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【読書マップ】2022.07 科学的思考、青春記、ときどきネコ

2022年7月の読書マップです。
先月の記事はこちらから。

信仰と科学的思考、ときどきネコ

スタートは島田裕巳「宗教対立がわかると世界史がかわる」(晶文社)
ここからリチャード・ドーキンス「神のいない世界の歩き方 『科学的思考』入門」(ハヤカワ文庫NF)につなげてみます。
「利己的な遺伝子」で知られる生物学者による、聖書・聖典に描かれた神や造物主の存在を徹底的に否定する、なかなか危険な書物。
神の恩寵なき世界で、なぜこれほど多様な生物が存在し、繁栄を遂げているのか。ドーキンス博士ならではの豊かな〈科学的思考〉が語られます。

続いてグレゴリー・J.グバー「『ネコひねり問題』を超一流の科学者たちが全力で考えてみた」(ダイヤモンド社)へ。
高いところからネコを落とすと、くるりと身をひるがえし、無事に着地する…まことしやかに語られるこの伝説、科学的に考察すると実は超難問だった!
何世紀にもわたり当代有数の科学者たちが密かにこの問題に挑み、数々の仮説が出されては消えてゆく。
はては相対性理論までが引き合いに出される、サイエンス好きにも、ネコ好きにも胸踊る一冊。そして絶対にネコは落とさないでください!

ちょっとネコつながりでニア・グールド「21匹のネコがさっくり教えるアート史」(すばる舎)に寄り道。
古代エジプトではネコは神だったのは有名ですが、そこから各時代の美術を猫をモチーフに解説するユニークな本です。

さらに科学的思考で歴史の謎に迫るのが播田安弘「日本史サイエンス弐」(講談社ブルーバックス)
邪馬台国はどこですか? という鉄板のネタから、日露戦争の日本海海戦まで、科学的思考で歴史をとらえると、今までにないものが見えてきます。サイエンスを忘れて神話にしてしまっては、真に歴史から学ぶことはできません。

大隈良典・永田和宏「未来の科学者たちへ」(角川書店)はノーベル賞受賞者の大隈さんと歌人としても名高い永田さんの対談書。
流行を追わず、人のやらないことをやる。そこには純粋な科学の楽しさがあり、それがめぐりめぐって自身と社会を豊かにする。
短歌から永田先生の著書に出会った私ですが、サイエンスへの姿勢もとても尊敬でき、かつて理系学生だった頃にめぐりあえなかったことが悔やまれます。

青春記・発動期

サイエンス・アートの最先端といえばVRやメタバース。
清涼院流水「キャラねっと 愛ドル探偵の事件簿」(角川書店)は、ティーンエイジャー専用のバーチャル交流サイト〈キャラねっと〉上で起こる事件を描く。
アバターやバーチャルアイドル総選挙など、20年近く前に書かれたとは思えない内容に驚かされます。
そして、この作品の後日談といえるのが「2022年2月22日午後2時22分」
本書の刊行後に雑誌「ザ・スニーカー」にて発表された短編で、約束の時間、約束の場所に実際に集まろうという企画が発表されたのだそう。
単行本は刊行時に読んでいたものの、雑誌までチェックしていなかったので、後日清涼院流水さんのホームページ「The BBB」で発表された顛末には本当に驚きました。スーパーネコの日で盛り上がっていた裏で、こんなことが起きていたとは。
様々な物議を醸してきた流水大説さながらの展開、若かったあの頃を思い出しました。

田中圭一「若ゲのいたり」2(角川書店)もKADOKAWAで連載されていた、伝説のゲームクリエーターが語る青春記。
「ゼビウス」や「バーチャファイター」など、あまりゲームに詳しくない私でも知っている有名タイトルばかりで、やはり業界自体が若かった時代の熱気を感じます。先月読んだ「ペンと箸」と同じく、随所に田中圭一さんのキャラを似せて描くテクニックが光ります。

そして先月と同じ流れで藤子不二雄A「トキワ荘青春日記+まんが道」(光文社)
A先生のエッセイを何ヶ月か読んできましたが、「まんが道」をイラストにして再構成された本書が決定版かもしれません。冒頭の高岡から出発する汽車のシーンからして感涙。

中島梓「マンガ青春記」(集英社文庫)は、栗本薫名義で多数の小説を出版した作家による、マンガと共に過ごしたデビュー前からの記録。何十年も前に買ったまま本棚の隅に眠っていたのを発掘しました。
「トキワ荘青春日記」でも描かれている藤子不二雄や手塚治虫作品の名前もあり、またも解説が米澤嘉博さんというのも縁を感じさせます。

岡島二人「珊瑚色ラプソディ」(講談社文庫)も昔買った本。
海外出張から帰ってきた主人公が久々に出会った婚約者、だが何やら様子がおかしい。一緒に沖縄旅行をしていたはずの友人が忽然と消え、周囲の人も誰も彼女を覚えていないという…
沖縄の明るい光景と陰謀渦巻く集落の秘密が見事に描かれています。

最後は島田潤一郎「あしたから出版社」(ちくま文庫)
友人を失い、たったひとり出版社を起業した著者。編集者としての経験もない中、埋もれた良書を復刊する「夏葉社」の存在は、静かに、しかし確実に知られてゆく。
憧れのような理想のような、しかし本当に大丈夫なのかと思ってしまう、不思議な魅力をたたえた出版の世界。


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