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ウクライナで弾圧されている人々の生の声(2)前編~政府に拉致され行方不明のウクライナ左翼連合リーダー、ヴァシリイ・ヴォルガ氏インタビューをIWJが全文仮訳! 「民族主義者はテロを隠蔽、内戦を喜んだ」! 2022.6.18

(文・IWJ編集部 文責・岩上安身 2022年6月18日加筆・アップ)

特集 ロシア、ウクライナ侵攻!!

 ウクライナで実際に弾圧に遭う人々の生の声から、ウクライナ社会の抱える問題を明らかにするシリーズ第2弾。前中後編でお届するうちの前編である。
 ウクライナ紛争の停戦実現には、西側各国やマスメディアが流し続ける「ロシア=悪魔の加害者 vs ウクライナ=善なる被害者」という極端に単純化した構図にとどまらず、紛争の根本原因の探求が必須である。ウクライナ社会内部からの声は、そのヒントとなるはずだ。

 今回、ロシアの軍事作戦開始以降、ウクライナ政府に拉致され、行方不明となっているウクライナ左翼連合リーダー、ヴァシリイ・ヴォルガ氏の2018年のインタビューを、IWJが全文仮訳してお届けする。
 インタビュアーのジャーナリスト・社会学者、ハリナ・モクルーシナ氏によれば、ヴォルガ氏は以前から、右翼ナショナリズムの政権を批判したため、自宅の捜索や取り調べ、虚偽の告発をされ、極右「愛国者」から脅迫を受けていた。
 ヴォルガ氏は、2016年に極右民族主義者のネオナチ、アゾフ隊に襲撃されている。この事件は、モクルーシナ氏が別の記事で詳述し、IWJが本記事の(訳注3)でも触れる【号外第29弾】で全文仮訳している。

 ヴォルガ氏と左翼連合の主張は「オリガルヒが支配する経済と統治システムの解体」や「ウクライナの中立」そして「少数民族集中地域の文化的独立」等である。しかし、「極右の悪党たち」が、ウクライナの左翼運動を「脅迫と身体的攻撃で威嚇」し、「政府や警察はこの凶悪行為を奨励」、「裁判所は市民を保護しないよう強要」されていたとモクルーシナ氏はいう。

 ロシア語話者のヴォルガ氏は当初、第二次世界大戦でナチスに協力したステパン・バンデラが率いたウクライナの「民族解放」運動に興味を持ったと語った。そして「真実を伝えるため」、民族解放運動の博物館の開設資金も提供したという。

 しかし、その博物館では、バンデラ主義者のテロは隠蔽された。「真実を言おう」と言うヴォルガ氏に、博物館を開いたウクライナ共和党の議員たちは「これは強力なイデオロギー闘争なのだ」と否定。そして、反ソ連運動リーダーでウクライナ共和党創始者のレフコ・ルキアネンコ氏は、ウクライナで内戦が始まると喜んだという。血を流すことで国家を誕生させるのが、ウクライナ民族主義だというのだ。

 ヴォルガ氏は民族主義者と決別し、権力監視の非政府組織「フロマドスキー・コントロール」(パブリック・コントロール)を設立し、活発に活動した。そこに2014年のオレンジ革命が勃発したのだ。

 詳しくは、記事本文を御覧いただきたい。

 また、シリーズ第1弾も、ぜひ下記から御覧いただきたい。

▲ヴァシリイ・ヴォルガ氏(Wikipedia、Участник:Serge focus、2008年7月29日、Vasiliy Volga interv’u

停戦実現には、「ロシア=悪魔の加害者 vs ウクライナ=善なる被害者」の極端に単純化した構図を脱却し、紛争の根本原因探求が必須! ウクライナ社会内部の声はそのヒントとなる!

 ウクライナで実際に弾圧にあっている人々の生の声を聞くことで、ウクライナ社会の抱える大きな問題の実相を明らかにするシリーズ第2弾である。

 ウクライナ紛争の長期化と戦線拡大を防ぐには、紛争の根本原因の探求が不可欠だ。

 「ロシア=悪魔の加害者 vs ウクライナ=善なる被害者」という極端に単純化した構図のもと、米国を筆頭に西側各国政府、西側メディア、NATO、日本政府、日本のマスメディアが一体となって偏向した情報を流し続けている。

 ロシアは国際法や国連憲章を侵害して、ウクライナに武力侵攻した。しかし、いつまでもその一点のみで足踏みし、複雑な背景や侵攻を決断した原因の探求を怠れば、停戦の具体的な条件を構築することもできず、類似の紛争の反復(ウクライナ紛争はグルジア戦争の反復である)を防ぐこともできず、紛争は長期化し、戦線は拡大していく。現に、ロシア領域でウクライナ軍のテロが確認されている。

