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お願いだからしなないで【前編】

昨年7月に、妹が【産後うつ】になりました。

私は、人間は動物なので、正常な状態であれば本能が働き、自ら命を絶つことはできないと思っています。しかし、それができてしまう状況というのは、「正常」とは言えない状態であり、必ず誰かの「寄り添い」が必要な状態であると思っています。

わたしが間近で見た「うつ」とは、とても恐ろしいものでした。

2019年7月下旬、妹が出産をしました。入院中妹は「眠れない」というのを
仕切りに口にしていました。元々、「自宅でなければ眠れない」と、いつも言う子だったので、「そのうち慣れるよ。」「早く帰れるといいね。」
などと言いながら、家族でなだめていました。

入院8日目。妹の「眠れない」「帰りたい」という気持ちがピークになりました。まだまともに歩くこともできないのに(出産時、外陰血腫・腟血腫になり手術したので)帰宅なんて・・・と、お医者様は言いましたが、どうしても帰りたい!と押し切り、妹は帰宅することになりました。もちろん赤ちゃんも一緒に。

家に帰ったら、看護師さんに赤ちゃんを預けられる時間もなくなるし、誰かの手助けがあるわけでもないし、それはそれで大変なんだけどなぁ・・・と思いつつ、様子を見ていたわたし。まぁ、すこ〜しずつでも回復しながら、赤ちゃんにも慣れて、うたた寝でもできるようになっていくかな〜と思っていました。

本当に少しずつではあったけど、妹の体は回復に向かっていきました。しかし、精神的にはあまり回復に向かっていない様子で、毎日妹宅を訪れていたわたしは、少し違和感を感じていました。

でも、出産後の母は誰しも疲れているし、髪振り乱して必死だし、神経質にもなりがちです。「もう少ししたら慣れるかな。」と、思いながら見守っていました。しかし妹は、「眠れない」「つらい」「できない」を口にし繰り返すばかり。どんなになだめても同じことを繰り返し訴えてきます。

不安定さがひどい日は、わたしと一緒にいる時以外は、ずっとわたしの携帯が妹からのLINEで鳴っている状態。でも、側から見るとしっかり育児出来ているんです。本人は「できない」と言っているけど、問題は見受けられません。赤ちゃんは清潔で、満腹でよく眠っています。家事もこなしています。

妹も、不安ばかり口にする日もあれば、元気で不安を口にしない日もあります。なんなんだろうこれはと、わたしの違和感は行ったり来たり・・・。「寝てなさすぎて思考回路がおかしくなってるいるのかな?」「少し赤ちゃんと離してみるか!」と思い、赤ちゃんをわたしの家へ連れ帰ってみた日もありましたが、それでも眠れないと夜中にLINEが来る。

そして、退院して2週間が経つ日「なんか落ちていく」「真っ暗な穴の中に落ちてずっと這い上がれない感じ」と、LINEが届き、この文を読んで、わたしはここでやっと「この子うつだ!!」と、確信をもちました。

翌日すぐに産院を受診させ、精神科への紹介状をもらい、精神科の受診予約をしましたが、精神科への最短受診日まで4日間ありました。その間、我が家へ妹と赤ちゃんを引越しさせ、「言っていることを否定しない」「ひとりにしない」を徹底し、叔母やいとこにも頼み、妹と赤ちゃんだけになる時間をなくしました。

その状態でも妹は、「なんでわたしは育児を楽しめないの」「どうしてわたしはこんななの」と、度々泣いていました。

長時間妹と過ごし、妹の記憶力が低下していること、集中力がまるでないことに気がつきました。もっと早く気がつくべきだった!!毎日会っていても
こんなにわかりにくいものなのか!と、猛反省しました。

妹は、どじゃぶりの雨の中を赤ちゃんを連れて散歩に出ようとしたり、通販番組を見てぼろぼろと涙を流したり、夜中に突然目を開けたりしていました。今考えると明らかにおかしいのですが、一日の中のほんの少しの間のことなので、これが「うつ」とは、家族であってもなかなか気が付けないと思います。

産婦人科を産後うつの疑いで受診したことにより、翌日すぐに、市の保健センターから助産師さんが駆け付けてくれました。(病院からの連絡を受けると48時間以内に母子の安否確認をすることになっているそうです。)

助産師さんから、母子が一緒に入院可能な病院はあるが常に満床状態であること。赤ちゃんは体重も増えていて問題ないこと。今すぐ妹を支えられる人はいるのか。もし、姉であるわたしが赤ちゃんを預かることになった場合、どのくらいの期間それが可能か。などの説明、質問がありました。

産婦人科でも、助産師さんにも言われたことですが、まず、母子が危険な状態に至らなかったのは、妹が自分の身に起きていることをなんとか家族に伝えようと必死だったという点。つらい、苦しい、なんか怖い、わたしには育児はできない、母として出来損ない、人間として欠陥品などなど、自分の中だけで完結させず、その感情を少しでも表に出していたことがとてもよかった!ということ。

しかし、残念ながらほとんどのケースで、お母さんはその抱えた【違和感】をひとりで抱え込み、ひとりで怯え、どん底まで落ちていってしまい、赤ちゃんや自らを傷つけてしまったり、通常の生活が出来なくなったり、最悪の場合は命を落とすことも少なくないそうです。

この現実、いったいどうやったら改善できるのだろう・・・。

わたしも子どもを産んだばかりの時はなにかと大変でした。「あの時絶対うつだったよね!」と、友人と話したことも何度かありました。しかし妹のように、【恐ろしい闇に追われる】ような感覚を味わったことは一度もありませんでした。

妹は、一見本当に「正常」でした。赤ちゃんは満腹になるとよく眠る子だったので、手のかからない子どもで助かるわぁと言いながら、周りによく感謝し、自分の置かれている状況を理解できていました。しかし、突然津波のように襲ってくる【とてつもなく恐怖を感じる闇】に怯えてもいました。

妹に闇が押し寄せている最中も、見た目は「正常」です。ただ、いつもより明るい表情が無かったり、口数が減ったりするくらいです。

しかし、闇が去ってほとぼりがさめると、「今朝のあれやばかったー!」
と、言っていました。それを聞いてわたしはやっと「あぁ、あの時そう(闇が来てた)だったんだ」と、感じる程度の出来事。

この経験を踏まえわたしが思ったことは、産後3週間経ってもお母さんの疲労感がひどく、元気が無かったり、自信を持てずにいるようなら、とりあえずお母さんを一度産婦人科へ受診させてもらいたいということです。

産婦人科へ行けば、産後うつのチェックを受けることができます。そして、まわりの人間がどう接するのが適切かのアドバイスももらえます。「あと1週間もすれば1ヶ月健診があるし」なんて思わずに、念のための受診を気軽に勧めてあげてほしい。と、強く強く思いました。

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