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第35回「第1回下田ワーケーション研究会~ワーケーションは変異する(前編)」

  今週の火曜日、第1回下田ワーケーション研究会が開催された(写真は下田市ワーケーションの拠点となることが決まった旧樋村医院)。

 主催は下田市。ワーケーションを全国規模で推し進めている、不動産広告大手LIFULLのプレゼンと、意見交換会がおもな内容で、参加者は官民合わせて16名ほどである。

 そもそもワーケーションとは何なのか。

 ワーク(WORK)とバケーション(VACATION)の造語で、アメリカ生まれ、バケーションを楽しみながら、リゾート地などで仕事もしましょうというものである。

 コロナ禍で、リモートワークを強いられる企業が多くなり、仕事のあり方そのものが問われる時代になっている。大手を中心に、オフィスを分散させるなど、大都市を避ける必要性が生まれて、これまで以上に真剣にワーケーションが考えられるようになったのだ。

 政府でも、菅官房長官から、「ワーケーション」を政策として強く推し進めることが発表された。

 僕が下田でワーケーション事業に関わったのは、昨年の秋からである。ワーケーションで下田を訪れたフリーランスの人たちに、講演したり、ワークショップに参加したりした。

 しかし正直、ワーケーションそのものに、大きな可能性は感じられなかった。事実、LIFULLが運営する下田の宿泊施設『Living anywhere』利用者は、オープン半年間でのべ400人にとどまっている(1日平均2.2人)。

 大企業が地方を拠点に、サテライトオフィスを作り、仕事をするのは、労務管理が解決できれば問題なくできるだろう。しかし、その働き方がトレンドになり、中小も含めて企業がこぞって、地方やリゾートに進出するとは考えにくい。

 また、休むのが苦手な日本人には、ワーケーションなんて無理だという意見も根強い。

 それでも反面、このワーケーションには、関わった人たちを魅了する何かがあることも事実であった。

 今回の研究会の司会を務めるのは、市役所のHさんである。Hさんは総務省からの出向で、三十代の若さで課長の任にあり、ワーケーションを進めてきた張本人だ。彼の構想を、現場サイドで実現化させているのが、ワーケーション事務局のSさんで、Sさんは、これまで地元産業の活性や、空き家バンク事業、移住交流事業も同時に行ってきた。

 昨年までは別部署だった二人の部署が、今年の春に合体し、下田市は、ワーケーションと空き家バンク、移住交流事業や、産業育成、まちづくりなどが、一体化し、より推進力が生まれきている。

 Hさんは言う。

「僕は二年前まで霞が関で働いていました。満員電車に揺られ、深夜まで残業、終電で帰宅する毎日でした。仕事はたしかに国家プロジェクトで大きなものが多かったですが、実際には歯車となって働くばかりで、忙しいのに、どこか空疎な気持ちが心のなかに堆積するような日々でした。ところが下田に来てからこの暮らしが一変したのです!」

 Hさんの目はキラキラしている。

「下田では、定時の5時半で退庁すると、10分後には家にいる。最初のうちは、妻が、あら、あなたどうしたの、なんて、不思議そうな顔をしていました。妻と一緒にいる時間が長くなった。そして仕事帰りに、プロジェクト絡みで、町のいろいろな人たちと飲みニュケーションするようになり、それがとても楽しい。みんな、この町の未来を大変心配している。直接、気持ちが伝わって、仕事に大きな喜びが伴ってきたのです」

 Hさんと飲み会で一緒に飲んだことがある。その時も、参加者のみんなで、大いに激論がかわされ、終了したのは午前3時だった。Hさんは銘焼酎『盛若』(下田の魚に実によく合う、神津島のむぎ焼酎)を一人でラッパ飲みして、挙げ句の果てに正体を失い、誰かに引きずられて帰宅した。

「下田はほんとにいーいところです。しかしもったいないほどに、この町の持つ魅力やプライオリティが生かされず、結果、町は衰退している。これを何とかしたい。そう思ってワーケーション事業を始めると、話が早い。様々な方々の協力を得られて、トントン拍子に進んでいくのです。フットワークがいいんですね。下田のような小さなこの町は。そしていつしか僕自身が、日々の暮らしに、かつては感じられなかった充足感や、やり甲斐を感じるようになってきたのです」

 LIFULLのKさんは、Hさんの話をこんなふうにつないだ。

「下田を始め、日本の地方には課題が山積みです。しかしテクノロジーの力や新しい人材の投入があれば、問題は必ず解決します。当社は、問題解決こそがビジネスチャンスと捉え、ワーケーション事業を推進しているのです」

 中国やインドを始めとするアジア諸国では、ITもAIもLOTもキャッシュレスも、問題解決のツールとして普及し、人々の暮らしを一変させ、経済力をつけてきている。

 ワーケーションとは何なのか?

 これは、日本の整備事業ではないのか。

 リターンが見えにくいのは、社会的インパクト投資事業のせいではないのか(空き家バンクもそうである)。

 目の前のリターンに期待するのではなく、大きな社会変革、構造変革の結果、広く成果があがるものではないのか。

 Hさんは、ワーク&バケーションに留まらない、ワーケーションの展開力を語り始めた。

 

 

 


 

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