母の頭は電波塔
去年の今頃に何があったか思いをはせてみると、母方の祖父のお葬式である。
それに伴い、病院に通院するため離れて島根に住んでいた母がもどってきたのだが、あまりに笑顔、元気ハツラツといった具合で親族みんな度肝を抜かれていた。
というのも、私が生まれた時から母は筋金入りの「電波を受けとる人」であったからだ。
母の思い出印象的なものを二つあげよう。
兄の部屋で遊んでいた4才の私が母のもとに行くとりんごをしゃりしゃりと慣れた手つきで剥いていて
「もう少しで剥けるからね」
とほほえんでいた…次の瞬間、母はいきなり立ち上がり、泣きながら仏壇の部屋に駆けていった。そして般若の面が飾ってある仏壇で、般若の面よりおっかない表情をしながら自分の腹に包丁を突きたてていた。
毒電波がまたコンニチハと母の脳内に話かけてきたようだ。
次の思い出は小学校二年生の時である。母のアパート(私は母の病気がよくなるよう一人で暮らしていると聞いていたが、このころ父とは別居をしていた模様。)で二人でテレビを見ていた。
ストレッチマンを熱心に見ていて、ふと母の方を横目で見ると、母親がつばを沢山吐いて倒れていた。
ビックリした私はとりあえず(?)風呂場から洗面器を持ってきて、母の口もとにもっていった。
そうすると、母は口に片方の手の指を全部つっこみ、喉をひっかき回して血とつばを沢山吐いた。
「えらいね…えらいね…」とにこにこと私に微笑みながら血が混じった粘りけのあるつばを洗面器の中にどろどろと吐き出した。
背筋がゾッとした。これは!!死ぬ!!と思った私はそのとき唯一電話番号を覚えていたおばに電話をかけまくった。
(余談だが、その日たまたまおばの近所が常会の花見でなかなか気づいて貰えなかったので50回くらい電話した。私は心底常会の花見という忌々しい行事を恨んだ。)
それからおばが救急車を呼んでくれた。私ははじめてのる救急車にテンションがあがりまくり、ひゅ~イカスじゃん!と言う風に見送る近くの実家にすんでいた祖母にブンブンと手をふりまくっていた…。やれやれ…。
そんな感じで、私の記憶の中の母は常に死にかけである。
それなのに…。
どこかの広告塔のように笑う母が妙に薄気味悪くて、私は祖父の葬儀中なのにソワソワと喪服のスカートの丈を何度も何度も直していた。(パンツが見えてしまわないか気になっていた訳ではない。)
この笑顔は祖父のしてくれた最期の魔法なのか?
否、電波である。
反動は、母が島根に帰ってからすぐにきた。
母から鬼のごとくメールが来まくったのである。
「チョット電話していいかな!?」
最初は何事かと電話をとった。内容を要約すると
「母の兄(私からするとおじさん)が母の実家を乗っ取ろうとしている。兄はキチガイで母に暴言を吐く。実家を悪の兄から救うため、小骨にも協力してほしい」
ということであった。母の兄という人は、いつも旅をしていて、魚をつったり、自分でルアーを作って売ったり、絵を描いたりして生きている人である。
たまにしか地元に帰ってこないので盆と正月くらいしか会えないが、その旅に珍しいお土産をいつも私にくれる。
私は、この人の生き方にとても憧れていた。
そんな人が?
でも話を聞いてみると葬式のあの言動が…とか、あの立ち振舞いが…とかとことこまかに説明されるので(この時の母の記憶力の恐ろしいことよ…)、私も少しうーんそうなのか?という気持ちになってきた。
「そっか。注意してみるよ。お母さんもあまり気にせず、病気を治すことに専念してね」
とかなんとか、調子のいいことをいってその電話を私は無理矢理終わらせてしまった。2時間くらい電話が続いたので、普通にまじで切りたかったのだ。
それがいけなかった…
私が電話で優しい言葉(?)をかけたのをいいことに、彼女の中の電波先輩が幅をきかせてきたのだ。
毎日のようにかかってくる電話。電話に出ないとなぜ電話にでないのかメール…。そ、そりゃ出ないぞ…怖いもん…。
メールの内容もどうにかぼかして、打とうと思ったが、めちゃくちゃ長くてしんどいのでコピペで失礼。
以下、電話した日のメールから
「昨夜は、有り難う❗夕べ寝れんかった! お兄さんのやり方に堪忍袋のおがきれて、
電話北海道(葬式まで母兄は北海道に旅をしていた)に帰れっていっちゃった‼ ヤクザみたいに怒り子どものようにパニックおこしてたよ。見苦しい😵
じつはおばちゃんお兄さんのことが子ども頃から異様に可愛いがって今もかわってんないんよね。だからお兄さんの批判をすると あの子は、優しいの一点張りで おばちゃんの姉妹が言ってもダメなんだ、母さんの実家なんで悲しいけど しんどくなったらバカバカシイもんね✨自分の身体と心が大事だから💕
もうイワシ家(母の実家)からチョッと距離おくね🙆 あとは二人にまかせるよ! 実家に気軽に帰れるようになるかなってチョッと期待したけど残念😒
小骨ちゃんや小骨兄くんやお嫁さんとはいままでどうり、小骨兄くんよりお嫁さんに会ってみたい🎵 おじちゃんが変なこと言ったら母さんに言ってね!
