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7 Days to Die批評 「生き残るために作る」サバイバルクラフトの醍醐味とは

2024年7月26日、ついに正式リリースを迎えた『7 Days to Die』(以下、7DtD)。

『7DtD』はSteamの、インディーゲームおよびサバイバルクラフトというジャンルにおいて伝説的な金字塔だ。2013年に早期アクセスを開始し、10年もの間開発を続けたうえで1800万本も販売。Steamでは約23万レビューのうち88%好評など、まさしく「重鎮」と評すべき傑作である。

筆者個人としても本作は思い入れの強い作品である。アーリーアクセスの間もない初期に購入し、アップデートの度にプレイを続け、150時間ほど楽しんだ。サバイバルクラフトは数多くあれど、『7 Days to Die』には独自の魅力が詰まっており、正式リリースを記念してその魅力について解説する価値があると感じた。

そこで本稿では、伝説的サバイバルクラフト『7 Days to Die』を通じ、本作の「生き残るために、作る」魅力と、「サバイバルクラフト」と呼ばれるジャンルの可能性と限界について考えたい。


サバイバルクラフトから『7 Days to Die』まで

『7 Days to Die』とはどんなゲームか。これは「死に至る7日間」を意味するタイトルが表すとおり、ただひたすら生き残ることを目的とするサバイバルクラフトである。

ゲームを開始すると、アメリカの郊外に僅かな物資とともに放り出される。そして石材や木材を集めていくつか道具を作り、ゾンビが徘徊する危険な街を探索しては、より高価な物資を集めて拠点を作る。そうして少しずつ拠点を拡張し、己の生存圏を拡大していくことがおおむねの目的といえる。

すなわち、本作はサバイバルクラフトと呼ばれるジャンルの一本であり、ひいては『マインクラフト』の直接的な影響を受けた作品だ。開発者のJoel Hueninkらも、実際に本作は『マインクラフト』をベースによりリアリティがあり、サバイバル体験を充足していく形で発展したゲームであると話している

最初は原始人同然で始まる



では、本作は一体『マインクラフト』からどのような魅力を継承したのだろうか。それが、サバイバルクラフトのジャンル名が表すとおり、「生き残るために作る」ことの楽しみである。

すでに『マインクラフト』に関して説明は不要だろうが、このゲームもまたアイテムを集め、拠点を作り、敵の脅威を退けるゲームである。しかし、実は『マインクラフト』は最初からこのサバイバル要素があったわけではない。最初期はクリエイティブモード、つまりプレイヤーにとって「死」の脅威が一切排除された、純粋な「クラフト」のみ楽しめるゲームとして設計されていた。

初期「Cave Game」時代のマインクラフト。純粋にブロックを重ねるサンドボックスだった。

しかし、α版の開発中に「サバイバルモード」が実装され、型月ふうに言えば「死の概念」が実装された。その結果として何が生まれたかといえば、「クラフトの必然性」である。

従来、クリエイティブモードにおいて「城」や「家」のような拠点を作る試みは、ピュアなクリエイティブへの情熱に支えられていた。つまり幼児がきままに落書きを描いたり、積み木によって城を作るように、「やりたければやればいいし、やりたくないならやらなくていい」という類のものであって、ゲーム上の必然性はあまりない。

もちろん、最初からクリエイティブに対する熱意のある人であれば、その状態でも多種多様な建築を可能とするだろう。しかしながら、多くの人にとってはなにもない状態でただ「作れ」と言われても、「何を作らなければいけないのか」が理解できない。目的のない創作は、多くの人にとって存外に困難なものだ。

画像はredditより


ところが「サバイバルモード」によって、様々な脅威が生まれると状況が変わる。「サバイバルモード」ではゾンビやクモなど膨大な敵が発生し、プレイヤーに襲いかかってくる。これらをすべて倒すことは現実味がないし、リスクに対するリターンも少ない。すると、誰に言われたわけでもなくプレイヤーは気づく。「今、手元にある木材を作って、身を守るための”家”を作ろう」と。

