岩田温

政治学者・岩田温です。 著書に『平和の敵 偽りの立憲主義』、『人種差別から読み解く大東…

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政治学者・岩田温です。 著書に『平和の敵 偽りの立憲主義』、『人種差別から読み解く大東亜戦争』、『政治とはなにか』(総和社)『逆説の政治哲学』(ベスト新書)』等。政治哲学が専門で、とりわけ国家論、ナショナリズム論に興味があります。

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  • 岩田温の政治哲学ノート

    政治学者岩田温のノートです。 現代政治、政治哲学、文学、読書論等々を自由に論じます。

最近の記事

「文章の神」が降臨する条件

 数日間、文章を書く仕事に専念していた。大した分量ではなかったのだが、随分と時間がかかってしまった。数年間のうちに筆力が落ちてしまったのではないかと密かに恐怖してもいた。  書けないという気分に陥ると文章は書けない。何故書けないのかを考え始め、焦燥感に駆られ、時間だけが過ぎていく。  文章は何かの契機で突然、書けるようになる。私はこれを「文章の神」と読んでいる。いささか怪しげな表現かもしれないが、文章の神が降霊してこないとまとまった文章は書けない。  自分自身の経験を振

    • 名著の条件

      名著の条件とは何だろうか? 1つの条件として何度も繰り返し読めることを挙げてみたい。勿論、誰かが決めたわけではなく、私の独断と偏見に過ぎない。思いつきといってもよい。 取り敢えず、これを条件に定めてみる。 するとどうしても推理小説は名作になり難い宿命にある。一度読んで犯人が分かってしまうと、二度目に読む際、一度目程の緊張感を持つことが難しいからだ。 松本清張やシャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパンのシリーズも色々読んで、結構好きなのだが、二度目に読む際に一度目の面白

      • 質問という名の踏み絵

        森羅万象について語ることを求める方がいるが、それは無理な要求だ。せいぜいが池上彰氏のような知ったかぶりしか出来ない。だから、私は知らないことは、「知らない」、「分からない」とはっきり申し上げることにしている。また、その手の仕事も引き受けない。 私に対して、「経済についてどう思うのか?」「リフレ派か?」「消費税はどう思うか?」「財務省が悪いんだろう?」等々聞かれても、私は堂々と応える立場にない。この分野の勉強をしていないからだ。大学で経済学を学んだ程度の私が他人に何かを言える

        • 「リベラル」の異常性          追悼式における野次

          高貴だった鈴木貫太郎昭和20年4月12日、アメリカのフランクリン・ルーズヴェルト大統領が急逝した。死因は脳出血といわれている。不況に喘ぐアメリカにおいてニューディール政策と呼ばれる社会主義的政策を打ち出したことでも知られるが、アメリカ憲政史上初めて四選した大統領でもある。そして、日本にとっては大東亜戦争における敵国の最高指導者に他ならなかった。 戦時、アメリカを指導する大統領の死に対し、ヒトラーは「運命は歴史上最大の戦争犯罪人ルーズヴェルトをこの地上より遠ざけた」との声明を発

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          激動する国際情勢と日本の課題

          あるところで講演した速記録に手を加えたものです。 私自身の問題意識を語らせていただきました。 目次 戦後世界と冷戦以後 トランプ大統領の衝撃 移民という難問 移民に苦悩するヨーロッパ コスモポリタンの時代はやってこない 『分断されるアメリカ』の分析 LGBT問題とポリティカル・コレクトネス ポピュリズム 再び移民問題 戦後世界と冷戦以後  現代ほど国際情勢のことを真剣に考えなければならない時代はないと思います。  一九四五年の敗戦以降、日本を取り巻く

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          激動する国際情勢と日本の課題

          書評 湯浅博『全体主義と闘った男 河合栄治郎』産経新聞出版

          湯浅博『全体主義と闘った男 河合栄治郎』(産経新聞出版)の書評です。  最近、改めて「リベラリズム」とは何かについて考え直している。ジョン・ロールズが『正義論』を執筆して以来、「リベラル」の意味が変容してしまったが、ロールズ以前のリベラリズムを再評価すべきではないかと思うのだ。翻って、日本において、現代にも通じうるリベラリストとは誰かを模索していくと、やはり、河合栄治郎に辿り着く。  本書は河合栄治郎の生涯を丁寧に描き出した傑作で、河合栄治郎という一人の愛国的な自由主義者

          書評 湯浅博『全体主義と闘った男 河合栄治郎』産経新聞出版

          大量殺戮の思想 ① 正義が人を殺す瞬間

           平成二十八年七月二十六日午前一時四〇分。神奈川県相模原市緑区の山あいに位置する「津久井やまゆり園」近くに一台の車が急停車し、金髪の男が降り立った。「津久井やまゆり園」とは、約一六〇名の知的障碍者が暮らす施設で、昭和三十九年に建設された。平成十七年からは、社会福祉法人「かながわ共同会」に運営されている。  入所者が寝静まる深夜、降車した金髪の男の名は植松聖。当時、二十六歳だった。五本の刃物、二本のハンマーの入ったバッグを車から取り出し、施設に向かった。植松は男性職員が抵抗す

