しかない、おもちゃのようなモノが正座の姿勢で納められていた。キチンと揃った膝頭が二つ、横から顔を出している。

占い師は、それが「膝枕」であることを知っていた。しかし、男性バージョンを見るのは初めてだ。

『これ、お土産です』と、ヒサコが紙手提げを突き出してきた。あの有名な老舗和菓子屋の名前が書いてある、栗金飩(くりきんとん)だ。

「くりきんとん…ですか!あの和菓子屋の!?」

占い師の声が喜びに打ち震える。

アゲハチョウが二人の間をゆっくりと通り過ぎ、ヒサコの背中のおんぶ紐にヒラリ、と、とまった。

「今、お茶入れてきますね」

占い師は、空いているテーブルにヒサコを通すと、膝枕用にもうひとつ、厚めのクッションを置いた椅子を並べた。


外は心地良い風が吹いていた。
時々小雨も降っていたのか、商店街を歩く人々の手には閉じた傘が握られていて、焼けたアスファルトが湿ったような、独特な匂いも漂っている。雨の匂いだ。

こんなお天気模様にアゲハチョウ。

『休憩中』の看板を扉にかけながら、占い師の脳裏にある考えがぽっかりと浮かぶ。


「この膝枕用のおんぶ紐、めっちゃ可愛くないですか?これ、この子の提案で」

ヒサコは、テーブルの下でぶらぶらさせていた組足をとき、軽く身を乗り出した。

この子、というのは、横に座っている膝枕のことだ。

だが、占い師は、無造作に置いてあるヒサコのスマホ画面が気になって仕方がない。

「まだ試作品なんですけどね。ウケるかどうか、試しに背負って歩いてみてるんです」

横で膝枕がカタカタと小刻みに揺れている。会話中は静かに膝を傾け、その直後にまた、カタカタと揺れる。

同じテンポでスマホ画面に絶え間なく流れている通知。

「あの…。確認しなくていいのですか?お急ぎの連絡では?」

痺れを切らし、占い師が声をかけると

『あ、これですか?』と、ヒサコはスマホの画面を占い師に近づけて見せて来た。画面には「マメちゃん」の表示が連続で表示されている。

「この子の膝に頭を預けながらアイデアを呟くと、それに関するデータや情報をスマホに転送してくれる仕様になっているんですよ。まぁ、つまり、ものすごくマメな子なんです」

だから、マメちゃん!と、ヒサコが膝枕の膝を軽く叩くと、膝枕は片方の膝頭を上げながら満更でもなさそうに「どうも、どうも」と左右に動かし、また、カタカタと揺れ出した。

「そしてーっ!これが今度のイベントで紹介する新企画でーす!」

ヒサコは大袈裟に両手を広げながら、数枚のパンフレットをテーブルの上に置いた。

ヒサコが勤める会社は、膝枕愛用者の幅広いニーズに対応できるよう、商品ラインナップが豊かだ。その上、次々と新しい企画が生まれてきている。

「相変わらず、お忙しそうですね」

パンフレットにホチキスで留めてある名刺。そこには「営業企画Manager(マネージャー)」という肩書きが記されていた。

「女が一人で生きていくって、本当に大変なんですよ」

カタカタと膝枕がゆれ、同時にヒサコの肩にアゲハチョウがとまる。

開いている窓から少し、ヒンヤリした風がカーテンを揺らして入ってきた。ヒサコの髪先は一瞬バラけたが、アゲハチョウの羽は乱れることはなかった。

「はいはい。わかっているわよ。でも、あれ以上の気持ちになれない恋愛なんて、つまらないじゃない」

スマホ画面を見ながら、ヒサコの瞳の色が、深い藍色に濁る。

「それに、あれをもう一度する気力は残ってないわ。だって私、あの時。完全に狂っていたもの」

膝枕の揺れが一瞬止まり、膝頭がゆっくりとヒサコの方を向く。いつの間にか膝枕のところに移動していたアゲハチョウも一緒に覗き込む形となった。

「あー全く!うるさいなぁ」

ねぇ、せんせー。見てくださいよこれ!と、突き出してきたヒサコのスマホ画面には

恋愛をこじらせた女の対処法
結婚できない女の特徴
女一人暮らしの老後

などのURLが表示されていた。
送り主は「マメちゃん」だ。

ヒサコが軽く膝枕を小突く。
アゲハチョウが膝枕の上を蛇行しながらクルクルと回る。

「あ、そうそう。この栗金飩。これもこの子の提案で。いや、ビックリしましたよ。栗きんとんって、あの、黄色い栗に黄色の餡(あん)で和えたものしか知らなくて」

ヒサコは菓子楊枝で栗金飩を半分に割り、口にポイッと放り込んだ。

「うーん。でも、やっぱり私はおせち料理に出てくる方の栗金団(くりきんとん)の方が好きかもー」

膝枕がトントン!と軽く弾むと、また、カタカタと揺れ始めた。ヒサコのスマホに通知が届く。

アゲハチョウはまた、ゆったりと飛び上がると、ヒサコの前をフワフワと通り過ぎ…。

そのまま消えて行った。

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