『マインクラフト』の発明とはまさにここにある(サバイバルクラフトを語るうえでは他にも論点があるが、ここでは割愛)。ただ「作れ」とプレイヤーに言うのではなく、外敵のような脅威をけしかけることによって「作らなければいけない」とプレイヤーに考えさせ、創造への情熱がない人間でも「作ろう」と思わせる。

これが普通の「積み木」や「LEGO」にない『マインクラフト』ならではの、ゲームらしい「作る必然性」となっているのだ。

さらに言えば、同じ敵でも自爆によって周囲を吹き飛ばす「クリーパー」を遠ざけるために二重壁や堀を作ったり、作物や家畜を育てるために水源を引いたり、村との安定した交易のために線路を引くなど、このゲームは「サバイバルクラフト=生き残るために作る」ことの必然性に満ちており、そこから誰でもクリエイティブに参加できるだけでなく、その延長線上で家を城として改築したり、トロッコのために必要のない駅を作ったりと、創作の夢想を広げていくこともできるのだ。

『7 Days to Die』(及び、サバイバルクラフトのほぼ全てが)はこの『マインクラフト』における「クラフトの必然性」の延長線上にある。では一体『7DtD』はどんな発展を遂げたのか。それがまさに、タイトルにもある「死に至る7日間」なのである。


生き残るために、作る

繰り返すように、『7 Days to Die』は『マインクラフト』に強い影響を受けたことを開発者自らが語っている。

実際、開発が始まったのは『マインクラフト』正式リリースから2年後の2013年であり、開発初期は「碁盤の目にアイテムをおいて道具をクラフトする」といった『マインクラフト』まんまな要素も残っていた。もちろん10年もの開発期間によって独自の要素を研いでいくのだが、ベースにあるのは『マインクラフト』の本質、すなわち「生き残るために作る=作る必然性」である。


その一つが、まず本作のテーマである「ゾンビ」であろう。本作はゾンビ映画的ポストアポカリプスが包むアメリカ郊外が舞台なのだが(これは開発者たちがテキサスに拠点を構えることもリファレンスになっていると考えられる)、まさにこの古典的ゾンビ映画の舞台設定こそが、「生き残るために作る」という『マインクラフト』の性質を強調しているのだ。

具体的には、本作には膨大なゾンビが敵として登場する。『マインクラフト』と異なり、ゾンビたちは日中でも問題なく活動し、一方で夜中はより凶暴になるという点では、生き残ることの難しさが増している。その他、本作では『マインクラフト』以上にシビアな食料・水分など資源管理要素が増えていたり、死によって生じるデスペナルティも大きい。総じて建築によって拠点を作る必要性は、『マインクラフト』以上に増している。

極めつきが、タイトル「死に至る7日間」そのもののイベント「ブラッドムーン」(horde)だ。本作では1日ごとにカレンダーが刻まれていき、7日目には「ブラッドムーン」という無数のゾンビが大挙してプレイヤーに押し寄せるイベントが発生する。

この「ブラッドムーン」を生き残ることは、少なくとも序盤では非常に厳しい。『マインクラフト』でも夜中にモンスターが襲ったり、局所的な迎撃戦も発生したりするのだが、『7DtD』のブラッドムーンはまさに致死的な量のゾンビが襲いかかるという点で一線を画する。正面からブラッドムーンを迎撃しようにも、通常の近接武器ではスタミナが切れるし、銃火器ではすぐに弾薬が尽きてしまう。

暗くて見えづらいが、ゾッとするほどのゾンビが殺到している

だからこそ、単なる釘バットや拳銃ではなく、必要なのは「拠点」だ。しかしブラッドムーンのゾンビたちは非常に凶暴で、単なる拠点ではたちまち破壊されてしまう。だからこそ「拠点」と一体となった罠やタレットなどの「攻城兵器」が必要で、それによってただ拠点を「防衛」をするのでなくゾンビどもを「迎撃」することが肝要となる。