 ウクライナ紛争は、欧州で戦われている紛争である。戦闘当事国はウクライナとロシアだが、ウクライナのバックには、武器弾薬を供給する米国とNATOがつき、経済制裁と武器供与(ドローン等)には日本も加わっている。

▲陸上自衛隊のドローン操作訓練(陸上自衛隊第8普通科連隊ホームページより、自衛隊・第8普通科連隊

 「義勇軍」という名目で英国特殊部隊やイスラエル特殊部隊も直接、戦闘に参加しており、時間を紛争準備時期まで遡れば、CIAの秘密工作や国務省・国防総省合同のジャベリンミサイル訓練などで、米国は長期的に深くウクライナに関与し続けてきた。

▲英国陸軍の特殊空挺部隊SASはゼレンスキー大統領の身辺介護に関与しているとされる。写真は軍用自動車イベントに参加した、SAS仕様のランドローバー110(2010年)。(Wikipedia、AlfvanBeem、SAS Land Rover, licence registration ’52 GJ98′

 ウクライナ紛争は、一見すると、地域紛争のひとつのようでありながら、そこに関与するプレーヤーの数の多さ、武器と資金の投入量はケタ違いである。この状況を放置し、プロパガンダに乗って、投入する武器や戦力を際限なく拡大していき、さらには参戦国が拡大していったら、行き着くところは第三次世界大戦だろう。

 第一次世界大戦が、国際連盟とベルサイユ体制を生み、第二世界大戦が国連と冷戦体制、そして、冷戦終了後にNATOの東方拡大を招いたように、このウクライナ紛争が拡大していけば、国際秩序が大きく変わるのは間違いないだろう。

 IWJが再三警鐘を鳴らしているように、ロシアのウクライナ侵攻から始まった動きが、極東に飛び火して、台湾をめぐる米中の対立と連動する可能性もある。

 バイデン大統領は、2022年5月3日、「ロシアとの戦いは、民主主義と中国のような専制主義との戦いの戦線のひとつに過ぎない」と発言したと、『AFP』は伝えている。中国を念頭に置いて、「ロシアとの戦い」を行っている、という発言である。また、『RT』は、「中露に対する『文明の戦い』の最初の『実戦の戦闘』を戦っている」とバイデン大統領の言葉を伝えた。これらの言葉を、日本のマスメディアはほとんど報じていないが、これは重要な発言である。

 「ロシア=悪魔の加害者 vs ウクライナ=善なる被害者」という硬直した構図から脱却し、一刻も早く、停戦を実現するには、紛争の根本原因を探求することが必須である。

 ウクライナ社会内部からの声に耳を傾けることは、そのための、大きなヒントを提供してくれるはずだ。

政府に拉致され行方不明のウクライナ左翼連合リーダー、ヴァシリイ・ヴォルガ氏インタビューをIWJが全文仮訳!

 シリーズの第2弾では、ウクライナ左翼連合リーダー、ヴァシリイ・ヴォルガインタビューを全文仮訳し、ヴァシリイ・ヴォルガ氏の声に耳を傾ける。

 ヴァシリイ・ヴォルガ氏は、ロシアの軍事作戦が始まってから、ウクライナ政府によって拉致され、現在、行方不明になっている。

 以下から、NEW COLD WARのサイトに2018年11月26日に掲載されたヴァシリイ・ヴォルガ氏へのインタビューとなる。

▲ヴァシリイ・ヴォルガ氏インタビューを掲載したNEW COLD WARのサイト、NEW COLD WAR:Участник: Serge focus

ヴォルガ氏は、右翼ナショナリズムの現政権を批判! 自宅が捜索を受け、虚偽の告発をされ、極右「愛国者」から脅迫を受けていた!

 「当サイトで初めて英語で掲載した、ウクライナ左翼連合リーダー、ヴァシリイ・ヴォルガ氏へのインタビューは、独立研究者・ライターのハリナ・モクルーシナ氏(現在、オタワ大学社会学部非常勤講師)が2018年5月に実施したものです。

序文 ハリナ・モクルーシナ(Halyna Mokrushyna)(※訳注1)

 ヴァシリイ・ヴォルガは、ウクライナ政界のベテランで、ウクライナの政党、左翼連合のリーダーである。ウクライナ社会党を離党し、2007年に左翼連合を結成した。ウクライナ社会党は、内部対立で2007年の国政選挙でヴェルボーナ・ラーダ(ウクライナ最高議会)で議席を確保することができなかった。

 ヴォルガは、右翼ナショナリズムにもとづくウクライナの現政権を積極的に批判しているため、治安当局の厳しい監視下に置かれている。つい最近も、11月6日に自宅が捜索され、彼自身がウクライナ保安庁の事務所に呼び出されて取り調べを受け、根拠のない偽りの告発をされた。ヴァシリイ・ヴォルガは、ウクライナの極右の『愛国者』からも脅迫を受けている。