マイペースボチボチやろう🙆🌠」
この時点で大分不味い気がするが…。
このあと私はなり続ける電話をそっとサイレントにして、二、三日、ほっておいた。
「今晩は🌃 寒いね❄ ショックからは復活しつつあるよ!
なるようになるね‼母さんは母さんらしくポジティブライフ🐱 まったり身の丈にあった生活、楽しい🙆
明日は病院先生に聞いてもらって、家の事情はよく理解してもらってるのでね❤
おばちゃん、おじちゃんの言うなりになって判断力がなくなっとってだから、印鑑等気を付けてね‼ お父さんに怒られる等キッパリと言えなければ母さんに連絡してね。
世の中は悪いこと考えてる人結構いるから、警戒も大切‼ 🐰に( `・ω・´)ノ ヨロシクーね❤」
このあと何度も電話や電話出ろメールのあとのついに覚醒した母からのメール
「おはよう‼
イワシ家のおじちゃんは、躁鬱病を患っとってっていうことが昨日の病院の先生との話から解りました。精神病です。
今おじちゃんは躁状態です。
自覚は持っておられません
だからまともな判断力がありませんからね。ゆくゆく鬱状態になります。おばちゃんと一緒にいると良くないので介護の市役所の相談窓口で相談してます。おばちゃん専属のケアマネの方とおばちゃんのお姉さんとどうするか⁉話し合うことになっています。
大事な事なので電話で話そうとしたけど小骨ちゃんが嫌がったのでメールにしました。
小骨ちゃんなりに現実を受け止めて考えて下さいね!
ヨロシクね!」
さてさて、患者が他の人を勝手に診断して、いい方向にいったことがあるか?
そう。今回もどんどん彼女はだんだん皮膚に悪の電波をまといつつ、化け物になってゆくのである。
「母さんから逃げようと距離をおこうとかまわないよ。
優しいばかりの母さんではありません。厳しさも持っています。小骨ちゃんを見てるといろんな嫌な現実や人間関係から逃避しているように感じます。お父さんが家族の人に守られて嫌な現実から逃げようとする人でしたから。
病気や漫画を逃げ場にすれば脅迫症状はひどくなっていきますよ。
母さんは小骨ちゃんの歳には母を病気で無くしおばちゃんと無くなったおじいちゃんとの不仲に悩み仕事も大変で若いので失敗ばかりして悩み、高校生の頃から対人恐怖等の心の不具合の悩みも抱えて毎日頑張っていました。
相談する人もなく守ってくれる人もなく自分の現実と向き合い試練を乗り越えようと努力していました。自慢ではありません、子どもであろうが大人であろうが現実は受け止めないと、人生そんなに甘くない!逃げまくればイワシのおじちゃんようになってしまうよ。明日なにが起こるか誰もわからない。急に身近な人が事故で亡くなることもある。
母さんに反発しょうがどんな態度をとったってかまわない
母さんは不登校を乗り越えひとに優しい小骨をとても自慢だし小骨ちゃんの存在が支えになってるしいまもこれからもそれは変わりません。小骨ちゃんを信じる気持ちと母としての愛情は母さんが死ぬまでかわりません。伝えておきたいのはそれだけです!
あとはあなたに任せます。
あなたの人生ですからね❤」
私が数年前から強迫神経症を患っているのは事実であるが、それは今、果たして関係あるのか!?
ヤバイ人や、ヤバイ職場や学校から逃げることはそんなに悪いことなのか!?つらい!!あまりにも!!