実際、本作には「迎撃」のための独自の「攻城兵器」が数多くある。まず代表的なものがスパイクと呼ばれる棘で、踏んだゾンビたちを串刺しにする古典的な罠である。その他にも、自動でゾンビを射撃するタレットや、電流によって行動を阻む電気トラップ、大火力で一網打尽にする地雷など、ブラッドムーンを凌ぐための独自のアイテムが多数用意されている。

木製スパイクは序盤の友(やや無駄な配置だが)

これらの非常に興味深い点が、銃火器のような「通常兵器」とは「動かせない代わり、安く作れる」というメリット・デメリットによって差別化されている点だ。例えば、銃火器の弾薬を生産するには「火薬」「鉛」「真鍮」から製造する必要があるが、スパイクはそこらの木を伐採して手に入る「木材」だけで誰でも作ることができるし、タレットの弾薬も「鉛」だけでよく、罠も簡単に修復できる。総じて、攻城兵器は「コスパ」に優れ、ブラッドムーンの圧倒的物量を前にしても対抗できる。

その代わり、攻城兵器は動かすことができない。無理やり野戦に使えなくもないが、実用性は低い。それ故に、後述する「探索」においては自在に持ち運べる近接武器や銃火器のほうが優位であり、この手のサバイバルクラフトによくある「通常兵器/攻城兵器のどちらかが強すぎるために、もう一方を使わなくても良い」ということにはあまりならない。

(ただし、ゾンビのAIの裏をつくと大層な拠点なくブラッドムーンをやり過ごせるし、そもそもサーバーの設定でブラッドムーンそれ自体を削除できる。もっとも、これらは開発者による幅広い遊び方を提示する姿勢であり、最初は”あえて見なかったことにする”遊び方を推奨したい)


このように、『7DtD』は『マインクラフト』の「生き残るために作る=サバイバルクラフト」の原点を拡張し、現実的な世界観とゾンビの脅威、何より7日ごとに訪れるブラッドムーンを凌ぐための「迎撃拠点」の建設をプレイヤーに促すことによって、攻城兵器による武装も相まってより戦術的なクラフトを楽しむことができる内容となっている。

そしてまさに『7DtD』の魅力とは、この「生き残るために作る」という創造の動機の最大化であり、プレイヤーにゾンビたちをどのように殲滅させるか想像力をふくらませる前提にある。

とはいえ、こうした『7DtD』の基礎的なルールは、実のところ2013年初期の状態である程度は完成されていた。そこで問題となるのは、そこから10年もの間「早期アクセス」としてひたすら開発を続けていたディベロッパーの熱意と、それによって実現した『7DtD』の進化……ただ単に「生き残るために作る」という目的からどう発展させられたのか、という点だろう。


「生き残るために作る」から「収奪するために作る」へ

では『7DtD』は10年もの開発の間、どのような変化があったか。ここで筆者が考えていたのが、初期の「生き残るために作る」から「収奪するために作る」へのゲームデザイン上のシフトである。言うならば、プレイヤーのサバイバルクラフトに見出す欲望を最大化していくという点で、この10年は「欲望の10年」とも言いかえることができるだろう。

どういう意味か。

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以下、有料部分では

・『7DtD』10年間で変化したもの=欲望の10年の正体
・『7DtD』の傍らで同様に進化していた『マインクラフト』の欲望
・『Ark』『Vallheim』『パルワールド』にも見出せる「収奪するために作る」へのシフトと、サバイバルクラフトが迎えた限界


について扱っています。『7DtD』とリファレンスの『マインクラフト』はもちろんのこと、ゲーム批評が及ばなかった最大規模のゲームジャンル「サバイバルクラフト」について、新しい視座を提示しています。

興味のある方は、ぜひご一読ください。
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