1か月ぶりに好きな人に会いに行った①

結局あの後もハンドリフトは攻略できないままだった。
一度棚から出したパレットを元に戻そうとしたら(まっすぐ押すだけ)ぐらぐらして曲がってしまい、
「まっすぐに入れられないですぅ〜」と社員のおじさんに助けてもらった。

帰りには別の社員らしきおじさんにオレオを頂いた。
仕事でもほとんど話していないのに、
いきなり「独身なの?」と聞かれたり、
家はどの辺なのか聞かれた。


運送会社の男性達はきっと本当に女性が珍しいのだ。


だから特別若くも美人でもないわたしに、
今時コンプライアンスとかハラスメントとかに引っかかりそうなことを平気で聞いてくるんだと思う。
オレオのおじさんも、ロッカーを見て「うちの男性達もみんな独身だよ」と言っていた。
異性に縁がないのはもしかしたらわたしだけではないのかもしれない。

トラックドライバーや倉庫のおじさんなんて日常生活で話すことはなかったからわたしはとても新鮮だけど、
郊外の流通団地に電車に乗って駅から20分以上歩いてやってきて、
重いものもろくに持てないくせに深夜におじさん達に紛れてひとり働き、
休憩室で自分が作ってきたお弁当を食べているアラサー女も、
きっと向こうからしたら今までに見たことのない人種なのかもしれないと思うようになった。

だからどこに行ってもいろんな男性達が気にかけてくれるし、声もかけてくれる。
わたしは事務と接客しか経験がないから、
返事をきちんとするとかニコニコしているしか能が無い。
力仕事では男性にはかなわないし、
困ったら結局助けてもらうのはわたしの方だから、
愛想よくするのは自分のためでもある。
タイミーでも、無言で静かな現場よりちょっと冗談が飛び交うくらいの現場の方が働きやすいし。
異質で非力そうな女がヘラヘラしているから男性達は寄ってくるのだ。
これを自分が美人だからだと勘違いしていたら大火傷してしまう。気をつけなくては。

現にわたしの好きな人は、
毎日おばちゃんまみれの工場で働いている人だから、若くも美人でもない地味なわたしに視線や関心を寄せることはない。
わたしが本当に可愛かったらきっとそんなことはないはずなのだ。
彼に興味を持ってもらうには一体どうすればいいんだろう。全然わからない。 
でも以前のわたしと明らかに違うのは、
週に何回も異性と接する機会を手に入れたことだ。
わたしはきっとそこから学べることがたくさんあるだろう。

わたしはもう2か月前のわたしとは違う!
1か月ぶりに成長したわたしを彼に見せつけてやろうじゃないの!!!


…と意気込んで吐きそうになりながら好きな人のいる工場に来た。

彼は出勤している。
そして更衣室からもうクソ暑い。
今日工場内は絶対に30℃あるって…
生理2日目、2時間しか寝ていない身体には過酷だ。


次回へ続く。