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南伊豆古道を歩く〜石廊崎ー中木ー入間ー吉田編〜

2022年5月6日。夏休みのようなゴールデンウィークをご縁のあった南伊豆で過ごし、今日から南伊豆古道ロケハンの後半戦が始まる。本日の伊豆半島は無風、凪。あまりにも波がないので、鳥のさえずりだけが伊豆の音として響き渡る。

雨予報だった天気予報と違う朝を迎え、思い立って伊豆半島を南下している。南伊豆は電車がなく、特に南伊豆南西部のバスは路線や時間に限りがあるので、移動は困難が多いのにも関わらず無計画。季節は暖かくなってきたとはいえ不安要素ばかりだ。

石廊崎の城址発掘調査でお世話になっている南史会の小林さんが子浦で民宿をやっているので、ダメ元で連絡したら快くOKいただき宿を確保することができた。しかも石廊崎まで送ってもらう事になった。まずは子浦のいすゞ浜荘へ。

石廊崎までの車中、本日歩く道のアドバイスをもらいながらスケジュールを組み立てる。目標は吉田海岸まで、推定13km、9時間くらいの山歩き&海歩き。吉田海岸に到着したら迎えに来ていただくことになった。

石廊崎〜長津呂歩道〜中木


8:00 発掘調査のお陰で何度も通い、すっかり馴染みとなった石廊崎港に到着。今回のプロジェクトに最も縁の深い役行者(えんのぎょうじゃ)の像にご挨拶をして、まずは石廊崎灯台を目指す。

遊覧船乗り場の脇から石廊崎オーシャンパークへ道があります。

石廊崎オーシャンパークはまだオープンしていない。新緑と混じり一層甘い香りを充満させてるのは、潮風に強く伊豆半島の海岸線によく見られるトベラだ。この季節に花を咲かせるのか。

伊豆半島最南端・石廊崎熊野神社に到着。霞で覆われ、伊豆の島々は見えない。南伊豆も凪。波の音は聞こえない。こんなに静かな石廊崎は初めてだ。

無風なので風車も開店休業。

石廊崎から西へ往く古道はありそうなのだけど、今回のロケハンはまだ先も長い。予定通りの目的地到着を優先し、県道16号線・下田石廊松崎線を左折。しばらく道なりに歩く。

ところが、しばらく往くと道中の脇に山林に入る細い道を発見してしまった。これは歩くしかない。山林には明らかな道が続いていたので、等高線見ずに追いかけた。

しかし、最終的には海に切り立つ崖の上に出たので、今回は諦めて戻ることにした。何度か海の方面に降りると思われる道があったので、現在では、釣り師が利用している道なのかもしれない。また機会を見て再調査したい。

ここで道を見失う

9:30 長津呂遊歩道の入り口に到着。石廊崎方面から歩くとユウスゲ公園、アイアイ岬の手前にある。見晴らしの良い草原と潅木の道は、あまりにものどかすぎて、平和すぎて、夢の中、まるで天国へ続く道を歩いてるようだ。

春らしくワラビやアシタバ、ツワブキなどの山菜が顔を出している。しばらく歩くと展望の良さそうな東屋があったのでここで一休み。

やがて椿の茂った薄暗い森の小道に入ると、四国八十八ヶ所と読める供養塔があった。中木は、文化・文政(1804-1829年)のころ、妻良・子浦とともに風待ち港として最も栄えたと言われている。

ここから厳しい下り坂。泥濘んでいるので足元要注意、足元に注意が向くと青磁の欠片を発見!発掘調査以来、出土物に対して目が行くようになった。

よく見ると周辺にも破片があるので、集めたら復元できるかもしれない。少なくとも生活の道として利用されていたことがよくわかった。

今日はここまで山林では人に出会うことはなかったのだけど、はじめて人の歩いてる音が聞こえてきた。とても嬉しい出会い。今回は二泊三日、テントを持って松崎から石廊崎まで歩いてるそうだ。

道中で出会った人と連絡先を交換するのは初めて。次の再会は一緒に歩く日にしよう。

最後の小さな峠を下ると再び県道16号線に出る。しばらく県道を中木方面へ歩くと、右側に縁が切れた部分があり、集落へ降る道を見つけることができる。

細道を下っていくとまもなく、石切場跡が巨大な口を開けていた。奥深くまで続く秘密基地のように見えるけど、好奇心よりも迫力から来る恐怖が大きかったので入るのは止めておいた。

石切場跡から少し下ると中木の集落が見えてきた。

中木〜入間

中木地区は、1974年の伊豆半島沖地震で最も多くの犠牲があった集落だ。崩落したという岩山の塗り固められた法面の大きさには唖然としてしまう。道の調査をしていくうちに、この地震の影響で崩落してしまった古道の存在に知ったり、いかに激しい地震だったのか想像できる。

穏やかな波止場をぐるっと回り、中木里バス停近くのたみや橋を渡ると南伊豆歩道の案内板がある。石段を上ると宝永軒寺院内へ。六地蔵の脇道を進むと、入間2.9kmの案内標識が見えてきた。