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          大量殺戮の思想 ① 正義が人を殺す瞬間

          ベストセラーから読み解く平成30年!「シドニー・シェルダン『血族』から読み解く平成三年」

           狂気の独裁者ヒトラーはユダヤ人を蛇蝎の如く嫌っていた。ユダヤ人こそが諸悪の根源であると妄想していたヒトラーは、全てのユダヤ人を抹殺してしまおうと企み、大量殺戮を実行した。ホロコーストである。だが、ヒトラーの反ユダヤ主義は、彼の独創の産物ではなかった。シェークスピアの『ヴェニスの商人』に見られるように、ヨーロッパでは古来より偏見にもとづく反ユダヤ的感情が存在していたのである。  数々のベストセラーを執筆したシドニー・シェルダンの『血族』は、ポーランドの小さなゲットーと呼ばれる

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          ベストセラーから読み解く平成30年!「シドニー・シェル…

          渡部昇一先生に学ぶ読書術

          今回のノートは非常に長編です。18000文字近くあります。お買い得だと思います! 読書の達人渡部昇一に学ぶ  私が幼少期、具体的には、小学校高学年くらいから・中学校・高校を通じて最も影響を受けた人物は、英語学の専門家である渡部昇一先生です。高校の頃まで、渡部先生が出版された多くの本を読んできました。大学生になると、私は政治学を専攻することになりましたから、渡部先生の本から離れ、政治学の専門の本を読むことになりました。今日に至るまで、大学入学以来、渡部昇一先生の本をあまり読

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          ベストセラーから読み解く平成30年 第二回

          「ミネルヴァの梟は黄昏に飛び立つ」と喝破したのは、ドイツ哲学の雄、ヘーゲルだった。ミネルヴァとはローマ神話における知恵の女神であり、梟はミネルヴァの使者とされる。当然、ヘーゲルは、梟が夜行性であるという周知の事実を指摘したかったわけではない。 黄昏に梟が飛び立つのは、その日の意味は黄昏を迎えねば理解できないという意味が込められてる。すなわち、事件が起こった後にならなければ、人々はその事件の真の意義を理解できないということをミネルヴァの梟に喩えたのである。その時代の本質を理解で

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          ベストセラーから読み解く平成30年 第二回

          ベストセラーで読み解く平成30年 第一回 平成元年

           ひとつの時代の黎明は、同時に、ひとつの時代の終焉を意味している。いうまでもなく、平成の御世の始まりは、昭和の御世の終わりでもあった。  昭和六十四年一月七日、午前七時五十五分、小渕恵三官房長官が「天皇陛下は午前六時三十三分、吹上御所にて崩御された」と公表。臨時閣議を経て、八時五十分、竹下登総理が首相謹話を発表した。 陛下の崩御を「哀痛の極み」としながら、謹話では、昭和の御世を次のように振り返っている。 「顧みれば、昭和の時代は、世界的な大恐慌に始まり、悲しむべき大戦の惨禍

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          新刊書の購入方法。あなたはネット派?書店派?

          古本を買う場合はともかく、新刊書を買う際、二つの方法がある。 一つは実際に書店を訪れて購入する方法、もう一つがネットで購入する方法だ。 どちらにもメリット、デメリットがある。 書店を訪れるメリットは、知らなかった本との出合いがあることだ。全く知らなかった本を眼にして、パラパラとページをめくって、興味があれば購入する。アマゾンでも、こういう機会を増やそうと、「この商品を見た後に買っているのは?」「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という具合に本が紹介されてい

          新刊書の購入方法。あなたはネット派?書店派?

          書評・家近良樹『西郷隆盛』(ミネルヴァ書房)

           内村鑑三が名著『代表的日本人』を執筆した際、その筆頭に選んだ人物が西郷隆盛だった。内村は「日本の維新革命は、西郷の革命であった」と指摘し、西郷の偉大さを惜しみなく称賛する。一方、西郷の征韓論を日本帝国主義の源流とし、過激なナショナリズムの象徴と批判する人も少なくない。本書は丹念に資料を読み解きながら、毀誉褒貶(きよほうへん)相半ばする西郷隆盛の実像に迫ろうと試みた労作である。  西郷隆盛に限らず、一人の人間を考察した際、我々はその生涯を貫く人格を安易に選び取り、理解したつも

          書評・家近良樹『西郷隆盛』(ミネルヴァ書房)

          読書の危険 ヒトラーの危険な読書術  【ショペンハウアー、プラトン、ヒトラーから見えてくる読書の危険について】

          読書のすばらしさについて、触れることは多いのですが、今日は逆のことを考えてみたいと思います。読書は、本の読み方によっては、極めて危険な営みにもなりうるということも指摘したいと思います。 恐らく、世界の中で一番有名で、最も売れている読書論の紹介からはじめてみたいと思います。ショーペンハウアーの『読書について』です。これは岩波文庫でも出光文社文庫からも出ています。世界的に有名な読書論で、具体的に調査したわけではないから正確なことは分りませんが、恐らく、最も読まれた読書論の一つでし

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