う~む…母の魔獣化は止まらない。
最後についた「♥️」のまじで不気味なことよ…。
さて、続きです。長くなって申し訳ない。
このあと、私は「キレないで冷静になってほしい」というむねをお伝えしました。
「切れてなんていませんよ。
支離滅裂に感じるならそれでよいよ。事情を電話で話し合いたかっただけです。一方的拒絶したのあなたです。
お父さんのこと感情的にいったのではありません。事実です。結婚してましたから。
脅迫症状の時一生懸命相談にのったでしょ恩をきせるつもりはないでけどね‼
メールで気持ちが伝わらないから電話に出てほしいそれだけです!小骨ちゃんがイワシのおばちゃんが好きって言ったからね。」
補足だが、母(イワシ家)と父(小骨家)は離婚していて、父はその後再婚している。
どうでもいいことなのだが、強迫神経症の「強迫」が毎回違っていることが気になる。これは自分が「脅迫」まがいなことをしている…という自己表現的な?アレなのだろうか…。謎はつきない。
さて、はりきって次にいってみよう!
「逃げまくりなさい‼優しいひとのとこばかり探せばよい
せわになったイワシ家からも逃げる
ちょっと怒った母さんからも逃げる‼母さんが病気の時あなたとのお父さんが浮気してえらんだのが新しいお母さんですよ!離婚する時内緒の相手と結婚しょうと知らないお母さんをだまして二人のこどもはやるってお父さんは言いました❗あのことば一生わすれません。母さんは病気が深刻で仕事も辞めて育てられないから悩んで話し合って育ててもらうようにお願いしました。そうしたらすぐに浮気の相手と結婚式をあげてぴっくりして悲しくて、イワシの地を去る決心をしたんです❗
今さらうざい逆ギレとおもってもらってかまやしない❗
イワシのおばちゃんにお小遣いもらったり🐰みてもらったり世話になった人のことからもにげるの?
電話にでてよっていう母親に対応できず。メールでグチグチしか言えない‼
ほんと父さんそっくり‼
困った時だけ母さんもおばちゃんも利用して嫌なことがあったら勝手な理由つけてにげてるみたい。事実をしらせます。兄妹揃ってイワシをみすてるばよいよ‼親戚のにいちゃん可哀想じゃないんかね!
小骨ちゃん良い人って言ってたじゃん。また見捨てるの⁉
自分に帰ってくると思うよ❗ふんこのばか娘
勝手にしなさい‼」
だいぶきてますきてます!電波の波が…。
これは私の意見なのだが、お前の父が浮気していた、や、子供をいらないといった、などは当の本人である子供に言ってはならない言葉のひとつだと思う。
これ、私がまだ高校生くらいだったら自殺してると思うぞ。ぜったい。
さて、いよいよ最後です。
「もうイワシ家にかかわらんで、おばちゃんしんじきっとてじゃけい可哀想。せいぜいお父さんのすねかじって守ってもらえばよいよ‼」
ここまで読んでくれたみなさん、お疲れさまでした。
これを最後に母からは約一年連絡は来ていない。
母の病院に連絡してみたところ、母は通院から、入院になっているようだ。
安心である。一人だと、いつまた電波なアイツが降りてきて、母を死の国に引きずっていってしまうやもわからない。
母の話は事実無根で、母の兄は母の責め立てる電話攻撃に堪えられず、着信拒否にしてしまったらしい。
小骨兄も母からの電話を避けていて、メールで「クソ息子!!」と罵られてショックをうけていた。
それにつけて、最後の唯一の砦であった私もキレてしまって言い返したりしてしまったので、母はお葬式の時のにぎやかな世界から、一人空想の世界へと飲み込まれてしまったのだ。
これが母の絶望につながり、30年、病院に通うことで切れかけていた母の電波受信機の線の、一番細いところをガムテープで何重にも何重にもぐるぐると補強する結果になってしまった。
私の中にも電波受信機はある。
いつもそれを起動させないように必死でスタートボタンを自分の手で隠している。
耐えきれないことがあると、手は自分の涙を拭うためそのボタンから離れてしまう。
「楽になれよこれ押してさ。自分で考えないでいられるぜ俺が脳ミソになってやるさ。」
受信機はいつもそうやって天使のような声で囁く。
私は母からさえも逃げ続ける。
苦しいものから逃げ続ける。
それで駄目人間になってしまっても、私は私の育ててきた思考で生きていたいからである。
母の世界には何が見えているのだろうか。
今も沢山の嫌な声に悩まされているだろうか。
だけど孤独ではない。私は逃げているけれど、あなたから逃げきれないのをわかっていてほしい。
子供だからではない。そんな呪いのようのものじゃない。単純に、母のことが好きだからである。
たくさんの電波が、知らない物語が、母の頭の中に届くのならいっこぐらいは私の物語が届いてもいいのにな~…なんて思います。
……マスかきます。しょ~もない下ネタをいわなければならない電波に汚染されている小骨トモでした。
わんころぴん
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?