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同人イベントで大爆死した話

こんにちは、Ixyです。

初めて単独で同人イベント、そしてコミックマーケットに出展したときのお話をしようと思います。

初めての原稿

一番最初に僕が同人イベント、いわゆる同人誌即売会(同人誌を配布、販売するイベント)を意識したのは絵を描き始めてから半年くらいだったと思います。当時仲良くしてくださったアニメファンサイトの方から「今度のイベントで出す本にゲストとして1ページ描いてもらえないか」とお誘いを受けました。

そういったお誘いを受けたのはもちろん初めてだったので僕は喜んで参加させていただくことにしました。しかしこれは大変なご迷惑をおかけしてしまう結果となってしまいました。

「DPI」という言葉をご存じでしょうか。解像度と呼ばれるものです。

デジタルデータである画面のドットを1インチの幅の中にどれだけ表現できるかを表す単位なのですが、同人誌の印刷をする場合カラーデータでは300~350dpi、モノクロでは600dpiあたりが推奨されています。

これより低い状態ですと原稿を印刷したときにパソコンで表現されていたものよりもボケたりジャギー(ギザギザになる)がおこってクオリティが大分低くなってしまうのです。

察しがいい方ならもうお気づきになっていると思いますが素人の僕はフォトショップのデフォルトである72dpiで原稿を提出してしまったのです。もちろん先方から苦情が来ましたが当時の僕はそのDPIの概念がよくわからず、あろうことかフォトショップ上で72dpiと表示されていた数値を600dpiといじっただけで再提出しました。

これはどうなるのかというとただただ元の画像を約9倍にしてのっぺりさせただけであり、印刷物には何にも影響ありません。結局僕の初のゲスト原稿はページのすべてが卑猥なものであるかのようなぼかし修正を受けたものとなってしまいました。当時のゲスト原稿依頼者様、大変申し訳ありませんでした。

初の単独同人イベントデビュー

それから数年経ち、売り子(サークル側でお金の受け渡しの手伝いをする)や共同サークルで本を出すなど経験を積んだ僕はついに単独で本を出してみようと思い立ちました。これもまた別の機会にお話をしようと思いますが、その頃にはpixivという絵のSNSでそこそこファンが自分につくようになっており、割とまあ売れるんじゃないかと判断しての行動でした。

さあいきなりコミケだ!という感じではなく、とりあえず雰囲気だけを経験しておこう!と、以前僕が売り子をした事があったサークルさんがよく出展されていた「ぷにケット」というイベントにサークル参加をしてみることにしました。

いろいろと経験者からお話を聞き、どうやら初参加でしかもコミケではない場合は人の出入りなど考えて「20部から多くて50部」くらいがいいのではないか……そういった声が多く、とりあえず印刷代などを計算してみました。

計算してみてびっくり、大赤字です。僕の場合名古屋から東京に行かなければならず、一冊500円で出した場合90部くらい売らないとトントンになりません。僕は強気に100部でチャレンジすることにしました。

結果……、なんと開場10分で完売しました。それはもう大喜びで飛び上がりました。ヒャッホー!利益を考えたら大したことはないのですがもうこりゃコミケやったるしかねえ!と勢いよく参加を決め込みました。

初コミケ参加、そして大爆死へ……

ちょっと記憶違いもあるかもしれませんが、確かぷにケットが秋ぐちで冬のコミケでサークル参加用紙を購入して翌年の夏コミケへの参加だったと思います。いろいろ調べて記入していきましたが最後に出展する「本の題名と何部刷るか」という記入事項があり、ここの予定搬入数を基にサークルの大まかな配置が決められます。(多分)

ここで僕はとんでもない計算で予定搬入数を記入してしまうのです。「うーん、ぷにケで10分で100部売れた……コミケは開場が10時でまあ3時くらいまであるからそうだな……」

よし!3000部刷ろう!

