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五つ星の元修道院ホテル

Jules Cesar ジュール・セザール

─ フランス・アルル ─

美術ファンならば、南フランスのアルルと言えばゴッホを思い浮かべる人も多いことだろう。
アルルの町の歴史は古く、今から2600年ほど前の紀元前6世紀頃に起源を遡る。
ローマ帝国時代はローマとスペインを結ぶ街道の重要な拠点となり、皇帝たちもこの町をしばしば訪れた。
キリスト教を公認したコンスタンティヌス大帝もアルルを気に入り、アルルに長期逗留し、息子のコンスタンティヌス二世アルルで生まれている。
キリスト教公認以前に、3世紀半ばに聖トロフィームアルルの最初の司教となり、それ以来アルルは南フランスの重要なキリスト教の拠点になっていた。

ホテル・ジュール・セザール 昼間の外観

アルルの旧市街を取り囲む大通りに面して、南フランスでも屈指の五つ星ホテルジュール・セザール(Jules Cesar)がある。
ジュール・セザールとは、ジュリアス・シーザーのフランス語の発音で、ローマ帝国の町だったアルルらしいネーミングだ。
このホテルの建物は、17世紀に「跣足カルメル修道会(L'ordre des Carmes déchaux)」の修道院として築かれ、その後、施療院も付設された。しかし、フランス革命時に略奪を欲しいままにされ、革命後は施療院、孤児院として使用されていた。

夜の外観

長い歴史の間に所有者も度々代わり、1929年に地方の迎賓用のホテルとして生まれ変わり、名声を博してきた。
そのホテルが2014年に大改装、アルル出身のフランスの著名ファッション・デザイナー、クリスティアン・ラクロワ(Christian Lacroix)の総合プロデュースで大変身した。
旧修道院の改装を手掛けたデザイナーが、"キリスト教徒(Christian)" の"ラクロワ(=十字架 Lacroix)"氏とは、何かの因縁なのか?と考えてしまう。
クラシックな建物の中に一歩入ると、一転ラクロワらしいカラフルなサロン、ロビー空間が拡がり驚かされる。

エントラスのロビー

ボーイに案内されて館内を進むと、旧修道院の廊下なども現代的なデザインだ。
壁には、「優れた航海士は休むことなく目的を目指す……」と格言が書かれている。
自分の怠惰さを叱責されているのか?と身を正した。
廊下、階段のカーペット、カラーリングした旧修道院の壁などに、色の魔術師と言われるラクロワの面目躍如たるものがある。

廊下
階段

客室のインテリアも現代的なデザイン。
ホテルは床に特徴があり、部屋の床は一部カラフルなモロッコ風のタイル、浴室の床にも各室オリジナルのタイルが敷かれている。
浴室には浴槽とシャワー室が別途ある。
フランスにしては珍しく冷房も効いていて、暑いアルルの盛夏もしのぎやすい。

浴室
室内

旧修道院の回廊は、憩いの場でもあり、彫刻、写真展示のギャラリーにもなっている。

回廊に付設してスパ、サウナ、ジムなどの設備もある。

スパ・ルーム
ジム

旧修道院の大きな敷地を利用し、プールもあれば、野外サロン、野外バーなどもあり、ホテル内で十分にリゾート気分に浸ることもできる。

屋外プール
屋外サロン

入口を入ってすぐのエントランスのロビーには、お洒落なサロン・バーがある。
プロヴァンス地方は薬草の栽培で知られ、その薬草を使い修道院で作った食後の蒸留酒、「シャルトゥルーズ(Chartreuse)」、近隣の修道院で作られた「フリゴレ(Frigolet)」も置いていた。

エントランス・ロビーのサロン・バー
修道院の薬草酒「フリゴレ(Frigolet)」

ホテルに付設している「愛徳教会(Église de La Charité)」は現在休堂になっている。
祈りの場は、ホテルから徒歩5分、旧市街の中心地共和国広場(Pl. de la République)に面して、それもユネスコの世界遺産にも登録(1981年)されている「聖トロフィーム司教座教会(Cathédrale Saint-Trophime d'Arles」がある。教会は、5世紀に築かれていた教会の上に12世紀前半、さらに15世紀半ばに再築された。当初は修道院付属教会であったが、後に司教座教会となった。現在は教区教会。

聖トロフィーム教会

12世紀に築かれた司教座教会の正面入り口の「タンパン(=入口門上の半円形 ティンパヌムTympanum)」には、ロマネスク様式の彫刻で最後の審判、イエスの四方には鷲(聖ヨハネ)牛(聖ルカ)獅子(聖マルコ)人(聖マタイ)シンボルが彫られている。
イエスの頭上に最後の審判の笛を鳴らす3人の天使たちがいる。

正面入り口のタンパン

12世紀半ばから14世紀にかけて築かれたベネディクト派の修道院。
教会に直接付設しておらず、離れて建造されているのは珍しい。
回廊も2階建てで、上階にも散策できる野外回廊がある。下階の回廊の柱頭、柱にイエスの生涯などがロマネスク様式の彫刻で施されている。

修道院の外観
聖トロフィーム教会付設の修道院の回廊
野外回廊の彫刻

アルルの「聖トロフィーム(Saint Trophime d'Arles)」は、3世紀半ばに最初のアルルの司教に叙階されたとされる。しかし生涯の詳細は分かっていない。
パリに送られた聖ドゥニス、トゥールーズに送られた聖サトゥルニアンなどとともに、教皇ファビアヌス(Fabianus)ガリア地方(現フランス・ドイツ)に送った7人の宣教師のうちの1人。
伝説によれば、聖ペテロの弟子の1人ともいわれる。
使徒言行録(21章29節)に、「エフェソス出身のトロフィモが前に都でパウロと一緒にいたのをみかけた」という記述があることから、パウロの同行者ともいわれるが、時代考証が確かではない。
アルルスペインサンチャゴ・デ・コンポステーラ巡礼の出発地の一つになったことから、12世紀頃から聖トロフィームへの崇敬が再燃し、その頃に大聖堂、修道院の再建が始まった。
アルル市、痛風、喉の痛みの守護聖人。

聖トロフィーム

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