樗堂一茶両吟/蓬生の巻 14
蛇を引提ありく秋の月
伊勢か家売露の淵瀬そ 樗堂
初ウ八句、勅撰集に名を記す女流歌人の秀歌。
〇
伊勢か
いせ。貞観14年(872)頃 -天慶元年 (938)頃の歌人、伊勢守藤原継蔭の娘。
家売る
「いへをうりてよめる」は『古今集』十八巻雜下、990歌の前書き。
露の
秋の露。
淵瀬そ
「ふちせぞ」で詠嘆。淵瀬であることよ。
〇
くちなはをひきさげありく/あきのつき
いせかいへうる
つゆのふちせそ
凄みの月に、秀歌がまた凄い。<女家売る>と付けていたのです。
〇
<女三界に家無し>などと云われて<なよ>としていたものだ。と、考えられがちだったのですが、それがどうです。これが『古今集』に、その儘収録されていたのですから。
いへをうりてよめる
いせ
あすかがはふちにもあらぬわがやどもせにかはりゆくものにぞありける
◇『古今集』十八巻雜下(990)
〇
『古今集』は勅撰集のはしりでしたので、多くの能書家がこれを書き写していました。
全巻残っているものは稀で、人気のあるものは、バッサリ切られて散逸してしまっていたのです。そうしたなか、高野山に残った「高野切」、本阿弥が愛した「本阿弥切」などが、かろうじて今日まで伝えられていたのです。
「よのなかは」で知られる「本阿弥切」の端に、「いへをうりてよめる」の歌が残されており、現在、これが、国立九州博物館に保存されているのです。
■画像は、伊勢。
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