生活を豊かにする方法を行動経済学的に考えてみた】004〜負けを認めることが勝つための近道

心理学と経済学の両面から人間の行動を読み解くのが行動経済学です。
いまもっとも注目を集めているこの研究の視点から、日々の生活を見直してみるnoteです。
第4回目は、負けを認めることが勝つための近道、です。

 株式や為替など価格が刻々と変わる投資をしていると、100%勝つってことはあり得ません。個人だろうがプロだろうが、基本的に持っている情報は同じ。それをどう判断するかという知恵比べなので、外れることも当然あります。新型コロナが流行したときには世界的に株価が暴落する場面がありましたが、そうした局面では、どんな知恵もの、どんな投資巧者でも全体の流れに飲み込まれてしまいます。だれしも損はしたくないのですが、損をなくすこともまた不可能なのです。


 億単位の資金を動かす個人投資家に「投資のコツ」を聞いたことがあります。返ってきた答えは意外なものでした。
「損切りできてますか」


 損切りとは、一定程度の損が出たときに、その投資先を見切って売り払うことです。もちろん、その時点で損が確定します。
 人間には儲けよりも損の痛みが2倍大きいという心の特性あることが行動経済学の研究から判明しています。なんとか損を回避したい、なんとか損切りをせずに済ませたいという気持ちが強く働くのです。この気持ちを抑えられるかどうか、投資の成功は、心との闘いにかかっています。
 損切りをしたくないがために、「価格が元に戻るまでじっとがまんしておこう」という行動に出ます。これは塩漬けと呼ばれ、投資家には「なじみ深い」行動です。個人投資家なら定期的に資産の評価をする必要もないので、使う予定のないおカネなら、何年も塩漬けしておくことも可能です。
 しかし、塩漬けしてしまうと、新しい投資先が見つかったときに資金が使えません。急におカネが必要になったならば、より損した状態で換金せねばならないことにもなりかねません。また、損を取り返そうとして、リスクの高い投資に手を出す行動に出ることも、学問的に明らかにされています。


 自分が保有しているモノ、それは株式や為替だけでなく、本や小物、洋服、クルマなど何でも同じですが、甘い評価をしてしまうという傾向もあるのです。たとえば長年乗り続けているクルマを売却した経験をお持ちの方もいるでしょうが、その際、意外なほどの安値が付けられてがっかりしたのではないかと思います。本やCDなどを売るときも同じです。
 塩漬けにした投資先の場合も同じです。塩漬けにしてしまっているうちに悪い意味での愛着が生まれてしまうのです。


 勝つための秘訣がここに隠されています。負けを恐れる必要はありません。トータルな勝ち負けの総額を増やすことが投資の目的であることを改めて確認しましょう。そのためには、勝ちを増やすことと同様に負けの額を減らすことが重要です。勝ちを目指す場合と違って、負けを減らすためには「心との闘い」が入ってくるだけに、ハードルが高いのは間違いありません。付け加えれば、誰も「負け方」の方法を教えてくれません。自分の負けを認めたくないし、ましてや他人に知られたくはないからです。それだけに、損切りの効果は高いのです。


 どうしたらいいか。
 心との闘いを避けるために、心が入り込む余地がないルールを決めてしまって、それを徹底して守ることです。具体的には、投資をした時点で、「これだけ損が出たら売り」と負けた際の売り目標を決めておくのです。そして、どんな状況になっても、それを変えてはいけません。
 株式投資の格言に「見切り千両」という言葉があります。見切る、つまり損切りすることに千両の価値があるという教えです。

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