 ポロシェンコ政権に反対する何百人もの政治家が投獄されたり、脅迫されたりしているユーロマイダン後のウクライナの硬直した政治的雰囲気の中で、左翼で反国家主義の立場をとるのは勇気がいることである。ヴァシリイ・ヴォルガは確かにこの勇気をもっている」

▲ウクライナ第5代大統領ペトロ・ポロシェンコ氏(任期2014年6月7日 – 2019年5月20日)。(Wikipedia、Photo Claude TRUONG-NGOC、Petro Porochenko par Claude Truong-Ngoc juin 2014
▲「ユーロ・マイダン革命」における、キエフの独立広場(ユーロ・マイダン)での、政府軍と抗議者の争乱(2014年2月18日)。(Wikipedia、Mstyslav Chernov/Unframe/、unframe/、Petro Porochenko par Claude Truong-Ngoc juin 2014

左翼連合は「オリガルヒが支配する経済と統治システム解体」を目指す!

 ハリナ・モクルーシナ氏の序文は続く。

 「ヴォルガが設立した政党・左翼連合の綱領(※訳注2)は、近代民主社会主義の原則、すなわち、私的所有権の完全な民主化と社会化を通じて社会における資本の支配を克服することにもとづいている。この党の目標は、社会正義の原則が実行され、市民の利益が政党や産業・金融グループ、外国勢力の利益よりも優先される、社会的・人民的国家としてのウクライナを発展させるには、既存の氏族的でオリガルヒが支配する経済と統治システムを解体し、真の民主主義と市民の利益の積極的保護のメカニズムに置き換えることなしには不可能である」

※訳注1)ハリナ・モクルーシナ(Halyna Mokrushyna)氏は、オタワ大学社会学部非常勤教授、オタワ大学社会学・人類学研究科博士課程在籍。現在、ウクライナにおける大粛清の記憶を扱った博士論文を仕上げている。ウクライナ国立科学アカデミー言語学研究所(キエフ)でウクライナ語の博士号、オタワ大学でコミュニケーションの修士号、ウクライナ・リヴィウのイワン・フランコ大学でフランス語とフランス文学の学士号を取得している。ウクライナの現在の政治情勢について幅広く執筆している。「NEW COLD WAR:ウクライナとその周辺」ウェブサイトの寄稿編集者でもある。

▲ハリナ・モクルーシナ氏(同氏フェイスブックより、Halyna Mokrushyna Facebook

※訳注2)現在、左翼連合の綱領を掲載したサイトは「現在メンテナンス中」と表示され、閲覧できないようになっている。

「ウクライナの中立」と「少数民族集中地域の文化的独立」を主張する左翼連合! 「ロシアとは多国間の友好的な関係を回復すべき」!

 「国際的には、(左翼連合が主張しているのは)ウクライナは『複数のベクトル』、すなわち中立を保ち、すべての近隣諸国と良好な関係を発展させるという方針を回復すべきである。ロシアとは多国間の友好的な関係を回復すべきである。

ウクライナは、EU諸国とユーラシア経済連合諸国との間の安全保障と協力の新たな空間づくりに積極的に参加すること。その地理的位置から、ウクライナは欧州とアジアを結ぶ重要な協力の架け橋となりうる。

 国内的には、左翼連合は、文化、民族、言語の多様性という現代的な価値観にもとづいて、ウクライナの平和を回復することを提唱している。民族間、宗教間の対立を煽るような思想には反対し、民族、文化、言語の好みにもとづくあらゆる差別をなくすべきである。

ウクライナの領土に住むすべての民族は、その文化的伝統を自由に維持・発展させることができるはずである。そのため、少数民族が地理的に集中している地域社会には、より広範な文化的独立を認め、地方人民評議会には、その管轄地域内の国家文化政策を決定する権利をより多く与えるべきである」

「極右の悪党たち」が脅迫と身体的攻撃で威嚇し、政府や警察は凶悪行為を奨励、裁判所は市民を保護しないよう強要される!

 「このプログラムは、創設者であるヴァシリイ・ヴォルガの政治的見解を反映している。右翼ナショナリズムが大きな力を持ち、大統領が『一つの言語、一つの信仰、一つの国家』政策を宣言したユーロマイダン後のウクライナ政界では、彼の意見は一般的ではない。

 『脱共産化』に関する反民主的な法律の採択とウクライナ共産党の非合法化の後、ウクライナの左翼運動は、脅迫と直接的な身体攻撃によって左翼活動家を絶えず威嚇する極右の悪党たちによって公共空間と公的政治から追い出されている。

 政府や警察当局は、この凶悪行為に目をつぶり、あるいは積極的に奨励してきた。裁判所は、脅迫、威嚇、暴力から市民を保護する法律を支持しないよう、強要され、脅迫されている。

※この記事はIWJウェブサイトにも掲載(記事リンク(https://iwj.co.jp/wj/open/archives/507304)しています。
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