11:00 お墓の合間を登っていく。古い石碑からは天明、寛政と江戸時代の文字を読むことができる。振り返ると中木の集落を一望できる。

まもなく舗装が切れるとジグザグの急峻な上り坂を登ると「入間2.7km」。

案内標識に従い、南伊豆町の木であるウバメガシの林道を更に登る。

急な丸太の坂を上ると、大きな灯籠とベンチのある展望台がある。中木から1番近い山頂付近だ。ここでは休憩せず更に先に進むと石で囲まれた遺跡がある。念仏堂だ。

念仏洞は、岩山をくり抜いた石室で、石仏が入り口に1体、内部に2体が安置されている。昔、航海の安全を祈って土地の老人たちが念仏を唱えた場所だったと伝えられている。

ここから下り。広い道は、稜線トレイルのように一気に走り駆け抜ける。そしてまた駆け上がる。

上がりきると一気に視界が広がった。眩しい。千畳敷が見えてきた。

明るい灌木の中を歩く。アオキやコクサギ、ヤマザクラが多い道だ。途中、足場のない強烈な下り坂、縄地以来かな。雨後に通るには苦労するかもしれない。

山越えの道が穏やかになってくると、やがて入間の集落が見えてきた。

12:00 入間の集落に到着。入間のキャンプ場を右に見て坂を少し上りきると広いバス道に出る。直進が古道か、左折もありえる。現時点では特定できないが、どちらの道からでも南伊豆歩道の中木ー入間コース起終点に到着する。

入間〜吉田

いよいよここからは伊豆半島南西部の秘境へ。山深く、南伊豆歩道の中でも最も高低差があり、歩く難易度が高いと言われている。まずは海底火山が作ったダイナミックな景観・千畳敷を目指す。

ここからハンターもハイカーも注意が必要だ。いっそう気持ちが引き締まる。

シイ、カシ、ヤブツバキが生い茂る照葉樹の森を上る。整備された遊歩道だけど、きつい斜面には虎ロープ付。滑りやすいのでマイペースで一歩ずつ。

視界が開けると再び千畳敷の姿を確認できた。思わず声をあげる。

上りきると舗装された林道に出た。左折して千畳敷方面へ。午後になると風通しが良くなってきた。気持ちいい風が汗を吹き飛ばしてくれる。

比較的新しいと思われる石箇所も見かけるので、車が通行止めになっている理由には説得力がある。

13:30 舗装道路の終点まで行くと案内看板がある。ここから左折、千畳敷までは300m、往復で30分くらい。

笹の小径を抜けると、急な階段なので足元に注意しながら下りる。

海底に降り積もった火山灰などからなる美しい地層が見えてきた。

南伊豆の秘境・千畳敷。見える世界が変わってきた。

千畳敷はその名の通り、平たい岩のテラスが広がっている波に現れた波蝕台だ。かつては石を切り出していたようで、人工的な切り取られて階段のようになっていたりする。

海底遺跡のような日常に見られない不思議な異空間だ。

岬の先端に人が見える。きっと渡船でやってきた釣り人だ。この日の干潮ピークは14:30。ギリギリまで近づいてみよう。

歩いて分かったのだけど干潮と言えど、先端までは地続きではなかった。しかし、ここは決死の大ジャンプで海を飛び越えていく。

声かけたら驚いていた。そして、この辺りは海に沈むからと心配をいただく。本日の釣果は上々だ。

再び案内板まで戻り、舗装道路の脇から照葉樹の山道に入り吉田海岸を目指す。道はイノシシの掘った穴でボコボコと荒れている。暗がりの秘境感。ここまで出会った生物はカナヘビ、オカダトカゲ、サワガニ、アナグマ。

そして危険だと聞いている背中が赤いセアカゴケグモを見かけた。もう少し北部で見かけると聞いたけど南伊豆にもいるのか。通報しなくてはいけないんだっけ?沢沿いに長い登り。残り2.9km。

14:00 束の間の開けた眺望に。吉田浜が見えた。右側は深い谷になっていて丁度尾根を歩く格好だ。一気に広がったカヤの草原をジグザグに下っていく。

それにしても草原に似つかわしくない礫は一体どこからやってきたのだろう。

下りきるとゴロタ石の富戸の浜に到着。富戸の浜には滝があり水が湧いている。

富戸の浜を横断したら右手の岩場から上りはじめ。沢沿いの急な斜面をジグザグと上っていく。

アップダウンの一本道が続く。展望は良いが足を踏み外すと危険な道だ。今日は風が強くなくて良かったが、強風の日は要注意が必要だ。


下りがきついので、太ももに違和感が現れてきた。道は荒々しくなり、イノシシの足跡、おしっこやうんちの臭いがする。今ご対面したらどうしよう。

ヤブツバキの林を抜けると吉田の集落が見えてきた。

防波堤を歩く。ここまで来ればほっと一安心。心も身体も緊張感がほぐれた。

5〜6月に開花するハマヒルガオ

漂着ゴミさえ見かけないキレイな浜。集落にももう一桁の世帯しか残っていないという。もちろん電波もほとんどない。伊豆半島で最も秘境と言えるだろう。

案内板が見えたら吉田方面へ。

南国の雰囲気の草深い参道を往くと、神社の入り口に異形の巨木が現れた。

推定樹齢800年、静岡県の天然記念物・ビャクシンだ。その曲がりくねった枝は今にも動き出しそう。

伊豆石を積み上げた立派な境内に入ると、巨大な岩石が被さるように空間を作っていたり、サイズ感のあるビャクシンやソテツが葉を茂らせ、一言で言うと南国の古代遺跡。沖縄やインドネシアで見た頃あるような独特の雰囲気を醸し出している。

神社前の舗装された細道を辿ると次の集落・妻良(めら)へ続く山道入り口までやってきた。今日はここまで。

石廊崎から吉田まで。9時間13分、12.9km。海あり山あり、南伊豆の秘境。良く歩いた。

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伊豆半島南伊豆の秘境・吉田。実は3名の先輩から「行け!」とレコメンドをいただいていた。なぜ言われたのか当時は?だったけど、今は良くわかる。それぞれ御三方に電話にて報告する。

この後、紹介をいただいた吉田海岸の吉田亭の吉田さんを訪ねる事になるのだが、なんとも美しいドラマが待っていた。2週間後の5月19日に再訪問することになるのだが、またの機会に記録したいと思う。

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