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ちいさな御守のように

「ママぁ、どうしてないてるの?」
TVから流れるニュースを見ながら、いつの間にか涙ぐんでいた。

人気絶頂の中、若手俳優が自ら命を断った、あのニュースだった。演じても歌っても踊っても完璧、MC役もこなせる、爽やかな好青年。
素敵な俳優さんだと長年思ってはいたけど、特別に熱狂的なファンというわけでもなかった。ただ、彼がMCを務める某番組は数年前から大好きだった。世界中の素敵なモノ・珍しいモノを、バイヤーさんたちと探しに出かける、旅のような番組。日々の家事育児に忙殺される平凡な主婦の私は、毎週木曜の夜を心から楽しみにしていた。


何週分も保存してある録画を見返そうとしたら、彼のくしゃっとした笑顔がちらついて、苦しくなって見られなかった。ネット上で負の連鎖が起きているのも嫌だなと思い、ここ数日はSNS等の自分のアカウントをほぼ開かなくなった。私はもともとテレビ番組を好んで見る方でもなく(テレビの前に座ることは1日平均30分以内だと思う)、今まで芸能人のニュースなどは他人事で、一喜一憂したこともない。だけど今回はやけに、胸がかき乱されて、塞ぎ込んで潰れそうで、辛くて悲しい。


彼が自分よりも若かったから?才能に溢れ、今後も期待された人だったから?彼のイメージが、「自殺」とはかけ離れたものだったから?

…正直、自分でも解らない。

何が自死の原因かも不明だし、私達は憶測するしかないのだけれど、「死にたい」程の何かがあった事は間違いない。
自分で自分の命を絶つなんて、自分で人生を終わらせるなんて、ある意味勇気のいることだと思う。
それを「自殺」という選択肢ではなく、「逃げる」とか、「休む」とか、「助けを求める」とか…どうせならそういう方向に、勇気を使って欲しかった。(それが出来なかったからこその、結末なんだろうけど…)

・・・

私達は、身近にいる大切な人を、こんな形で失わないようにするには、どうしたら良いのだろう。社会ではなく、個人にできることはあるのだろうか。私は何の専門家でもプロでも有識者でもないのだけど。

…そんな事をぼんやりと心の中で考えていたら、2歳の娘が心配そうに、私の頭を撫でながら、抱きしめて呟いてくれた。

「マァマ!なかないで!いつも、いつも、だいしゅきだよ」

いつの間にこんな事が言えるようになったのか、驚いた。そしてその時、ふと思った。

私も自分から、「伝える」勇気を持とうと思う。たとえバカみたいでも、恥ずかしくても笑われても。まずは自分から、ただ伝えようと思う。

あなたが大切だよ。
あなたが大好きだよ。
あなたのこと、いつも想ってるからね。
あなたがいてくれるから、私は頑張れるの。
あなたがいてくれるから、私は幸せなんだよ。

私、あなたに出会えて良かった。いつもありがとう。

自分なりの言葉で、行動で、ただただ真っ直ぐに、伝えようと思う。
何度でも、何度でも、大切な相手に伝わるまで。

それがいつか、心のどこかに引っ掛かって、ある日ある時に、思い出してはもらえないだろうか。最悪の事態を思いとどまらせてはくれないだろうか。

普段は身につけていても意識もされない、小さな御守のように。

・・・

私はテレビを消して、娘をぎゅうーと抱きしめた。

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