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下田最前線⑱僕たちの記念日

 今年も河津桜が咲き始めた(写真)。
 全体的にはまだまだこれからといったところだが、咲き始めがより美しい。原木がある河津町では、今年で河津桜祭りも33回目を迎える。約一ヶ月の祭りの期間中、100万人も来遊客が訪れる一大イベントだ。
 僕たちがこの早咲き桜を知ったのは、20年前である。たまたま下田東急ホテルの優待券が当選し、それならとバレンタインデーのお祝いにこの地を訪れた。
 河津桜は、天城峠を超えて南下すると、ちらほら山の中に見えるようになる。それが河津町まで降りると、数キロにわたって河津川沿いに、見事な濃いピンク色の花を咲かせる。
「2月の中旬で桜って、まだよねえ。一体なんなの?」
 車を運転するK子は、初めて見る河津桜に度肝を抜かれ、僕もまた同様だった。
「伊豆って、やっぱり暖かいのかもよ」
 車の窓を開けて風を入れると、やはりなんだか暖かい。
 僕たちの伊豆旅には、もう一つ大きな目当てがあった。夏に僕が友人と来て見た家が、まだ残っているかということだ。その家が残っていて、K子が気に入れば、引っ越してこようという算段である。
 不動産屋に行くと、件の物件がまだ残っていた。森の中の一軒家に案内してもらうと、庭には黄色い夏みかんがたわわに実をつけていた。一個もいでもらって、K子が口にする。彼女は、体を震わせ森に向かって叫んだ。
「酸っぱーい!でも美味しい!」
 その後、近所の入田浜を見に行った。
 穏やかな海はコバルトブルーに輝いていた。僕たちは夕暮れまでビーチを歩いた。
「どう? 引っ越してくる?」
「大賛成!」
 作家の僕も、画家のK子も、引っ越して、仕事上で特に困ることはなかった。
 そして今や、僕たちの下田暮らしもすっかり板についてきた。
 ハッピーバレンタインデー!
 バレンタインデーは、僕たちにとって、格別な思い出のこもった記念日なのである。

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