「4つの素性と16の分節: 韓国語のミニマルな音韻目録」を公開しました

ResearchGate に「4つの素性と16の分節: 韓国語のミニマルな音韻目録」と題した文章をアップロードしました。以下のリンクからアクセスできます。

https://www.researchgate.net/publication/353345228_4tsunosuxingto16nofenjie-hanguoyunominimarunayinyunmulu

内容は、韓国語(朝鮮語ソウル方言)の音韻目録を整理して、従来19あるとされた韓国語の子音目録を、まず10個にまで減らし、Kim Chin-Wu “The Vowel System of Korean” (1968) という論文で提案されている母音の目録と合わせて、計16個の音からなる均整の取れた音韻体系を示すというものです。

韓国語を学習したことがある方なら心当たりがあると思いますが、韓国語は子音の変化が非常に多く、そのほとんどが「中和」です。

例えば、韓国語でよく使う「ハムニダ」とかの「ムニダ」という語尾があります。これは丁寧語を作る語尾で、日本語では「です」とか「ございます」とかに相当する語尾です。ハングルでは ㅂ니다 と書きます。ハングルの綴りをそのままローマ字に転写すると概ね “bnida” もしくは “pnita” です。でも実際の発音はというと、カタカナからわかる通り、[mnida] です。

じゃあこの ㅂ p/b はなんなの?って思いますよね?

実は、韓国語の音韻規則では、共鳴音(日本語で言えば、マミムメモ、ナニヌネノ、ラリルレロあたりの音です)の直前に子音が来るときはその子音は必ず共鳴音です。なので、「ムニダ(mnida)」はありえるけど、「ブニダ(bnida)」みたいな音はあり得ないというわけです。

このように、特定の環境では、本来区別のあるはずの複数の音のうち、一個しかあり得なくなることを、言語学の用語で「中和」と言います。

現代韓国語の正書法はこれを逆手にとって、「あり得ないってわかってれば、あり得ない発音の文字を使っても逆に問題ないでしょ」っていうロジックで、発音以外の情報も盛り込んでいるわけです。「ブニダ(bnida)」があり得ないことがわかっていれば ㅂ니다 をちゃんと正しく「ムニダ(mnida)」と読めるというわけ。

(ちなみにこの ㅂ니다 に込められた「発音以外の意味」ですが、ㅂ디다 や ㅂ시다 といった、他の語尾に ㅂ (p/b)から始まるものがあるため、それと関連づけるための歴史的な表記だろう(推測←大事なので追記しました)、と言うことをTwitterのフォロワーの方に教えていただきました。ありがとうございます。)

発音以外の情報が表示できるのは便利ですが、こういう「中和」がたくさんあると、「発音だけを示すことにすれば、本当は文字の種類がこんなにたくさんなくても済むんじゃないの?」という疑問が出てきますよね?

言語学の「音韻論」という分野では、その言語の正書法とは関係なく、純粋に音声とその使用を分析して、(1) できるだけ少ない“文字”と、(2) できるだけ少ない“ルール”(「ブって書いてあるけどここではムになりますよ」など。)で、(3) できるだけ合理的(世界中の言語で韓国語にしかないルールがあったら、それは合理的じゃないし、ただ“文字”を減らせるというだけの理由で、勝手にルールをでっち上げるのも、合理的じゃない)な体系を組み立てようとします。もちろん、その体系は、現実の言語の音をきちんと表示できるものでなくてはいけません。

表題の文章では、私なりに音韻分析をやって、子音の数はハングルの19個よりもはるかに少ない10個にまで減らすことができることを示しました。また、他の論文で提案されている母音の体系と付き合わせてみると、両者の組み合わせが非常に良く、とても綺麗な体系になることがわかりました。(これがどう綺麗なのかは、予備知識がないと説明できないので、気になる方は本文を読んでみてください。)

ちなみに、今回の音韻分析の原案となった韓国語のローマ字表記法を以下の記事で紹介しています。

https://note.com/j9a/n/n994d1097c79f

今回の文章に書いたことのうち、盛り込めていないことは、近々 ʻÄdkoka にも反映させたいと思っています。

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