経験者どころか未経験者でも驚き、こう感じたと思います。こいつはアホなんじゃないかと。そうです、アホです。

そして予定搬入数を3000部と記入して提出した場合、何が起こるか。壁です、壁サークルに配置されるのです。壁サークルというのは……コミケは東京ビッグサイトを借りて行われておりまして、その会場の壁際に配置されるサークルの事です。要するに島中(会場の中側)に配置されるサークルより搬入数が多い大手のサークルさんが配置されるのが壁サークル、いわゆる壁サーとよばれるやつです。

コミケに同人誌を出展するサークルはみな島中にて初参加時、いつかはあそこに配置されるぞ!と夢を見る配置、壁サークル。そこに物のわからない小僧がいきなり初参加で壁サークルに参加することになるのです。

また、これはちょっと言い訳というか今後サークル参加を目指す方にとって少し有益な情報になると思うのですが、同人誌の印刷には罠があります。

同人誌は一般的な表紙はカラー、中身モノクロ24Pみたいなものですと100部で大体3~4万円くらいになります。では3000部だといくらになるか。答えは大体25万円いかないくらいです。単純に計算して本来90万円以上かかりそうなものが25万に達しないのです。これじゃあ当時の僕が3000部刷ってしまうのもそりゃあ……無理はないのではないでしょうか。

そしてさらに僕は超強気に本は前頁フルカラー!そして1000円で売ろう!印刷代は50万くらいかかりましたが全部売れれば300万なので理論上は250万儲かります。これはいける!僕は迷わず印刷所に申し込みました。

初コミケ、そして大爆死へ

当日、僕はウキウキしながら会場に到着し、そしていきなり先制パンチを喰らうのです。

な…なん…だこの気合は…

隣です。隣のサークルの凄まじい入れ込み具合です。僕が壁サークルなのでもちろん隣も壁サークルです。7人くらいいてみなハチマキにお祭りのような法被を着て、それでいてスペースには所狭しとポスターやスタンドが並べられてテーブルにはきれいなクロスを敷いて大手デパートの一番売れている総菜屋みたいになっていました。

そして僕のスペースはというと……ポスターはおろかテーブルクロスなども用意しておらず、テーブルに配られていたチラシを敷き、その上に本を乗せてサークル名も裏が白いチラシにマジックでサークル名を書いただけ。

手伝いに来た友達に「あのさ……お前、大丈夫なのこれ?」と聞かれました。僕は会場の天井を見上げるだけでなにも答えれませんでした。

そんな折、隣の黒ぶち眼鏡のハチマキしたおっさんが挨拶してくれました。「いやあ、ウチんとこ。長いこと活動してて壁は初めてなんです!そちらも初めてですか!?いやあ緊張しますね!うんたらかんたら……」

もう僕は脂汗まみれでまともに返答できず、いやまあいろんな意味で初めてですみたいな感じで返しました。ほんと覚えてない。あっという間にコミケが始まり、会場中いきなり拍手が巻き起こります。

「え、なに!?」って思っていたのも束の間、わらわらと人がまばらに入り始めたかと思うといつのまにかあっという間に人間で会場が埋め尽くされました。

「pixivでいつも拝見してます!」そんな声がちらほら聞こえ、幸い最初だけはそこそこ人は来てくれました。でももう1時間もしたらあまり来なくなります。

「そろそろ大手に並んでた人らが回り始めると思うんですがねえ」

隣のサークルの黒ぶち眼鏡がなんか言ってましたがそのわりに相変わらず来る人はまばらです。だらだらと午後2時ごろまでになると、もうとてもじゃないけど3000部さばけないのは明らかでした。

ですがこの時の僕は本当にゲスでした。3000部さばけないにしても……僕のサークルはなんだかんだでpixivで絵を見てくれていたファンが来てくれていたおかげで、ちょくちょくは売れていました。本当に感謝。

しかしどう見ても隣のサークルは100部売れたかどうかくらいだったので僕は心の中で「隣よりマシだ……隣よりマシ……大丈夫、大丈夫だ」とかろうじて精神を保っていました。もうゲスにもほどがありますがこうでもしないと心中どうにもならなかったんです。許してくれ。

そんなこんなで4時前にはほぼほぼサークルの撤収が進んでいて僕も大量の在庫を抱えて混んでいる宅配スペースまでひとつひとつ運んでいきました。もうすごい数です。フルカラーにしたのが災いして一冊のかさが大きく、その分ダンボールの数も尋常ではありません。しかも重い。全部実家に着払いで送りました。何回か在庫ダンボールに囲まれる悪夢にうなされましたが在庫は全部捨てたので今は元気です。

終わってみて、とても苦い経験にはなりましたがこの経験を経て僕は搬入数をきちんと考えれる人間になれました。それ以降、僕は決して無駄な印刷をしない地球にやさしい人間になれたのでした。


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