見出し画像

梅雨の時期に、真冬のLIQUIDROOMライブを思い出してみる。

いやあ、いい音源だ。
自分たちの音源なのに、繰り返し聴いてしまっている。
我々の初のライブ音源「Live at LIQUIDROOM 2020.1.19」をリリースした。

銀河探索ツアーのファイナル公演、
そして喉の手術前ラストライブである、
1月のLIQUIDROOMのライブからメンバー選出の9曲が収録されている。

肝心の1月19日のこと、正直ライブはそこまで覚えていない。
どちらかと言うと、ライブ前の楽屋の雰囲気、
終わってからの打ち上げ、それから手術までの日々の方が鮮明に覚えている。

何せ、相当気張ってた特別な日だった。

喉の手術で2ヶ月歌えなくなるってことはバンド史上ないことで、
(その時思いもしなかったことに、それから5ヶ月経った今でもライブできてないが)
そりゃあもう、自分たちの全てを出し切ろうと腹に決めて臨んでいた。

リハも入念に入り、セットリストもそれまでのツアーの中でかなり洗練されていた。
歌も最後なんだから、絶対とちりたくねえなって思いから、
過剰なほど蜂蜜を舐め、(その頃はプーさんの画像を見るだけでウンザリだった)
加湿する毎日が続いていた。

当日の昼間、LIQUIDROOMのどでかい楽屋に入る。
確か、俺は一番乗りだった。
やることはやったって妙な清々しさがあって、独り占めした楽屋で、
ソファにドカッと腰掛け、好きな音楽を流していた。

ちょっと経つと、メンバーも入ってきて、
一緒にツアーを回ってきたスタッフさんたちもセッティングを終え、楽屋に入ってくる。
ライブが始まるまではずっと基底音のように安心な空気が流れていた。
直近のBIGCATでのライブが思い通りにやれたってのも自信になっていた。

ライブ始まる直前まで、あとはやるだけとどっしり構えていて、
タノも浪越も夢希も、頼もしい目をしていた。
ステージ袖で円陣を組む。
何か冗談を幾つか言った気がするんだけど、その内容は覚えていない。


ライブが始まる。

SEが鳴り、1曲目の「Dive to Mars」
これが後になって思ったことだけど、全くもって硬い!
4人ともどこか気を張っていたのか、いや俺が硬かったのかね。

最初のブロック、「ずっとマイペース」を終えるまでは、まあ正直硬い。
硬いんだけど、なんちゅうか演奏の足並みは揃ってるし、
ガッチリしてる硬さ。緊張感があって、いい感じだった。
反対にガッチリしてない硬さってのがあるんだけど、それについては今語ることじゃないだろう。

むかーしの曲「パノラマパナマタウンのテーマ」をやり、会場の雰囲気が和らぐ。
パノラマパナマタウンのことを観に来てる人たちに対して、
パノラマパナマタウンの自己紹介をするんだから、
これは落語の古典みたいなもんだ。
お客さんも、落語の古典を聴くような安心感を持って、こっちを観てくれていた。

この辺りから、硬くなってた身体も徐々にほぐれはじめ、
その隙間から、「今日が手術前ラストの日なんだ」って実感が水のように染み入ってくる。
前半ラストの曲「SHINKAICHI」
これはもう、後からライブ音源を聴くと完全に夕暮れが見える。
その日LIQUIDROOMにいた何百人が、俺たちも含め、一旦沈んでしまう太陽の最後を見届ける、
そんなムードが充満している。
この曲入れるっちゅうことは、3人満場一致だった。
レーベルの人、全員反対しても絶対入れようぜ。

次のブロックは、「濃い」ゾーン。
比較的、受け入れられるのに時間がかかる「濃い」方のパノラマパナマタウンを詰め込んだ。

「月の裏側」はこのツアーで大変成長した。
元々俺は大好きな曲だったけど、曲の持ってる意味をより一層伝えられるようになったように思う。
何せ「銀河探索」だしな、光ってもらわないと。
「真夜中の虹」大変良かったんだけど、大幅にとちってたところもあり今回は見送った。
時に、記憶の方が良いもの、その一瞬だけに留めておいた方が価値を発揮するものってのはある。
冬にいれたホットココアを夏に飲まないように。

中盤最後の曲「エイリアン」が本当にいい。
4人の思いがこもった演奏が炸裂している。
俺の話だけど、「抱きしめてしまいそうな夕暮れ 何気ない朝の風景」って一節は、ライブを重ねるごとに、
一層自分の言葉になっていったように思う。
当たり前に歌える日常が終わりを迎えようとしていたから。

このアルバム、全体を通して、曲終わりの歓声がすごくいい。
イントロが鳴った瞬間の歓声が、完全にバンドとグルーヴしている。
アルバムは終盤に向けて、何度も愛に包まれる。
教育実習の先生が去っていく、最後の授業のように。
新しく作るアルバムには、全曲歓声を入れるのがいいんじゃないだろうか。

終盤、いよいよ熱を帯びてくる。
フリースタイル 終わりのリバティーリバティー、ここからもうほとんど記憶がない。
メモリアルなことってのは大体覚えていない。
のめり込み方がすごい分、一度抜け出すと戻ることができないんだろう。
音源を聴きながら、こんなことあったなと思い出してくる。

この時は、もう悔いを残したくないって思いと、これだけ同じベクトルを向いた何百人といけるところまでいきたいって思いと、色んなことがあった銀河探索TOURを走馬灯のように思い出していた。
少なくとも、全身麻酔のこととか、入院食のことは1ミリも考えていなかった。

「MOMO」がすごく早い。ギターのハガネを感じる。
チャキーン、チャキーン、と感傷にメスを入れていくような3分弱。
アンコールの「俺ism」もこれまた、ろくに覚えてないんだけど、いい演奏だ。
一人でも転がり落ちてしまいそうなところを、ギリギリのところでまとまっている。
「もう最低って言われたっていいから 他の誰も歩めないストーリーを」の一節は血を注いで歌ったことを覚えている。
大袈裟な表現じゃなく、アンコールの時はもうそんな感じだった。


あっちゅう間に、LIQUIDROOM当日は終わった。
同じように、「Live at LIQUIDROOM 2020.1.19」も聴いてるとあっちゅう間に終わる。

「音源とライブは違うから」よく言われる。これはもう本当に違う。
相撲と野球が違うように、音源とライブは違う。
そんな簡単なことに、痛いほど気づくことができるアルバムじゃないだろうか。

最後の歌、4人の思い、夢希のドラム。
その全てがギリギリのバランスで、1日限りの演奏を成り立たせてる。
どんなコンピュータも再生できない、
とびきりの一回きりを録音してくれていて、本当に良かった。


画像1

https://a-sketch-inc.lnk.to/PANORAMAPANAMATOWN-LIQUIDROOM

あと、副作用として本当にライブがやりたくなる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?