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第52回「つながる下田と伊豆太陽農協の取り組み」

 第5次下田市総合計画の審議会がようやく終わった。計6回、20時間近くを費やした。僕も審議委員の一人として出席した。

 この総合計画は、下田市の施策の最上位に当たる。審議された内容は、答申として市に渡し、その後、議会に諮られて正式に施策として実施されることになる。すなわち、今後10年、下田市は、ここで決定された施策に基づいて、動くという、とても重要なものなのだ。

 これまで行われた審議会では、行政側が用意した施策に対して、同意する程度のものであったらしい。

 ところが今回ばかりは、そうはいかなかった。のっけからダメ出しが出された。メンツがよかったのはもちろんだが、施策の主たる柱となるコンセプトが、なかなか定まらなかったのだ。審議委員の面々は、当然のように、なかなか鋭い批判と議論を重ねた。

 そうして何度目かの審議会で、行政側から出された骨幹となるコンセプトが「コネクテッド 下田」であった。

「意味わかんねえなあ」

「どっかで聞いたぞ」

「トヨタがやっているやつ」

 そう、トヨタ自動車が、静岡県の裾野市で手掛けている「コネクテッド・シティ」計画である。あらゆるモノやサービスがつながるIOTのスマートシティのことである。

「実は、パクりました」

 担当者は正直に吐露した。

 方向性はわからんでもない。しかし、パクリはいけない。しかも市民にも伝わりにくい。何かいい、コンセプトになるような言葉はないか。

 審議委員全員が頭を絞った。

 しかしなかなかいい言葉が思いつかない。

 その時、僕はひらめいた。これでも作家だ。言葉を商売にしてきた。

「【つながる下田】は、どうでしょう? コネクテッドをそのまま日本語にしただけですが。人と人がつながる、過去を未来をつなげる。下田という地方と都会をつなげる。つながることで、下田を作り直すのです。とかくみんなが、個別に頑張りがちで、挫折するケースがあまりに多い。もっと様々につながることができれば、この町は、有機的に生まれ変わるはずなのです!」

「いいね」

「いいじゃない」

「つながる下田かあ。うん」

 多くの委員の賛同を得て、毎回審議会で、この「つながる下田」は話題になった。

「つながる下田」に照らし合わせて、個々の施作を検討するのだ。

 そしてつながる下田を実現するには、PDCA(Plan,Do,Dheck,Act)が必然的に欠かせず、できれば、2年後に審議会をもう一度開いて各施作をチェックし、そこで、達成できたもの(◯)、道半ばのもの(△)、うまくいかなかったもの(☓)に仕分けして、☓は実行の中止、△は新たな解決策すなわちActを模索し、○はそのまま進行させる。

 このようにしたらどうだろうと、個人的には意見したものの、審議会の時間オーバーになっていたので、答申のとき、直接市長に進言したが、さて、どうなるかは、今後の市政を見ていくしかあるまい。

 しかし、僕にとって、この「つながる下田」審議会は、審議会の中だけでもつながった。

 これまで面識がなかった漁協のKさんとつながり、オンライン移住相談で、漁業に関連した仕事に就きたいと希望する女性を、漁協に紹介することができたのだ。

 農協のKさんには、農協が様々な農家育成支援を行っていることを聞き、事務所に担当者のOさんを訪ねた。

 Oさんからいただいた資料を元に、一枚のボードに作成した農協の取り組みが、写真のものである(NPO作成)。

「でね、岡崎さん、災害時に農家支援をどう行ったらいいのか、悩んでいるのです。農協だけでは手が足りないし、壊れたハウスを修繕するとか、昨年の台風では、破壊されたわさび田を修復するのは、石が重くて、容易じゃなかった。こうした災害に対して、たとえば、大学生とかの支援を得られないものでしょうか?」

 僕は、この課題を事務所に持ち帰った。うちの代表理事の井田さんは、NPO法人賀茂災害ボランティアコーディネータの会(以下災ボラ)の理事長も兼務しているのだ。

「被災者と、支援者をつなげることが、災ボラの役目ではないですか?伊豆太陽農協やうちもそうですが、災ボラも、伊豆南部の広域で活動しています。とかく縦割りの行政の中で、伊豆太陽農協からの災害支援要請を、災ボラが一元化して、窓口になり、各地の災ボラに支援を要請する。そうすれば縦割りの弊害から逃れられます」

 Oさんや、災ボラのTさんも呼んで、議論は白熱した。どうしたら、スムーズで的確な災害支援体制ができるのか。

 いったん、Oさんは農協に、Tさんのほうでも、あらめて災ボラの幹部全員で話し合うことが確認され、僕の「つなげる下田」は次につながった。

 そして今週、下田市総合教育会議が開かれ、地元伊豆新聞によれば、委員の一人が、教育大綱案についてこう発言したそうである。

「現在、過去、未来といった時間軸や、人と人、活動と活動のつながりを網羅してほしい」

 審議会で生まれた「つながる下田」が、早くも独り歩きを始めたようである。


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