韓国語のローマ字表記法 ʻAdkuwkaw について

本稿で解説する ʻAdkuwkaw は ʻEdkŭka の新バージョンです。 ʻEdkŭka について詳しくは以下の記事をご覧ください。


ʻAdkuwkaw ってなに?

韓国語の現代ソウル方言を表記するためのローマ字システムです。独自の音韻分析に基づいており、子音字をわずか10文字しか用いないのが特徴です。母音字も含めると、大文字と小文字を区別しない場合、以下の10子音字、さらに、主母音用の文字として2文字、グライドを表す4文字の計16文字を使います。

  • 子音字:p, b, t, d, k, g, c, z, s, ʻ 

  • 母音字:o, a

  • グライド:u, i, w, y 

発音との対応

ʻAdkuwkaw の綴りと表音表記におけるハングルとの対応を示します。なお、母音については、ㅐ, ㅔ の区別をする場合としない場合で綴り方に僅かな違いがあります。便宜上、区別をしない書き方を「21世紀版」、区別をする書き方を「ハングル対応版」と呼びます。(従来の ʻEdkŭka とよく対応するのは「ハングル対応版」の方です。 )

子音

子音字は表音表記におけるハングルと以下のように対応します。ʻAdkuwkaw では、子音字は最大でも2文字までしか連続しません。子音字が3文字以上ある領域の途中には必ずスペースか母音があります。

注意が必要な文字として、「オキナ」があります。これはハワイ語などで使われる文字で、見た目はアポストロフィに似ていますが、違う文字なので注意してください。なお、ʻAdkuwkaw はハワイ語キーボードを使うと全ての文字を直接入力することができます。

ʻ
MODIFIER LETTER TURNED COMMA
Unicode: U+02BB, UTF-8: CA BB

子音字は単独では以下のように発音されます。

  • p ㅂ, b ㅁ, t ㄷ, d ㄴ, k ㄱ, g ㅇ, c ㅈ, z ㄹ, s ㅅ, ʻ ㅎ

子音字が2個連続する場合は、横行を1文字目、縦列を2文字目として、交点のところに示すように発音します。

例えば、atta は [안타], oʻbay は [옥뻬] と発音します。

母音

母音はハングルの表音表記と以下のように対応します。

a 系は常に a, ay, aw, ia, iay, iaw, ua, uay, uaw で一貫していますが、画像の右側にある表では、発音に対応する綴りが、その母音の文中の位置によって変わります。

表の一番上の V_V は、「母音の間では」と言う意味です。例えば 마으아 という言葉があった場合、母音 으 は母音間にあります。この場合、規則に従って、この母音 으 は ww と綴られ、全体では、bawwa となります。

同様に、C は子音、# は語境界を表します。{#, C} のようになっているところは「語境界または子音」と言う意味です。(語境界は通常はスペースと対応します。スペーシングにも語の認定にも厳密な決まりはないので、発音が都合よく表示できるように、適当な位置にスペースを入れ、そこを語境界とみなして綴るようにします。)

ㅔ と ㅐ の区別をする場合

先の母音チャートは、ㅔ と ㅐ の区別をしない「21世紀版」に基づいています。両者の区別がある「ハングル対応版」では、語頭音節に限り、次の規則で両者をかき分けます。

  • 語頭音節の母音 [ㅐ, ㅒ, ㅙ] はそれぞれ ay, iay, uay と綴ります。

  • 語頭音節の母音 [ㅖ, ㅚ] はそれぞれ iuy, wuy と綴ります。

  • 語頭音節が子音から始まり、母音が [ㅔ] である場合は、その母音は uy と綴ります。(母音 의 が子音の後に現れることがないと言う前提に基づいています。)

  • 語頭音節が母音から始まり、その母音が [ㅔ] である場合は、通常は語頭には決して現れない子音字 g を使い、guy と綴ります。

ʻAdkuwkaw の実例

解説スライド

https://github.com/NihongoTopics/Korean/blob/main/%CA%BBAdkuwkaw%20Part%202%20Vowels.pdf

参考資料

  • 小学館 韓日・日韓辞典 (物書堂辞書)
    朝鮮語の音韻 - Wikipedia (2021年3月ごろ閲覧)

  • Young-mee Yu Cho (2016) "Korean Phonetics and Phonology" https://oxfordre.com/linguistics/view/10.1093/acrefore/9780199384655.001.0001/acrefore-9780199384655-e-176?mediaType=Article 

  • 堀籠 未央 (2002) ”韓国語の重複閉鎖と単一閉鎖について” https://ci.nii.ac.jp/naid/120000974813 

  • 東京外国語大学朝鮮語モジュール http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ko/ 

  • Chin-Wu Kim (1968) “The Vowel System of Korean” Language, Vol. 44, No. 3. pp. 516-527.

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